ChromeでのサードパーティCookieサポート終了が近づくにつれ、ブランド各社やメディアエージェンシーの多くが、プライバシー保護規則を遵守しながらファーストパーティデータを大量に生成する取り組みに力を入れるようになった。
そんななか、米ウィスコンシン州ジェーンズビルに本社を置くテック企業、フルスロットル・テクノロジーズ(FullThrottle Technologies、以下フルスロットル)が開発した製品が、ファーストパーティデータ生成ソリューションとして徐々に台頭してきた。代理店やパブリッシャーはこの製品を購入し、自動車や飲料メーカーのマーケターとB2Bのクライアント向けのサービスに活用している。
フルスロットルが提供するソリューションは「オーディエンス・フルーム(Audience Flume)」という製品で、APIを介して他システムとデータ連携する機能をもつ。5年の開発期間を経て稼働を開始して1年あまりになるが、今回、本格的に市場導入された。フルスロットルでは当該技術の特許を出願中だという。
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サードパーティCookieの終焉が起こすデジタル広告の「変化」
フルスロットルの最高製品責任者、アモル・ワイシャムパヤン氏の説明によれば、オーディエンス・フルームは、クライアント企業が運営するウェブサイトのブラウザに保存されたキャッシュからユーザー世帯のプロフィールを抽出し、それを加工してオーディエンスデータを生成する。このデータがオープンソースのアドレッサビリティ・フレームワーク上の下流プロセスへ送信されるフィードとなり、プライバシー保護規則を遵守したキャンペーン施策(ターゲティング、計測、アトリビューションなど)の策定に使われる。
「サードパーティCookieの終焉は、デジタル広告市場で起きているさまざまな変化のさなかに訪れることになる」とワイシャムパヤン氏はいう。「当社のソリューションは、サイト上で実を結ばずに終わる多くのデータを、オプトイン方式を使ってファーストパーティの世帯データに変換できる。ここに特許出願中の技術が関わってくるのだが、我々は、ユーザー世帯から返却されたデバイスをより正確に認識できる機能や、プライバシー保護規則に準拠した、多くのメタデータが含まれる世帯アドレスを取得する機能の開発に成功した」。
グループエム(GroupM)が所有するメディアコム(Mediacom)でシニアパートナー兼パフォーマンス部門長を務めるサム・ネーム氏によれば、同社はオーディエンス・フルームを使ったサービスを飲料大手のクライアントに提供している。メーカー名は明かされなかったものの、ネーム氏のSNSのプロフィールには、コカ・コーラと協業中と記されていた。ネーム氏はこれまでの成功体験から、グループエム傘下の他会社でもオーディエンス・フルームが採用されるよう願っていると述べた。
「ウェブサイトの内容に興味をもって閲覧するユーザーのなかには、エンゲージメントが低い、つまりサイト上でアクションを起こさず、コンバージョン率も高くない人たちが相当数いる」とネーム氏はいう。「そういったユーザーの属性情報を把握し、彼らと再びコミュニケーションをとれる方法を見つけることが重要だ」。
購買プロセスに変化をもたらすきっかけに
ネーム氏によれば、メディアコムが飲料メーカーとの仕事を通じて得た知見は他の飲料ブランドにも応用がきくため、ソリューション提案でも効率化が図れるという。「取得したオーディエンスデータを他分野でどう活用するか? データをうまく管理してひとつのマーケティング施策だけでなくほかの施策にも展開して規模を拡大できれば、面白くなりそうだ」。
同様のアプローチは、他業界向けのサービスにも応用できる。クネオ・アドバタイジング(Cuneo Advertising)の最高執行責任者、ケイティ・ジャクソン=リクター氏は、自動車業界のクライアントとの仕事を多く手がけているが、同社の差別化要因は、オーディエンスのデータを深掘りし、コスト効率良く豊富なインサイトを導き出せる能力だという。
「大企業の多くは内製の技術基盤を有しているが、オーディエンス・フルームはその基盤を強化する効果的なツールとなるだろう」とジャクソン=リクター氏は語る。「オーディエンスの行動データの解釈にもとづいたアクティベーションが可能になれば、購買プロセスに変革をもたらすきっかけが生まれる。もちろん、各種データポイントの入手にはコストがかかるが、企業はしかるべきテクノロジーの活用により、重要な意思決定に際してより的確な判断を下せる。最終的には投資した資本を回収できるはずだ」。
ジャクソン=リクター氏もネーム氏も、オーディエンス・フルームがプライバシー保護規則に準拠し、消費者の許可を得た入力データにもとづくソリューションであるとして信頼を寄せている。「他社もファーストパーティデータのソリューションを提供しているが、なかには全米各州のプライバシー保護規制に準拠していないものもある」とジャクソン=リクター氏はつけ加えた。「企業は、ファーストパーティデータの利用にあたっては慎重に、責任ある対応をしなくてはならない。信頼のおけるパートナーの存在も不可欠だ」。
Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)