「 ファーストパーティデータ 活用がパブリッシャーの競争をよりフェアにする」:アドバタイザー・パーセプションズ ビジネスインテリジェンス担当バイスプレジデント ニコール・ペラン氏

DIGIDAY

シグナルの非推奨をめぐってはこの2年間に多くの変更があり、サードパーティCookieの廃止期限がだらだらと延長されている。そうしたなか、プライバシー問題に関してAppleがとった戦略は、ウォールドガーデンを構築するライバル企業の動きを封じる一撃だった――果たしてマーケティングの歴史のなかで、ついにパブリッシャーが大手ソーシャルプラットフォームとの競争で差を詰めるときが来たのだろうか?

マーケター、メディア企業、エージェンシーを対象に調査を行う独立系調査会社アドバタイザー・パーセプションズ(Advertiser Perceptions)が、ブランドマーケティングのエコシステムに影響を及ぼす問題についてこう問いかけるのも、もっともなことである。

同社のビジネスインテリジェンス担当バイスプレジデントであるニコール・ペラン氏は「当社では、識別子の問題と目前に迫ったCookieの廃止がもたらす未来について、深く掘り下げた質問を調査のなかで投げかけてきた」と説明する。

同氏はバイサイドとセルサイドの両方に対し「サードパーティCookie廃止とモバイル広告ID(MAID)に関する改変を含むいくつかの変更によって、パブリッシャーがウォールドガーデンとの競争のなかで、より公平な立場に立てるようになるだろうとの声に賛成かどうか」を尋ねたという。そして「その結果、過半数がこの意見に賛成と回答した」と述べた。

ペラン氏はDIGIDAYの取材に対し、同社が実施した「プライバシー規制やウォールドガーデンに関するパブリッシャー側の利点について実施した調査結果」についても言及。以下の対談には、明確さを期すために編集が加えられている。

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――御社の調査によると、パブリッシャーがファーストパーティデータをうまく活用することで、ウォールドガーデンに対抗できる可能性があるとのことだが、その理由は何か?

人々がそんなふうに考えているのはとても興味深く、私も最初は驚いた。ウォールドガーデンの規模は非常に大きいからだ。そしてそれが今後変わっていくとは限らない。すべてのパブリッシャーが、FacebookやGoogle、Amazonといった巨大企業と同じ規模のユーザーを持つようには決してならない。しかし調査の回答をみると、今後これらのプラットフォームが持つデータは今よりも少なくなると予想されていることがわかる。

それは、こうした企業があらゆるチャネルのデータをすべて吸い上げることはできなくなるからだ。ユーザーから彼らに直接託されたデータしか、収集できなくなる。そしてその点では、ほかのすべてのパブリッシャーと同じ立場に置かれることになる。つまり、ほかのパブリッシャーは、規模こそ小さいが、より深くより潜在的価値のあるデータを入手できるようになるのだ。

たとえば、料理やスポーツなど、なんらかのカテゴリーのコンテンツを持ったパブリッシャーがあったとしよう。人々は非常に深くそのコンテンツにエンゲージしており、そのコンテンツ自体はジェネリック(一般的)ではない。このようなとき、そのパブリッシャーは自社のオーディエンスについて、たくさんの情報を得るだろう。多くの場合、オーディエンスはサインインするだろうし、あるいは有料のオーディエンスであるかもしれない。そうすれば、たくさんの(個人を特定できる)情報や支払い処理データ、アドレスなども手に入る可能性がある。これは実に貴重なことだ。

だがたとえそれがなくとも――つまり入手できるのが行動データだけだったとしても、Facebookからはわからなかったオーディエンスの関心事を深く理解することができる。この情報は非常にジェネリックなものである可能性がある。たとえ同じ規模のデータを得られなくても、そのデータには深さと価値があるのだ。

――価格設定による影響はどうか? もしパブリッシャーが、より深い関係性を理由にはるかに高いCPMを請求し始めたら、ウェブページ訪問者ひとり当たりのコストは高くなりすぎはしないか?

多くの広告主が、インフレやサプライチェーンの混乱、金利上昇などによる悪影響を受けている。だがROIや有効性に大きな注目が集まっており、今現在の投資が果たして成果を上げているのかどうかを証明する能力が重視されている。つまり、広告効果測定の結果がより厳しいチャネル、すなわち広告に対して売上を上げるのが厳しいところは、予算獲得に苦労するだろう、ということだ。

直接的にROIを示すことができるチャネルには、このような状況下でも投資されている。そこでもしパブリッシャーがたくさんの情報を持っていれば、それは効果測定の面で役に立つといえるだろう。それに、たとえば小売業者と提携するなどして、広告のアトリビューションや投資効果が上がっていることを実証する機会もある。このように、投資とファーストパーティデータの活用は、ターゲティングのためだけではなく、アトリビューションの測定のためでもある。そこは極めて重要なところだ。

――米国のデータプライバシー規制法の見通しは、その考え方にどんな影響を及ぼすか? 誰もがその影響を受けるわけではないのか?

とくに大手の広告主については、(全員が)悪影響を被るわけではないといいたいところだ。彼らはすでにカリフォルニア州のプライバシー規制法へのコンプライアンスに取り組んでおり、GDPR(EU一般データ保護規則)にも対応している。大手広告主や大手パブリッシャーの視点からみると、連邦法によってコンプライアンスがより簡単でわかりやすいものになると思う。こうした動きが現実になれば、中小の広告主やパブリッシャーのほうが、広告展開のやり方を転換する必要に迫られる可能性がでてくるだろう。

――アテンションなどさまざまな測定方法の進歩は、格言にあるように「すべての船を持ち上げる」のに役立つのか?

それは場合による。MMM(マーケティングミックスモデリング)のようなモデリングベースのアプローチをとっている場合、どのようなモデルを使用しているか――どのように開発されたか、モデルの前提は何か――に大きく左右される。自分たちのモデルがクロスチャネルの恩恵を十分に得られていない、という話は常々よく耳にするので、そこが問題である可能性はある。

もし、決定論的ショッピングデータ(正確にユーザーを特定できるデータ)に、クリーンルーム環境でのアクセスを許可している小売業者との連携を想定した話であれば、それは「すべての船を持ち上げる」(好景気な時には企業や個人など誰もが恩恵を受けられる)ものではないでしょう。その連携に関わる当事者で、かつ実際に広告の効果が上がっている「船」だけを持ち上げる。この両方が必要なのだ。

[原文:Advertiser Perceptions’ business intelligence vp: Harnessing first-party data could help level the publisher playing field

Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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