テスト開始から4カ月、軌道に乗らないGoogle FLEDGE の問題点

DIGIDAY

Google版Cookieレスリターゲティング「FLEDGE(First Locally-Executed Decision over Groups Experiment)」のテストがローンチからようやく4カ月を迎えたが、依然としてローギアに入ったままの状態が続いている。現在までにFLEDGEのテストに関心を示しているのは、アドテクベンダー5社だけであり、さらにいうと、このテストを意味のあるかたちで実施しているのは、RTBハウス(RTB House)、クリテオ(Criteo)、そして当のGoogleだけとなる。

この状況がすぐに変わるとは思わないほうがいい。

わかっているのは、アドテク企業の大半はFLEDGEに乗り気ではないということだが、それも無理もないことだ。いまFLEDGEをサポートすることは、未知の世界に飛び込むようなものだ。そんな世界に率先して飛び込む余裕など、どの企業にもない。未解決の問題が山積みとなっているのであれば、なおさらだ。

FLEDGEを阻んでいるものは何か?

  • FLEDGEをテストしているベンダーの数:5社
  • 単一ブラウザのソリューションであること
  • リーチやフリークエンシーに対する管理が欠けていること
  • パフォーマンス広告のリターゲティングの部分にしか対応していないこと
  • Googleが唯一のゲートキーパーであること

ぼやけるFLEDGEのメリット

すぐに思い浮かぶ問題(順不同)といえば、まずはFLEDGEが対応しているのはパフォーマンス広告のリターゲティングの部分だけであるという点だ。そのため、リターゲティング広告を見たユーザーがコンバートしたかどうかは、Googleとは全く別の作業になるため、マーケターは知ることができない。リーチやフリークエンシーに対する適切な管理もない。さらには、誰もが議論したがらない大きな問題もある。FLEDGEの現在のスペックに基づくなら、ゲートキーパーは1社であり、意外でも何でもないことだが、それはGoogleのようなのだ。

このような背景を考慮すれば、FLEDGEのテストに真っ先に飛び込んだ企業のなかに、ネットワーク広告(RTBハウス)やリターゲティング広告(クリテオ)のスペシャリストが入っていても、何の不思議もない。彼らならFLEDGEを自社事業に活かす道を見いだすことができる。しかし、そうでない企業にとっては、そのマイナス面はあまりにもはっきりしていて、プラス面はあまりにもぼやけている。

Googleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)と同じように、FLEDGEをめぐる問題も、いわゆる「ニワトリが先かタマゴが先か」のようなものだ。企業各社は、FLEDGEがどの程度普及するかを見極めてからテストしようとしており、そもそも実際にテストしてみたいと思っている企業など、ほとんどない。

デジタルマーケティングコンサルタント企業のCvEで、戦略部門担当グローバルバイスプレジデントを務めるロブ・ウェブスター氏は、こう語る。「我々がFLEDGEについて見聞きしている限りでは、そこにあるフォーカスは非常に限られており、大量のデータや成果を示しているところは一社もない」。

今のところは様子見がベストか

しかし、FLEDGEのテストはこの先もずっと遅々として進まないだろう、といっているわけではない。そこに関心が寄せられていることに疑いの余地はない。だが、少なくともいまはまだ、各社の広告幹部に決断を促すには十分でないことも確かだ。彼らが差し当たって望んでいるのは様子見なのだ。

「FLEDGEの進捗を注意深く見守っているのが、我々の現状だ。当社がFLEDGEのテストに積極的でないのは、テストに対する顧客の需要がそこまで高まっていないこと、そしてFLEDGEがいまだに単一ブラウザのソリューションのままだからだ」と、メディアマス(MediaMath)の広報担当者は語る。「またFLEDGEは、広告主が認知度ではなくコンバージョンを上げるのに使うリマーケティングのユースケースだ。したがって、広告主のコンバージョン測定のテストを、FLEDGEと連動させる必要がある」。

FLEDGEのテストを実際に行っている企業でさえ、一歩一歩前に進んでいる状況だ。

RTBハウスでプログラマティックエコシステムグロースおよびイノベーション部門のバイスプレジデントを務めるルカシュ・ウォダルチク氏は、こう語る。「FLEDGEに対する自社デバイスのディープラーニングアルゴリズムに有効性の向上が見えるようになってきた。その意味では、いまのところは自社の進捗に満足している。今後はテストをさらに複雑にしていくつもりだ。パブリッシャー、SSP(サプライサイドプラットフォーム)との統合を強化し、最終的には、FLEDGE環境内で完全なプログラマティックオークションをサポートできるレベルに到達する。この目標に向かって取り組んでいくつもりだ」。

問題が根深くなる可能性も

FLEDGEを最大限に活用するにはどうすればいいか? その答えを見つけるために首脳陣が頭をひねっているという意味では、クリテオの状況も似たようなものだ。クリオテは現在もテスト結果の評価を行なっており、11月までにはその結果を公開する準備が整うはずだと、同社の広報担当者は話す。それまでは、クリオテがこの件について論じることはないという。

これらのテストの詳細が公開された後、FLEDGEへの支持が上向くかどうかは、まだわからない。一方では、少なくとも、他社の広告幹部が、彼ら自身が何を見落としているのかがわかるようになるため、これは良いことなのかもしれない。しかし他方では、FLEDGEの諸問題がいま以上に根深くなる可能性もある。

その代表例が、FLEDGEに対するGoogleのあからさまな影響だ。FLEDGEが機能するには、Googleアドマネージャー(パブリッシャーのアドサーバー)が管理するオークションから落札価格のインプットを得ることが必要だ。このシナリオでは、最終的な広告を選ぶのはGoogleである。これでは、パブリッシャーとそのアドテクパートナーはGoogleの仲介を排除できない。もしFLEDGE APIのオンデバイスのトップレベルオークションが最終的な広告を選び、Googleアドマネージャーが同等の参加者としてとしてコンポーネントオークションに参加すれば、これも変わる。簡単に言うと、FLEDGEは、Googleが所有するChromeブラウザ内でなされるオークションの決定を前提としており、そしてそれは、SSPの収益に重大な影響を与える可能性がある。

「SSPとパブリッシャーから話を聞くと、両者ともにトップレベルオークションを完全にコントロールしたがっていることがわかる」と、ウォダルチク氏は語る。「(我々の理解では、)パブリッシャーは、プレビッド(Prebid)と同じようにオークションを完全にコントロールしたがっている。もしそうなれば、Google所有のSSPを含むすべてのSSPは、同等の立場でオークションに参加することになるはずだ」。

希望を捨てていない業界

これだけはいえるが、この状況が簡単に変わることはないだろう。FLEDGEへの非難ではなく、ひとつのシンプルな事実があることを認めているのだ。つまり、Googleのプライバシーサンドボックスのこの部分に対する早急な解決策などないのだ。これについては過去も状況は同じで、それがいまになっていっそう明らかになっただけの話だ。

まだ記憶に新しい今年の夏、マーケットの一部ではFLEDGEの普及が遅々として進んでいないというレポートも発表された。FLEDGEの諸問題はまだしばらく続きそうな見込みだが、業界は(ついでにいうとGoogleも)いまなお、これらの問題はいずれ克服されると希望を捨てていない。

パブリッシャーがアドテクに対して抱いている頭痛の種のひとつが「データ漏洩」なのだが、FLEDGEはこの問題に対する解決策を提供してくれる。FLEDGEの本質は、パブリッシャーのオーディエンスデータの流出を防ぐことにある。広告主と、彼らがオーディエンスの購入に利用するテクノロジーが、そのデータを調査して、それを他所でより安く購入するのを阻止するためだ。

Googleの広報担当者は次のように語る。「RTBハウスをはじめとする企業各社の初期の統合テストと、プライバシーを保護するサプライチェーンにインベントリー(在庫)を移そうというパブリッシャーの熱意に、我々は勇気づけられている。テスターの統合や、オリジントライアルの規模が大きくなるにしたがって、今年はAPIの機能性に関するインプットが、来年はパフォーマンスに関するインプットが引き続き業界全体から得られるものと期待している。Googleの新たなタイムラインはこの段階的なアプローチに対応しており、テスト結果に基づいてAPIのプライバシーと有効性を向上するための調整を行う時間を提供することをその目的としている」。

[原文:Google’s FLEDGE lacks momentum 4 months into trials, offers ‘limited focus’

Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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