コクってなんですか?
コーヒーなんかの味を表すのに「コク」とか「キレ」とかいう。
この「コク」ってなんだろう。どんな味のこと?
詳しい人に聞きに行きました。
聞いたことはあるけどわからない味「コク」
コーヒーの味には「苦味」「酸味」「甘味」などの他に「コク」とか「キレ」という表現がある。
「苦味」とか「甘味」なんかは分かるのだけれど、「コク」とか「キレ」って考えてみるとわからなくないか。
「あなたの作ったこの焼きそば、深いコクとキレがあるわね」なんて言われても褒められているのかいまいちわからないだろう。そもそもコーヒー以外であまり使われているのを聞かない。
「コク」と「キレ」について、コーヒーが好きすぎて、今ではコーヒー豆の焙煎と販売をしている八ヶ岳珈琲研究所の岡本さんに聞いた。
岡本 紳吾
東京表参道でweb制作会社を経営してたが、いろいろあって会社を長野県茅野市に、事務所を隣の原村に移転。コーヒーの焙煎を本格的に始め、これまでの制作スキルを生かして豆売りECを開始。
八ヶ岳珈琲研究所:https://h.coffee/
友だちの岡本さんが長野でコーヒーの研究所をはじめたというので来てみたかった、というのが本当の理由でもある。
そんな岡本さんに聞いた。
岡本さん、コーヒーの「コク」とか「キレ」って具体的にどういう味のことなんですか?
岡本)コクですか。
安藤)何味なんです、コクって。
岡本)言われてみればわかんないですね。
岡本)いちおうコーヒーの味には評価基準があって、スペシャリティーコーヒー協会というところによると「フレグランス・アロマ」「フレーバー」「酸味」「ボディ」などがあるんですが「コク」は、しいていえば「ボディ」に近いか、含まれるのではと思うんですよね。
安藤)コクっていう評価基準はないんですね。
岡本)僕の知る限りではないですね。ミルクで割ったらコクが出るんですが、そういうことではないですもんね。
安藤)あ!確かに!ミルクで割ると出るのがコクっていうのは、僕らコーヒーしろうと人口からするとかなり分かりやすい説明ではあります。
岡本)ミルクのコクって油分だと思うんですよね。だから割るミルクが濃いとコクも増します。コーヒー単体だと、味の濃さとか苦味みたいなものを「コク」と言う人もいるかもしれないですね。
コクを試飲してみる
岡本)僕が考える「コク」のある豆を選んでみたので、ちょっと味見してみましょうか。
岡本)元の豆はまったく同じものなんですが、焙煎を変えています。ドリップだと淹れ方で味が変わっちゃうので今回はカッピングというのをやってみましょう。豆自体の味を客観的に測るやり方です。
岡本)一つは標準的な焼き方で、もう一つは「コク」を意識して焼いてあります。まずは挽いた豆の香りをどうぞ。
安藤)これは、どちらもいい香りです、としかいいようがないですね。香りではコクはわからないですよね。
岡本)まあそうですね。これにお湯を注いで4分くらい待ちます。
安藤)フィルターとか通さずにそのまま注いじゃうんですね。
岡本)そうです。4分経ったら上澄みの豆とアクだけを丁寧に取り除きます。
岡本)これを順番に少量だけスプーンに取ります。この時にフレグランスを感じてください。
安藤)取りました。フレグランスも感じました(ほんとか)。
岡本)では「ジュ!」
安藤)え?
ワインをテイスティングするときにゾゾゾーって音を立てるのを見たことがあるけれど、同じ仕組みだろうか。
で、味はどうなの。
岡本)どうですか、違いがわかりますか。
岡本さんの言うように二つの間に違いはある。違いはあるのだけれど、その違いを言葉にするのが難しいのだ。しいて言えば一つ目の方が苦い?ような…気もするけど、そんな浅い表現をしたら奥から海原雄山が出てきて怒られかねない。
岡本)味の言語化については世界共通でこういったフレーバーホイールというのがあります。例えば「フルーティー」の中にもいろいろな表現があって、これを使うと自分の感覚を言語化していくことができるんですが
まってくれこれはやばい。
わからないところを放置したら授業がどんどん進んじゃって取り返しがつかなくなることがあるだろう。高校の数学でよく味わった感覚である。塾に行きたい。
安藤)でも僕、いま吸ったコーヒーをこれで指し示せって言われてもできないですよ。
岡本)できないですよね。では主観でいいので、どっちが好きでしたか。
安藤)個人的な好みでいくと後者の方が好きなんですが、苦味は前者の方が強いかなと。
岡本)なるほど。前者は「コク」を意識したつもりなんです。苦味として感じられる部分を強くしています。
安藤)……(先に言ってほしい。後者が好きって言ってしまったじゃないか)。
やはりコーヒーの味について聞きに来るためには、それなりの知識と経験が必要だったのかもしれない。僕はずっと前に喫茶店をやっていたのだけれど、スーパーで適当な豆買って来てた。
安藤)「キレ」についてはどうでしょう(ごまかした)。
岡本)これも定義が難しいですね。苦味とか甘味とか、後に残る味がどのくらい伸びるか。この余韻が長い方がいいと言われているんですが、逆に余韻がスパッと引くのがいわゆる「キレ」のあるコーヒーなのかなと。
安藤)余韻がスパッと切れるのがキレっていうのはコクに比べてわかりやすいですね。0か1か、なので。
岡本)そうですね。対してコクっていうのは本当に人によって感じ方が違うので言語化しにくいと思います。僕は苦味とか甘味とか、うま味のような味の強さ、しいていえば「ボディ」に入る感覚なのかなと思うんですが、それだって明確じゃないから。
安藤)振り出しに戻ってきた気がしますね。
コクのある豆をください
つまり「コクがあってキレのあるコーヒー」というのは「味に強い印象があって、飲み口が常に新鮮なコーヒー」ということなのかもしれない。かもしれないし、それはただ表現を他の表現で置き換えただけなのかもしれない。わからない。
最後に岡本さんに「コク」重視で豆を選んで焙煎してもらった。
安藤)コクがある、っていうのを売りにしてるコーヒー豆もあるんですか。
岡本)生豆の状態ではあまり聞かないですね。僕は同業他社の文句は言わないというのをモットーにしているので言わないですが、炭火焙煎ならではのコク、とか聞くとほんとに?と思ったりはします。
岡本)焙煎したてのコーヒーが美味いと思われがちですが、実は少しだけ置いた方が美味しくなるものもあるんです。この豆がそう。でも香りは日が経つにつれて消えてしまうので、できるだけ早めに、1か月くらいで飲み切ってください。
コーヒーの味や香りを左右する要素はいろいろありすぎる。なんとなくわかってはいたが、一言で「コクがあるよね」とか言い切れない世界なんだな、ということだけはわかりました。
結局コクとはなんだったのか
コーヒーに詳しい岡本さんにいろいろ聞いても「コク」とは、という疑問に単純な回答はなさそうだった。「美味しいと思う味の強さ」と言えるのかもしれない。
でも「うま味」とかだって明確に言語化はできていないだろう。人間の味覚なんてそういうものなのだ。
一つだけわかったことは、コーヒーは凝りだすとやばい、ということでした。