ファーストパーティデータ 戦略、いうは易くおこなうは難し:多大な忍耐と気概が要求され、途中で熱意を喪失することも

DIGIDAY

プライバシー規制が強化され、従来的なターゲティング手法が損なわれるなかで、広告主たちはファーストパーティデータへの投資を言葉巧みに正当化する。しかし、プログラマティックの動向に関する最近の調査を見る限り、現実は見かけよりもはるかに複雑であるようだ。

IABヨーロッパ(IAB Europe)がまとめた報告書にはこう記されている。「広告主、エージェンシー、パブリッシャーが2021年に最優先と位置づけたデータはファーストパーティデータだった。現在、その優先度はセカンドパーティデータ(平均57%、エージェンシーがもっとも多く60%)とサードパーティデータ(49%)に次ぐ第三位となっている」。

期待と実績のギャップ

IABヨーロッパのチーフエコノミストを務めるダニエル・ナップ氏は、ファーストパーティデータの収集と活用は多部門を巻き込む取り組みだと指摘する。そのため、マーケティング部門のKPI達成には有用かもしれないが、法務部や財務部からは警鐘を鳴らされる可能性もあるという。

「ファーストパーティデータの理論上の価値と実際の可用性のあいだにはギャップがある」と、ナップ氏は電子メールによる取材で述べている。建前上、利用可能であるとしても、容易に洗練化して利用できる形になっているとは到底いえないということだ。

「データのコーパス化にかかる費用、ベンダーやツールの複雑さはもとより、組織内の文化的障害を克服するには多大な忍耐と気概が要求され、ときにマーケターの熱意が削がれることもある」。

プロハスカコンサルティング(Prohaska Consulting)でデータとアイデンティティの責任者を務めるケヴィン・バウアー氏もナップ氏の考えに賛同する。そして、特にサードパーティデータが容易に入手可能で、広く利用されていた以前と比べると、ファーストパーティデータが割高になりがちな点を指摘した。

実際、データマネジメントプラットフォームからカスタマーデータプラットフォームやデータクリーンルームへの移行は多額のインフラコストを伴う。バウアー氏はこう話す。「企業が注力するのはファーストパーティデータの理解であって、(少なくともネットワーク外での)活用では必ずしもないことが見てとれる。ファーストパーティデータはターゲティングにはあまり使われていないのかもしれない。それはインサイトやパーソナライゼーションやリテンションでの活用が進むこととは潜在的に異なる。顧客の新規獲得に予算が使われがちなことを考えれば、優先度のシフトにも納得がいくというものだ」。

規模的な課題

一方、米国では、IABの報告書「ステート・オブ・データ(State of Data)」が、米国のマーケターは「広範なファーストパーティデータを収集し、サードパーティデータで強化している」が、これを大規模におこなうのは困難だとの所見を述べている。

グローバルなゲーム企業のメディア部門に勤務するある情報筋は、このような慣行の背景について米DIGIDAYにこう語った。「多くのビッグブランドと仕事をしてきたが、事業の中心にデータがないと、手持ちの資産で施策を拡張するのは困難だ」。なお、この人物は報道機関にコメントする許可が得られず、匿名で取材に応じた。

「こうしたデータを処理したり使用したりするには、社内にデータプライバシーやガバナンスやコンプライアンスの枠組みを整備しておく必要がある。データセグメントをDSPに設定する話で盛り上がるのはその後だ。そこに至るまでに、やるべき仕事はたくさんある」。

エビクイティ(Ebiquity)のグループCEOを務めるルーベン・シュラーズ氏によると、企業のマーケティング部門が直面する課題の規模は、所属する業界によって異なるという。たとえば、eコマース事業者、金融サービス、ゲーム会社などは、コミュニケーション戦略策定の基礎として活用できる(同意済みの)顧客データを大量に保有している可能性が高い。この種の企業は、サービス提供に必要であるとして、見込み客に電子メールアドレスや所得などの情報を求めることが多いからだ。

一方、対照的なのが小売企業や自動車販売店など、中間業者を介して顧客と接触することの多い企業のマーケティング部門だ。シュラーズ氏は自分の実体験として、最近、自動車メーカーがこの点で大きく前進していると話すが、業界によって課題の規模に大きな差が出ることはもはや明らかだ。

シュラーズ氏はさらにこう話す。「数多くの大手消費財メーカーやアパレルメーカーがDMPやCDPをグローバル規模で導入したが、こうした投資はしぼみはじめている。ファーストパーティデータを大量に集めてみたものの、その有用性は認めるとしても、自分たちのビジネスモデルにはフィットしないことに気がついた」。

シュラーズ氏によると、多くの企業は「データベースを強化するために(たとえばネット通販など)新しい販売方法を設けるのは本末転倒だ」と考えている。「D2Cを成功させた数少ないブランドのひとつがアディダス(Adidas)だ。アディダスはすばらしく強固な自社運用のeコマース戦略を構築した」。

セカンドパーティデータの台頭

EPAMシステムズ(EPAM Systems)のプリンシパルで、ビジネスコンサルティングを担当するリズ・サルウェイ氏は、IABヨーロッパが報告した調査結果は、「ファーストパーティデータに寄せられた過大な期待」を示していると指摘する。

サルウェイとシュラーズ両氏が米DIGIDAYに語ったところによると、ファーストパーティデータの代替として、マーケターたちは自社が保有する(そして「活用」できる)同意済みのファーストパーティデータを、厳選したニッチなメディアや適切なeコマース企業と共有し、拡張する道を模索している。いわゆるセカンドパーティデータの活用だ。

このような戦術の採用は、見込み客の創出やリターゲティングをはじめ、マーケティング活動のあらゆる側面で役に立ち、その活用も進んでいる。IABヨーロッパの調査でも、事業活動に活用するのにもっとも好ましいデータの種類として、広告主はセカンドパーティデータを挙げており、2021年の40%から2022年には63%に増加した。

サルウェイ氏は、「(Amazonやウォルマートなど)米国の大手小売企業の大半は、すでに高いデータ能力を備えている」と述べている。そしてこうした企業のデータ投資のうち、大きな割合を占めるのがデータクリーンルームであると指摘した。このため、メーカー側も彼らとの協業に前向きだという。

コンプライアンス上の懸念は?

企業内のマーケティング部門、もっと正確にいうならマーケティング部門と連携する法務部門は、サードパーティデータにまつわるコンプライアンス上の問題を懸念している。IABヨーロッパの調査でも、広告主によるこうしたツールの活用が2021年から2022年のあいだに77%から40%に激減したことが指摘されている。

しかし、データ強化のために他社と提携するという傾向が進むに伴い、新たな疑問も生じている。セカンドパーティデータの連携に法的なリスクはないのかという疑問だ。

ゲーム会社で働く前述の情報筋は、「データを購入するなら、売る側の企業が同意を取得済みであることを確認し、さらに、自社で使用する同意も取得しなければならない」と話す。「これは追加的なレイヤーだ。昔、ある企業のCFOがこんなことをいっていた。事務処理が増えるほど、手違いの生じるすきも増える。承認の機会が二度あれば、手違いの生じる機会も二度あるということだ」。

法務部で契約書のドラフトを作成するに先だって、マーケティング担当者がコンプライアンスのチェックリストを用意するなら、「許可の取得」や実際にデータが「混ざる」ことがあるのかなどについて、しっかりカバーしておくべきだとサルウェイ氏は述べている。

一方、エビクイティのシュラーズ氏は、オーディエンスの削除プロセスや更新頻度を確認することにより、同意取得済みのファーストパーティデータと、容易に入手可能だが当然危険をはらむサードパーティデータを区別することが重要だと助言する。

「サードパーティデータはこれを販売しようとする企業が所有、生成、または管理しているわけではない。したがって、このような企業はあくまでも中間業者だ。一方、セカンドパーティデータの場合、提携相手のパブリッシャーがデータの収集と管理に関して、適切かつ適法に行動する責任を直接負っている」。

サードパーティデータの死という話は大げさか?

ファーストパーティデータに基づくマーケティング戦略への支持が声高に叫ばれ、その課題と現実的な対策がおおやけに議論されるいま、この業界におけるサードパーティデータは風前の灯火なのか。

「柔軟なデータソリューションプロバイダー」をうたうロタミ(Lotame)が先週発表したデータを見る限り、実はそうともいいきれない。ロタミは「質の高いサードパーティのオーディエンスデータ」に対する需要は2020年から2022年のあいだに25%増加したと主張している。

ロタミのアンディ・モンフリーCEOはプレスリリースを通じて、「デジタル広告業界は昨年、消費者がほとんど外出しないという状況下で、マーケティング活動への投資を増やし、世界的に期待以上の成果を上げた」と述べている。「一方で、企業保有のファーストパーティデータをサードパーティデータで高品質化することには、いまも大きな可能性があることに変わりはない」。

欧州当局の規制が厳しさを増し米国のプライバシー保護法の厳格化が現実味を帯びるなか、データの種類、入手や定義や活用の方法にかかわらず、企業のマーケティング部門や法務部門が最大の関心を寄せるのは、ほかでもないガバナンスである。

[原文:Marketers find first-party strategies easier said than done

Ronan Shields(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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