広告主を取り戻したいのであれば、Snapchatがやるべきことは多い。
そのプラットフォームからメディアマネーが流出していくのと時を同じくして、同社の広告営業のトップが去った。全社的な再編を受け、広告販売チームはどこに向かうのか岐路に立たされている。
TikTokはSnapchatのオーディエンスのみならず、その広告収入をも侵食し続ける。その上Appleのデータ規制により、Snapchatの広告がかつてほどの効果を上げられなくなっていることはいうまでもない。その主要市場のいくつかで景気後退の脅威が忍び寄っていることも合わせて考えれば、一度は広告業界の寵児であったSnapchatが、まったく先行きの見えない領域に入ってしまったことは明らかだろう。
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さて、次の一手はどうするのか。
独自路線で商品を開拓
今のところ見えているのは、Snap(スナップ)のCEOエヴァン・シュピーゲル氏がなんとかこの嵐を乗り切ろうと、差別化要因としてARの強化を図るのではないかという兆候である。
デジタルエージェンシーのVMLY&Rのソーシャル部門を率いるクリスティーナ・ミラー氏はSnapchatを「特にARを通したイノベーションの隠れたヒーローだ」と話す。「たいていのプラットフォームはほかでうまくいっていることをまねることで成功する。だが、Snapchatは独自路線で商品を開拓している」。
Snapの経営陣は2022年第2四半期の投資家への手紙のなかで、「ECにおいてARがもたらす商品イノベーションにとてつもなく大きなオポチュニティ」を感じているとして、ARが今後の重点領域のひとつであることを認めた。
ソーシャルパブリッシャーのジャングルクリエイションズ(Jungle Creations)の共同CEO、ナット・ポールター氏は「理屈からいえば、1、2年のあいだにSnapchatはもっと定着性の高いプラットフォームとなってユーザーの層を広げ、規模も大きくなることでとても良い位置に身を置くことになるだろう」という。「ECは最大の市場であり、Snapも広告主とその話をしていると思う。Snapのビジョンは、ARに焦点を当て続けることにある。そこから顧客内シェアを獲得し始めることができるのであれば、それはエキサイティングな話だ」。
ミレニアル世代をターゲットに
これはSnapの見通しを改善するにはエキサイティングな話かもしれないが、大きな効果は見込めないだろう。ARもECも、Snapchatの広告事業の根にある問題に働きかけるものではない。Snapchatは短尺コンテンツというよりモバイルメッセージアプリなのだ。その結果、同世代のほかのアプリに比べて広告予算は常に低く抑えられてきた。「ほかのプラットフォームよりキャンペーンに基づいた広告展開になるため、打ち切りとなると最初に順番がまわってくる」ポールター氏は説明する。
これを変えるには、Snapchatが幅広いオーディエンスにリーチできるのだということを示す必要がある。売り文句でこの点を直さなければ、これからも付け足し的な扱いや、若年層を中心としたニッチなオーディエンスにリーチするためだけの扱いに終始するだろう。
広告主のあいだでのTikTokの台頭はそれを裏付けるものだ。たしかにTikTokは主に若年層にリーチするための場所だと思われているが、その事実によってTikTokがカルチャーの牽引役であるというイメージに影が差すことはない。実際、TikTokは世界で最も人気の高いアプリのひとつであり、同社によれば月間アクティブユーザー数は10億人を超える。一方のSnapchatの月間ユーザー数は、5億人を少し超える程度だ。
とはいうものの、シュピーゲル氏はすでに対応に動き出している。同氏はリークされた9月6日付の社内メモで、ミレニアル世代をターゲットにすることでSnapchatのリーチを広げる必要があると社員に語った、とヴァージ(The Verge)が報じている。方向転換に遅すぎたかどうかは、時がたてばわかるだろう。
Snapchatが強調すべきポイント
「Snapchatは多くの場合、広告の展開先として最後になってしまうプラットフォームだが、それはただ単にそのオーディエンスが極めて若いからだ。特に米国ではそうだ。ティーン世代は可処分所得が多くない」とミラー氏は話す。「人気を儲けにつなげるという点では、Snapchatはずっと苦戦を続けている」。
競合に比べてSnapchatでできることや機能が少ないことも、その一因だ。だが、メディアエージェンシーのセブンスターズ(the7stars)でペイドソーシャルアカウントディレクターを務めるエリカ・ウィリアムズ氏は、特にTikTokの台頭が業界のペイドソーシャルメディアの状況を劇的に変えたと話す。「Snapchatは同じオーディエンスに向けて似たようなターゲティングでTikTokと競っているが、TikTokは提供できるサービスや機能がSnapchatより多い」とウィリアムズ氏は語る。
これらの違いについてはさんざん話題になっているところではあるが、突き詰めるとこうだ。Snapchatの広告事業のほうが成熟している。だから予算が潤沢な広告主に狙いが定められている。一方でTikTokは、実験してもいいというマーケター向きだ。
「フルファネルのクライアントに対して、SnapchatはECに代わる素晴らしいサービスを提供できることをもっと最初から訴えたほうがいい」とウィリアムズ氏は付け加えた。「TikTokやメタ(Meta)と競い続けられるように、その点を強調する必要がある」。
Snapchatが本当に今度こそ広告費をがっちりつかみたいのであれば、広告事業を再び軌道に乗せるという、ますます困難な戦いに向かっていかなくてはならない。彼らは広告主にとってニッチな存在でいるにはあまりにも大きすぎるが、かといって広告主が切望する幅広いリーチを提供するにはまだまだ小さい。よく考えてみれば、これこそが常にSnapchatの問題だったのだが。
[原文:Snapchat’s limitations are finally catching up — and marketers are noticing]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)