違法なビットコイン事業で逮捕・起訴された人物が語る「ビットコインの真の意義」と「法をすり抜けてきた方法」とは?

GIGAZINE
2021年08月05日 07時00分
メモ



2010年にはピザ2枚程度の価値だった1ビットコインは、2021年4月には約690万円を記録しました。TwitterのCEOが「ビットコインは10年以内に世界単一通貨になる」と発言するなど、将来的な価値が見込まれるビットコインを投資目的で保有する人もいますが、一方で「ビットコインは政府の手が届かない通貨システムになる」として、政治的意味合いでの評価もあります。2021年3月に違法なビットコインの交換事業を行ったとして逮捕・起訴された人物は、そんなビットコインの政治的意味合いに傾倒しており、自らの目的と、法をすり抜けてきたビットコイン事業の全貌を明かしています。

Inside the federal raid on Keene, NH’s crypto mecca – The Verge
https://www.theverge.com/22599932/bitcoin-raid-keene-new-hampshire-ian-freeman-libertarian-prosecution

2021年3月、アメリカ司法省はニュー・ハンプシャー州キーンで「違法な仮想通貨交換事業を運営している」ことを理由に6人を逮捕、起訴したことを発表しました。この6人のうちの1人であるイアン・フリーマン氏の家からは現金18万ドル(約2000万円)や100オンス・3000ドル(約33万円)相当の銀のほか、2枚のCasascius物理ビットコインが押収されました。このビットコインの価値は400万ドル(約4億3600万円)以上だったとのこと。

警察は何年もの間、マネーロンダリングの証拠としてフリーマン氏らのビットコインビジネスを追跡してきました。警察はフリーマン氏が年間数百万ドル(数億円)を無許可で送金していると考えており、ビットコインと共に、違法な送金処理システムを破壊するために突撃を行ったとのことです。

Linux開発者であり暗号活動家のクリストファー・ワイド氏は、実際に警察がフリーマン氏の家を突撃する様子を撮影しました。


またフリーマン氏らは2018年に「ビットコイン大使館」なるものを創設しましたが、ワイド氏がフリーマン氏宅を後にしてビットコイン大使館に向かったところ、証拠を押収するための警察が出入りしていたそうです。


キーンはもともと人口2万5000人未満の静かな学園都市でしたが、ビットコインブームで億万長者になった人々が存在し、20以上のビジネスが仮想通貨による支払いを受けていたことから、2019年頃には「仮想通貨のメッカ」と呼ばれるようになりました。このビジネスの多くはフリーマン氏と、「仮想通貨はアメリカ政府と戦う道徳的な赤十字軍だ」という考えを持つフリーマン氏の仲間たちが関わるものでした。これらの人々は「『ビットコインは人間の自由を擁護する人々にとっての素晴らしい発展である』と強く信じ、政治的にリバタリアニズム(自由至上主義)の傾向を持つゆるく提携したグループ」だったと、フリーマン氏らの弁護士は述べています。

近年のビットコインは投資的価値からの注目が高まっていますが、もともと仮想通貨は「通貨にもかかわらず国家が管理せず非中央集権的である」という点が画期的だといわれており、流行初期にはリバタリアンによって高く評価されました。フリーマン氏は「Free Talk Live」というラジオのパーソナリティとしても知られていますが、Free Talk Liveは初期のビットコインコミュニティにとっての「集いの場」となり、アメリカがドルを管理する方法についても議論されていたとのこと。

以下の写真に写っているのがラジオの収録スタジオにいるフリーマン氏。


しかし、ビットコインの価値が上昇し、知名度が上がっていくと、多くの禁止薬物が販売されていたことから「ドラッグのeBay」と呼ばれた闇サイト「シルクロード」でビットコインが利用されたり、マネーロンダリングにビットコインが利用されたりといった事件が発生。これを受けて検察側は、規制や監視が行われていないビットコインは犯罪に利用されやすいとみて、捜査を開始しました。このため検察側はビットコインを「犯罪に関わる監視対象とすべきもの」と見ていましたが、一方でフリーマン氏らは「法律の範囲内にとどまりながら、ビットコインのもともとのデザインである『自由とプライバシー』を守ること」を求めていたとのことです。

「私にはビットコインを広めるという使命がありました。邪悪なものや暴力組織、そして戦争の元手となるアメリカ政府の貨幣システムから人々が抜け出す機会を提供するために」とフリーマン氏は述べています。またフリーマン氏は「私たちがやっていることは合法だと信じています。連邦法および州法を確認した私たちの弁護士が記した法的意見によると、私たちが行っていることは違法な送金ではなく製品の販売です」とも主張しました。


フリーマン氏は多くの起業家たちと同様に、仮想通貨のインフラストラクチャを構築することでお金を稼いでいました。しかし、競業他社はビジネスが違法とならないようライセンスを取得していたのに対し、フリーマン氏は別の方法を取っていたとのこと。この別の方法というのが「ビットコインディスペンサー」と呼ばれる自動販売機のようなマシンを利用したシステム。マシンの中には「ビットコインを物理的に保有する」という形になるようウォレットが入っており、マシンの利用は「送金」ではなく、ローカルで管理されている在庫を扱うことに等しいとフリーマン氏は述べています。

フリーマン氏は公然と事業を運営することで長年捜査の対象となってきたことを自覚しており、2021年の始めには覆面捜査官とみられる人物からの接触もあったそうです。この人物はヘロインとエクスタシーのディーラーであることをほのめかしたため、フリーマン氏は販売を拒否。しかし、その後に行われた警察による突入はフリーマン氏にとっても予想外だったそうで、フリーマン氏は「ドアをノックしてやってくることもできたのに、何も窓を割ることはなかったでしょう」とコメントしました。

フリーマン氏らは5月に釈放されましたが、釈放の条件は厳しく、外出が制限され、ビットコインの交換や、他の被告人たちとのやりとりも禁じられているとのこと。しかし、フリーマン氏はビットコインが政府の手が届かない通貨システムになるという夢を捨てておらず、「彼らがビットコインを制御することはできません。だから彼らはビットコインが嫌いなのです」と語っています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました