ファッション業界では経営陣の大幅な刷新が起こっている。アディダス(Adidas)、エイソス(Asos)、リーバイス(Levi’s)、マッチスファッション(MatchesFashion)などの企業が近年、新たなCEOを採用した。一方、ザ・リアルリアル(The RealReal)などの企業は、現在、退職するチーフエグゼクティブの後任となるリーダーを探している。
だが、トップレベルの人材の採用は以前にもまして難しくなっており、下位レベルの人材の採用と同様の多くの課題に悩まされるようになっている。パンデミックによってリモートワークが現実のものとなり、ブランドがどこで採用を行い、候補者がどのくらい移転を希望するのかに影響を及ぼしている。その上、ハイレベルな職務への出資はより高くなるため、採用が決定するまでの交渉に数カ月を要することも多い。
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エグゼクティブ人材の採用で効果的な戦術
エグゼクティブ人材紹介会社DHRインターナショナル(DHR International)のマネージングパートナーであるトリシア・ローガン氏は、採用プロセスには60日から6カ月かかり、通常は3カ月前後となっていると述べた。
「クライアントがエグゼクティブの役職の人材を求めて当社に来た際、当社には独自の候補者ネットワークがあるので、すぐに適切な人材が頭に浮かぶことがある」とローガン氏は言う。「でもクライアントに対しては、当社にどこを見てほしいのか、どのようなことを求めているのか、すでにどのような人を考えているのかを尋ねている」。
Tシャツブランドのトゥルークラシック(True Classic)の共同創業者ニック・ベンチュラ氏は、エグゼクティブ人材の採用で彼が気づいたもっとも効果的な戦術は、必要な役職に合った「北極星(指針となる)企業」にいる人々をLinkedIn(リンクトイン)で検索することだと語った。そして彼はみずから紹介のメッセージを送る。54人規模の会社の95%の役職がこの方法で埋まっているという。トゥルークラシックは2019年創業だが、瞬く間に1億5000万ドル(約209億円)のビジネスに成長した。同社はその急成長に対応するため迅速な採用を余儀なくされている。採用するエグゼクティブ職は、CEO、CFO、COO、チーフ・プロダクトオフィサーなどだ。
「候補者は、創業者がみずから連絡してくることを評価しているようだ」とベンチュラ氏は言う。「私はいつもまず先に連絡をする。それが全体的な反応の率に貢献していると確信している」。
プチサイズを着用する女性を対象にしたスタイリングサービス、ショートストーリー(Short Story)の創業者でCEOのイザベラ・サン氏によれば、LinkedIn以外のネットワークも役に立つ。ショートストーリーは2021年に300万ドル(約4.2億円)の創業資金で設立された。
「当社はYコンビネーター(YCombinator)という3500社以上のスタートアップをインキュベートしてきた企業から出資を受けた。新しいポジションを募集する際、私が他社からの紹介や推薦を探すためにまず最初に見に行ったのが、YコンビネーターのオンラインフォーラムやSlackチャンネルだ」。
勤務地がこれまで以上に重要に
ローガン氏は、トップレベルの採用にはいくつかの独特な課題があると言う。ひとつには、企業は若手社員よりも幹部社員とは厳しい競業禁止契約やより複雑な契約を結ぶことが多い。そのため、たとえば新しく採用されたエグゼクティブが、新たな仕事を開始するまでに6〜9カ月待たなければならないこともある。
だが、多くの点で下層で起きている雇用と採用の問題と同じようなことが、トップレベルでも起きている。
「場所がこれまで以上に重要になってきている」とローガン氏は指摘した。「候補者が移転を望まなくなった。以前は候補者が新しい勤務地に移るのはいやだと言えば、それで終わり。新しい候補者を探していた。だがいまはそうではない」。
ローガン氏によれば、より小さなことだが関連する変化として、パンデミック以前は、少なくとも1日、場合によっては数日、実際にオフィスに滞在して会社の様子を目にすることなしにエグゼクティブを採用することは、ほとんど聞いたことがなかったという。しかしパンデミック以降、一度も本人と直接会うことなくトップレベルの人材を採用する企業をローガン氏は目にしている。
技術関連の人材確保が特に困難
B-Corp認証を得ているファッション小売のウルフ&バジャー(Wolf & Badger)の共同創業者でCEOのジョージ・グラハム氏は、テクノロジー業界の競争の激しさから、シニアレベルの開発者などの技術関連の人材を確保するのが特に困難だと語る。
「(B-Corpとしての)当社の評判が高いことで、質の高い人材を引き寄せ続けることができる」とグラハム氏は言う。「しかし素直に現実を見ると、よい人材を採用するのはつねに難しい。特に技術系の職種では、昨年あたりからさらにその傾向が強まっている。最近の大手テック企業のレイオフからすると、今後数カ月で少しは変わるかもしれない」。
候補者のスタンスを見極める
トゥルーレリジョン(True Religion)の人事およびDE&Iシニアバイスプレジデントのテレサ・ワッツ氏は、11月に同社のウィメンズデザインおよびブランドイメージ・シニアバイスプレジデントとしてティナ・ブレイク氏を採用した。ブレイク氏の採用には1年近くかかったという。
「これはまったく新しい役職だ。これまでウィメンズデザインの責任者が当社にはいなかったので」とワッツ氏は言う。「重要な役職を担う人物を迎え入れるのは、大きな賭けだ。その人のビジョンが自分のビジョンと一致しているか、あるいはもっと優れたビジョンを持っているのかを確認しなくてはならない」。
高い役職の人材を採用するということは、候補者にまだ開発中のプロジェクトを秘密裏に見せ、それに対する考えを聞くということを意味することが多い。ときには、秘密保持契約(NDA)の締結が必要になる可能性もある。ワッツ氏によると、トゥルーレリジョンの戦略は、面接の最終段階で、発表やリリースが近いプロジェクトなど、限定された機密性の高いプロジェクトだけを候補者に見せるというものだ。
開発中のプロジェクトを候補者に見せることは有益だ。ワッツ氏によると、トゥルーレリジョンは面接の過程でティナ・ブレイク氏に、当時未発表だった、恵まれない地域のための奨学金基金を見せた(この基金は、その後10月に展開した)。ブレイク氏の熱意とプログラムを改善する提案は、トゥルーレリジョンが候補者に求めていたもうひとつのポイントである、多様性に対するコミットメントがブレイク氏にはあるということをワッツ氏に示した。
結局のところ、あらゆるレベルにおいて採用が以前よりも難しくなっていると、ワッツ氏は言う。
「候補者には、自分が何をするか、あるいは何をしないかについて、強いスタンスがある」と彼女は言う。「そのあたりに対処することを学ぶしかない」。
[原文:Fashion Briefing: Recruiting executive talent has never been harder]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)