長年、美容分野には広範囲にわたる数多くのトレンドがあった。たとえば、クリスタル注入のスキンケア、10ステップのスキンケアルーティン、クリーンビューティの盛衰などだ。だが、いまスキンケアは基本に戻りつつある。
私は、2021年9月に敏感肌向けの製品の台頭について執筆した。敏感肌は新しい症状ではないが、自宅で強力な角質除去剤を試して敏感肌が悪化している人々がいた。また、3月のこのニュースレターで、TikTokで皮膚バリアの話題の盛り上がっていることと皮膚バリアの健康をサポートする成分として定評のあるセラミドを含有する製品の台頭について取り上げた。
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グリセリンが脚光を浴びている理由
そして、いま注目を浴びているのがグリセリンである。すでに自宅にある多くの製品に使われており、取り立てていうほどの成分ではないにもかかわらず、だ。
2020年にソフトローンチしたZ世代対象のスキンケアブランド、エクスペリメントビューティ(Experiment Beauty)の創業者らはグリセリンのイメージチェンジを図っている。同社は、11月15日に初の局所用スキンケア製品となるスーパーサチュレイテッド(Super Saturated)を発売した。これはグリセリンを30%配合した皮膚バリアをサポートするためのセラムである。これほど高濃度のグリセリンを含んでいるセラムは市場でも唯一のものだ。グリセリンが主要成分と宣伝されることはあまりないが、多くのパーソナルケア製品の容器のラベルを見ればグリセリンが含まれていることに気づくだろう。エクスペリメントビューティの共同創業者兼CEO、リサ・ゲレラ氏は「グリセリンは大部分の保湿製品の基礎だが、通常は5%未満だ」と述べている。
サイエンティフィックスペクテーター(Scientific Spectator)のジャーナル記事によると、グリセリンの配合が25~40%の場合、それは皮膚バリアの保護であり、刺激から保護することができるという。ゲレラ氏は「これは、当社がこのセラムについて主張していることのひとつだ。この配合範囲ではグリセリンだけが提供するユニークなメリットを得ることができる。ヒアルロン酸にはそのようなメリットはない」と語っている。同社がセラムの発売時にメディアやインフルエンサーに送った箱の内側には、アイスブルー色のヌルヌルしたセラムによって肌に異世界の露のような輝きが与えられるために「ベイビーエイリアンの肌、ボトル入り」というコピーがあった。
ヒアルロン酸との比較
2020年、ハーパーズバザー(Harper’s Bazaar)誌は「ヒアルロン酸を誤って使っていないか? 」というタイトルの記事を掲載した。記事では、一部の人々にとってヒアルロン酸は皮膚の炎症や乾燥につながる可能性があるという事実が説明されていた。エクスペリメントビューティの創業者らを含む一部の専門家によると、グリセリンのほうが優れており、また手軽に購入できる代替品であるという。ヒアルロン酸は保湿製品に使用される標準的な成分、または少なくとも主要成分として宣伝される成分である。デジタルトレンド予測エージェンシー、スペイト(Spat)のデータによると、ヒアルロン酸には「スキンケア」と並んで月平均28.9万件の検索があり、スキンケア成分の検索ボリュームで上位にランクされており、主流の成分であることが示されている。
ゲレラ氏は次のように述べている。「我々はグリセリンのほうがヒアルロン酸よりも優れていると考えている。グリセリンが皮膚を刺激することはほとんどんない。ヒアルロン酸に関して発表されている新しい研究では、低分子量のヒアルロン酸が損傷や炎症を引き起こす可能性があることが示唆されている」。
新規ローンチしたスキンケアブランド、ピロートークダーム(PillowtalkDerm)の創業者、シリーヌ・イドリス医師もグリセリンを賞賛している。 「グリセリンの人気はピークに達するだろう。皮膚細胞間の皮膚脂質を健康な状態に保ち、刺激から保護するのに役立つ。強力な成分で、ほかの保湿剤よりもはるかに保湿効果が高い」。
イドリス医師によると、グリセリンは「真皮の奥深くまで浸透して水分を引き上げ、肌をふっくらさせ内側から潤いを与えられる」のだそうだ。
エクスペリメントの共同創業者兼CPOのエミー・ケッチャム氏によると、グリセリンは、2014年に水と香料に次いでスキンケアでもっとも頻繁に使用された3番目の成分だという。1万5654点の化粧品で使用が報告されている。
ケッチャム氏とゲレラ氏が行っていることが他社と一線を画しているのは、主役としてグリセリンを位置付けている点である。ゲレラ氏は、セラムのローンチによりエクスペリメントビューティがグリセリンのナラティブを書き直し、グリセリンは退屈な成分であるとかヒアルロン酸には劣っているというストーリーを書き換えるのに役立つことを望んでいる。実証済みの科学第一の(複数の)成分のストーリーを語り直すことは同社が継続して行っていくことだとゲレラ氏は述べている。
ゲレラ氏によると、グリセリンが多いとべたつくので高い配合で処方するのは容易ではないという。グリセリンの割合が高いもっとも有名な製品は、フェイス用ではないが、おそらくニュートロジーナ(Neutrogena)のグリセリン配合40%のノルウェーフォーミュラ(Norwegian Formula)ハンドクリームだろう。
「あのハンドクリームに効果があるのは、グリセリンのべたつきを抑える厚いバターとワックスと混合されているからだ」とゲレラ氏。「だが、当社の製品のような水ベースのセラムでは、その配合レベルでグリセリンを使いやすくするのは容易ではない」。ボディケアのソフトサービシズ(Soft Services)から最近発売されたスピードソーク(Speed Soak)とも呼ばれる「スキンリハイドレーティングジェル(Skin Rehydrating Gel)」はグリセリンを6%含有していると謳われている。
検索数増加で示される消費者の関心の高さ
TikTokでは、#glycerin というハッシュタグが3400万回再生されている。イドリス医師には、グリセリンの(粒子が細かくて)肌に浸透し保湿する効果に言及して、「スキニーリトルビアッチ」であるグリセリンの優秀さを述べている投稿がある。また、スペイトの最近のデータによると、グリセリンは現在月間平均で 48.6万件検索されており、これは消費者の意識がかなり高いことを示している。検索数は実際には前年比で13.4%減少しているものの、スペイトによると消費者はグリセリン関連の質問をもっと多く検索しているという。「何 + グリセリン」は前年比で5.4%、「(それは)どんな効果 + グリセリン」は5.6%増加しているという。
[原文:Glossy Pop Newsletter: Beauty brands are trying to reinvent glycerin]
SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)