独立した「 イージー 」はどうなるのか?:カニエ・ウェスト氏が小売を優先したいわけ

DIGIDAY

9月中旬、騒動の末にGAP(ギャップ)との関係を公に解消した後、カニエ・ウェスト氏は「自分だけでやっていくときがきた」と宣言した。10年の提携の予定がわずか1年で、現在はイェと名乗るウェスト氏は、今後のファッションベンチャーはひとりで行うと断言するにいたった。

しかし、これまでのところ、ウェスト氏のファッションにおける最大の成功はすべて、より大きな組織とのコラボレーションだった。彼のシューズは現在も一緒に仕事をしているアディダス(Adidas)と、最近の彼のアパレルはGAPやバレンシアガ(Balenciaga)と作られている。では、独立したイージー(Yeezy)のブランドはどのようなものになるのだろうか。

ウェスト氏の公式の発言は、いくつかのヒントを与えてくれる。一番大きなものは、イェ&GAPとイェ&アディダスとのあいだでもっとも摩擦を生んだ、ウェスト氏が小売店を優先しているという件だ。ウェスト氏は多くの店舗をオープンしたいと考えているが、GAPもアディダスもイージーに特化した店舗をオープンする意向はない。

この3週間、ウェスト氏は実店舗のスタッフを増強するために、「小売ネットワークの開設経験」を持つ候補者は彼に連絡をとるように促している。今日まで、イージーは主にオンラインブランドとして存在してきた。アディダスはイージーのスニーカーをわずか数店舗のみで販売、GAPは提携終了前にイージーのラインをたった1店舗で販売しただけで、ウェスト氏が完全所有し運営するイージーのアイテムの唯一の供給元であるイージーサプライ(Yeezy Supply)はオンラインのみとなっている。

急速な拡大はクールな要素を殺しかねない

小売の専門家によれば、イージーブランドが持つ固有のオーディエンスと牽引力をもってしても、大規模な小売ネットワークをゼロから構築するのは容易なことではない。店舗は高額な投資であり、最大手のブランドでさえ、現在は小売の努力をより少なく、より戦略的な場所に新たに集中させている。

「イージーはまず顧客のことを考えて決定を下す必要がある」と述べたのは、リーバイス(Levi’s)やパクサン(Pacsun)など大手小売企業と取引しているリテールCXプラットフォーム、リンク(Linc)でマーケティングバイスプレジデントを務めるクリスティン・ドーシー氏だ。「イージーブランドのコアな消費者は、店頭の体験を簡単に手に入れたいと思っているのか、それとももっと高級な、VIPのような感じを求めているのか。(もしそうだとしても)、あまりに急速に拡大することは、手が届かない『クールな』要素を殺してしまいかねない」。

可能性としてウェスト氏が運営するイージーは、より定期的なサイクルで製品をリリースできるかもしれない。イージーのスニーカーが最初にドロップされたとき、それらは独占的で入手困難なアイテムだった。だが最初の数年間で、ウェスト氏は生産量を増やすことにこだわった。彼を動かしている哲学は常に「イージーがほしい人は誰でも手に入れることができる」というものだ。しかし彼のGAPラインはなかなか世に出なかった。提携の最初の年には、パーカー、ジャケット、Tシャツなど、わずかなアイテムしかリリースされなかった。

ウェスト氏は、この遅いサイクルを、彼とGAPの上層部とのわだかまりやミスコミュニケーションのせいだとした。彼自身が運営するチャネルであるイージーサプライは、新しいリリースに関しては月に何度もドロップを行うなど、はるかに規則正しい。独立したイージーはより厳しく統制されたサイクルでリリースを行い、つまり以前よりも入手はしやすくなるかもしれないが、イージーの初期の成功の原動力だった独占的な熱狂は失われるかもしれない。

成功はビジネスの才覚と特異なスタイルのバランス次第

店舗に加え、ウェスト氏は他の物理的な拠点を築きたいと考えている。彼はプライベートの宗教系の学校を開いており、生徒の家族にNDA(守秘義務契約)にサインさせるなどといった行為で、すでに注目を集めている。また、住宅、ショッピング、学校、農場などがあるドンダ(Donda)キャンパスと呼ばれるものも計画中で、そこではほかで見られないイージーの製品を販売するつもりだ。さらに、小売の運営以外の人材も採用しており、元ナイキ(Nike)のデザイナー、ヌール・アッバス氏をイージーブランドのデザインのトップに加えている。

「デジタルを通じて顧客との関係を維持するのはより賢明な道だろうが、小売を模索するのは悪くない」と、パフォーマンスエージェンシーのニューエンゲン(New Engen)でメディアサービス・シニアディレクターを務めるケヴィン・グッドウィン氏は言う。「消費者と連絡を取り合うのがずっと簡単で、しかも驚くほど頻繁にそれを行えるやり方だ。消費者にリーチしてブランドの価値や新製品を伝えるなら、また店に行かなくてもブランドをトップ・オブ・マインドに維持するなら、eメール、ウェブサイト、ソーシャルなどがある」。

ウェスト氏がイージーで何をしたいかは明らかだが、それが成功するかどうかはまったく別の問題だ。ウェスト氏のこれまでのビジネスの記録は、驚異的な成功と不運の両方に満ちている。イージーのスニーカーはいまでもかなりの人気があり、ロイヤリティだけで毎年5億ドル(約722億円)以上を稼いでいるが、彼のふたつ前のファッションブランドであるパステル(Pastelle)とカニエ・ウェスト(Kanye West)は両方とも失敗した。彼の公的なペルソナ、頻繁な確執、悪評、そして確立されたパートナーシップがうまくいかなくなると、それを進んで蹴散らすという態度と相まって、イージーが独立して成功するかどうかは、ウェスト氏の実績あるビジネスの才覚と彼の特異なスタイルとのバランスにかかっている。

[原文:What will an independent Yeezy look like?]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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