Appleは10月24日、「iOS 16.1」の公開に合わせて「SKAdNetwork 4.0(SKAN 4)」をひそかにリリースした。これはプライバシーを重視したキャンペーン測定フレームワーク「SKAN」の最新バージョンで、モバイルアプリ開発者とマーケターの両方に作業の効率化をもたらす重要な改善が行われている。
Appleが2018年に初めてリリースしたSKANは、ユーザーのプライバシーを強化しながら、ビジネスの成長に必要なデータをマーケターに提供することを目指したものだ。この目標を実現するため、SKANはユーザーレベルやデバイスレベルのデータを一切公開することなく、コンバージョンデータを広告主に提供している。
SKAN 4で実施されたいくつかの重要なアップデートは、モバイルマーケティングキャンペーンのパフォーマンスを測定しようとする企業に、このフレームワークのアクセス性と利便性の向上を約束するものだ。そこで米DIGIDAYは、SKAN 4がモバイルアプリのマーケティングや測定にどう影響する可能性があるのか、複数の専門家に話を聞いた。
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重要な数字
- SKAdNetworkは、2018年に最初のバージョンがリリースされたあと、2020年と2021年に新たなバージョンが展開された(SKAN 4を含むすべてのバージョンのリリースノートは、Appleの開発者向けサイトで公開されている)。
- SKANはリリース以来、モバイルアプリのマーケティングおよび測定用ツールとしてそれなりに普及しているが、あらゆる場所で利用されているわけではない。「パブリッシャーサイドでは、誰もがさまざまな広告ベンダーのSKAN IDを利用して、自社アプリ内で広告を配信している」と、モバイルゲームコンサルタントのドム・デイビス氏はいう。「ユーザー獲得に関していえば、SKANアトリビューションを利用するアドネットワークに振り向けられている支出の割合は、75%程度だと思う」。
- AppleがSKANのアップデート版をまもなく公開すると発表したのは、2022年6月初めのワールドワイド・ディベロッパー・カンファレンス(Worldwide Developers Conference)でのことだった。それ以来、SKAN 4のリリースが期待されていたが、「iOS 16」が9月12日に初めてリリースされたときには公開されなかったため、一部で驚きの声が上がっていた。
過去のバージョンの問題点
プライバシーの向上は、ユーザーにとっては間違いなく良いことだが、開発者にとってはそうでもない。実際、SKANはモバイルアプリ開発の現場で多くの採用企業を獲得するのに苦戦している。マーケターのなかには、過去のバージョンのSKANでは行動に必要な情報が十分に得られないとして、不満を示す人たちもいる。
「大半の顧客はいまでも、現在のSKANでレポート機能や測定機能がどの程度使えるのか見極めようとしている段階だ」と、モバイル測定企業のアジャスト(Adjust)で最高製品責任者を務めるケイティ・マディング氏は話す。
また、ツールの複雑さが原因でSKANを試すことに躊躇している顧客もまだ存在していると、マディング氏はいう。AppleがSKAN 4で改善に取り組んだ背景には、一部の人々の懐疑的な見方が大きく影響しているのかもしれない。
マディング氏は「SKAN 3」について、次のように述べている。「現時点では問題があまりに多く、測定データのようなものもないため、この新しいフレームワークへの移行を顧客に促すインセンティブがない。もちろん、Appleが挑戦状を叩きつけて『みんな、今すぐやるんだ』とでもいえば、話は別だろうが」。
主な変更点
SKANの最新版には、マーケターがこのツールをより魅力的に感じる可能性がある3つの大きな改善点が含まれていると、専門家らは指摘する。
- キャンペーン測定:簡単にいえば、SKAN 4のアップデートのおかげで、どのキャンペーンが質の高いユーザーをアプリに誘導できているのかを、マーケターはより細かく把握できるようになる。過去のバージョンのSKANでは、キャンペーンを識別するのに0~99のキャンペーンID番号を利用するしかなかったが、SKAN 4では「ソースID」と呼ばれる機能が追加され、各キャンペーンに 4桁の識別子を割り当てられるようになった。これにより、キャンペーンID番号は100しかないが、1万を超えるIDの組み合わせが可能になっている。
- コンバージョン値:SKAN 4では、アプリ内エンゲージメントの質、すなわちユーザーが実際に購入を行ったり、他のユーザーに購入を促したりしたかどうかを測定するためのオプションが強化された。マーケターは、コンバージョン値を低、中、高のいずれかの貢献度に分類できるため、特定のユーザーの値を把握できる機会が増えることになる。
- ウェブのサポート:SKAN 4ではウェブからアプリへのアトリビューションが改善され、従来のウェブブラウザでの広告がアプリ内エンゲージメントにどうつながっているのかを、より細かく把握できるようになった。アプリとウェブの両方に広告インベントリー(在庫)を持つ企業は、複数のチャネルをまたいだアトリビューションの分析が容易になる。「これまでのバージョンのSKANは、この機能をまったくサポートしていなかった」と、マディング氏は述べている。
(マディング氏はこちらのブログ記事で、今回の改善を技術面から詳しく解説している。)
SKANの未来
以上のような改善にもかかわらず、SKAN 4はいまも完全にはほど遠い状態だ。また、モバイルアプリ開発に携わる開発者やマーケターの作業が楽になる可能性はあるものの、ほとんどの人にとって、今回の改善はごくわずかな変化でしかない。
「(今回の改善は)いわば舞台裏での変化だ」と、デイビス氏はいう。「我々はSKAdNetworkの問題を把握しており、その欠点をすでに自社のモデルに織り込んでいるので、これを利用して(広告を)購入することにほとんど問題はない。現時点では、新たに登場した機能はどれも、私たちを楽にしてくれるものにすぎない」。
業界がSKAN 4に適応するにつれて、今後さらなるアッデートや変更がこのフレームワークで実施されるとデイビス氏は予想しているが、近いうちに大きな変化が起こることはないと考えている。
「これからも取り組みは継続され、絶えず小さな改良が行われるだろう。だが、すでに最悪の事態は抜け出していると思う。現時点でうまくいっているのだから、あとは洗練させていくだけだ」と、デイビス氏は語った。
[原文:Why Apple’s SKAdNetwork 4.0 release could affect mobile app measurement]
Alexander Lee(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)