奄美大島の高千穂神社で間違い電話の話を聞く

デイリーポータルZ

僕は宮崎県の高千穂町に鎮座する神社で日々奉仕* をしている。

ある日のこと、参拝にお伺いしますと連絡をいただいていた方が約束の時間になっても現れなかった。電話をかけてみると「先ほどはありがとうございました」とのこと。訳も分からないままに電話を切った。

調べてみると、鹿児島県の奄美市にも「高千穂神社」があることが分かった。そちらと混同して予約の電話がかかってきたのだろう。霊的な話かと思いきや純然たる間違い電話だったのである。

こういうことが何度も繰り返されると奄美大島への興味も湧いてくるというもので、話を聞きに行ってきました。

* 編集注:神社で働いていること

高千穂と奄美は東京大阪間より遠い

宮崎県の高千穂町から奄美大島までの距離は500kmほど。今回は鹿児島空港から飛行機で向かったので片道で4時間30分以上の長旅となった。間違い電話がかかってくるには遠すぎる。同じ九州でも東京と大阪より離れているのだ。

見づらい地図ですが遠さを感じてください。© OpenStreetMap
鹿児島空港には屋久杉が展示されていた。

旅行慣れしていないので出発の数日前に気づいたことだが、9月の奄美は台風が近づくことが多いので気をつけなければならない。今回の参詣旅行は台風12号の接近とバッティングしてしまったものの、西側にそれてくれたおかげで少しも影響を受けなかった。

鹿児島空港から飛行機に乗った。周りの旅客の多くは「いまからバカンスを楽しみます!」といった風情で楽しそうにお喋りをしている。まさに台風なんてどこ吹く風、頼もしいじゃないか。こちらまで柄にもなくウキウキしてくる。まもなく離陸。

宮崎の高千穂神社はこんなところ 

高千穂神社拝殿

奄美大島に着陸する前に宮崎県の高千穂神社の紹介をしておきたい。奄美大島の高千穂神社と混同しないためにも要点を抑えておこう。

宮崎県の高千穂神社は県北部に鎮座する神社で創建は約1,900年前とも伝えられており、平安時代の歴史書『続日本後紀』にも「高智保皇神」としてその名が残る。 

銅板の鳥居
夫婦杉。カップルが手を繋いで木の周りを歩く姿がよく見られる。

鎌倉時代には源頼朝の代参で畠山重忠が参拝し、その際に奉納した鉄製の狛犬は国の重要文化財となっている。
境内には畠山重忠が手植えしたとされる樹齢800年を超える「秩父杉」がそびえ立っており、他には2本の杉の根元が繋がった夫婦杉なども有名である。 

これ以上なくストレートな観光地

すぐ近くには真名井の滝で有名な高千穂峡がある。車で5分の距離とは言え高低差が激しいので高千穂神社から歩いて往復するのは中々たいへんで、「もっと気軽に行き来できると思ってました。高千穂峡まで戻るのはしんどいです。バスとかないんですか。」と弱音を漏らす旅行客も多い。

奄美大島に上陸、みそぐ

さて、鹿児島空港から奄美空港までは1時間ほどだった。外に出てみると痛さを感じるような陽が射していて暑い。京都の青少年科学センターにある砂漠の暑さが体験できる部屋のことを思い出す。

空港近くのレンタカー屋で車が用意されるのを待っていると、地元住民とおぼしき軽装の女性にこう話しかけられた。

「海に入るなら今日がいいですよ」

台風の接近で近々天候が荒れるということを教えてくれたのだろう。それはそうとして、自分で言うのもなんだが今回の旅行は冴えない男の二人旅である。海になんて入りそうもないペアなのになんでそんなアドバイスをしてもらえたのか。…これは啓示だ。そう思った。本気で。

郷に従い参拝の前に海に入ることに決めた。いっちょ禊(みそぎ)だ。

奄美の海…
めっちゃきれい!

高千穂神社以外の情報をあまり仕入れずに来たものだから、海が綺麗すぎてうっかり感動してしまった。奄美は暑いとか海が綺麗とか当たり前のことを書くのも気が引けるが、書かざるを得ない説得力と迫力があるのだ。
 

しっかり準備体操して
ざぶん。とんでもない逆光でシルエットクイズみたいになる。答え:みそぎ

海はあたたかくて気持ちがよかった。 

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奄美の高千穂神社を参拝する

こちらの高千穂神社は奄美市中心部の名瀬に鎮座する。徒歩圏内には飲食店を中心とする店舗がいくつもあり、想像していたより都会だというのが第一印象。

向かって左側の車道を上がっていくと駐車場がある

鳥居の前には堂々とした金文字で「高千穂神社」とあり、ついにやってきたのだとドキドキする。宮崎県の高千穂神社は鬱蒼とした木々が特徴だが、それとは対照的に空の青さを味わうことのできる佇まいである。 

かっこいい植物が生えている
手水舎は改築されたばかりとのことで、自動給水のハイテク仕様
丁寧に作られた社報が掲示されていた

境内に入りざっと周りを見渡すと宮崎県の高千穂神社と違うところばかりで面白かった。手水舎は屋内に入ると給水が始まる未来的な作りだし、あちこちに知らない植物が生えている。掲示板には祭典の意義などを詳しく説明する社報が張り出されていた(宮崎のほうにはない)。 

神職さんに間違い電話について聞く

奄美市の高千穂神社拝殿

社務所に神職さんがいらっしゃったので、神前にて玉串を捧げてお参りさせてもらうことにした。お祓いを受けるには服装が派手だったので少し落ち着いた色のものを羽織って拝殿の中に入ると、外で掃除をしていた別の方が扇風機をつけてくれた。お心遣いがありがたい。

殿内での参拝を終えたのち、少しお時間をいただいて神職さんに話を聞いてみた。果たして間違い電話は掛かってきているのか。

 

――実はわたし宮崎県の高千穂町で神職をしておりまして、こちらの神社宛の電話がよく掛かってくるんですよ

「はい。当社の方にも掛かってきます。宮崎県の高千穂神社さんと混同されている方のお尋ねごともありますね。」

――やっぱりそうですよね!

「夫婦杉はどこですかと聞かれることもよくありまして、それは宮崎県の高千穂神社ですと説明しています。」

――よく知っていただいてありがとうございます笑

「奄美群島にはいくつか高千穂神社がありまして、当社の場合はそちら宛の電話もかかってきますね。参道にいますと言われて外に出てみると誰もいなかったり。」

――高千穂神社宛の間違い電話をいちばん集めているのかもしれませんね

「ちなみに私は宮崎県の日之影町出身(高千穂の隣町)でして、高千穂町の高千穂神社にもお参りしたことがあります。」

――えっ、日之影のご出身なんですか?!すぐ隣じゃないですか!!どうして奄美にいらっしゃるんですか?

「親が転勤族だったものですから。今は縁がありましてこちらに奉職してからしばらく経ちます。」

――驚きました。向こうに帰って皆に話したら喜ぶと思います。ちなみに、こちらはなぜ「高千穂」というのでしょうか。

「口伝にはなるのですが、明治年間に鹿児島県の霧島神宮と関わりがあったと伝わっておりまして、ニニギノミコト(天上の世界から高千穂※に降り立った神様)を祀っていることから高千穂という社名がついているのだと思います」

※神話上の「高千穂」の比定地は宮崎県の高千穂町と、鹿児島と宮崎県の県境に位置する高千穂峰(霧島神宮)だとする二説があり、江戸時代から論争が続いている。

――なるほど、宮崎の高千穂神社ではなく鹿児島の霧島神宮さんと関係がおありなんですね。勉強になりました。

奄美市の高千穂神社ご由緒

興奮が伝わっているだろうか。間違いを通じて互いに認識していた両者がついに出会ったのだ。しかも神職さんは宮崎県の高千穂町の隣町に住んでいたことがあるという。まごうことなき奇跡だ。話をしている最中は興奮で心臓の鼓動が早くなって気が気じゃなかった。

なんとまあ大満足。往復1,000kmかけて間違い電話の話を聞く旅、ここに完遂されました。

奄美大島はいいところだった

奄美大島の高千穂神社のことが分かったので、これからは間違い電話がかかってきても安心である。「親切な神職さんのいる素敵な神社ですよ!」そんなふうに自信をもって案内できるようになったのだ。

奄美の人はみんな優しかった。お土産屋さんでは端数をオマケしてくれたし、飲食店では予約で席が埋まっているのに中に通してくれた。空も海も綺麗で最高だった。すぐにでもまた行きたい。

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帰りの飛行機がべらぼうに揺れて酔って現実に引き戻された

 

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