こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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現在はD2C新興企業にとって厳しい時期だが、なかには投資家の関心を引き続けているブランドも存在する。
インフルエンサー、クリエイター、そのほかのバズワードで呼ばれることもあるが、ソーシャルメディアで多くのフォロワーを持つ創業者が独自のeコマース企業を立ち上げるケースが増えている。さらに、これらの創業者たちは自社商品を小売店舗で販売し、新しいカテゴリーへの展開をめざすなかで、従来型のブランドを正確に模倣しつつある。インフルエンサーである創業者は、立ち上げ前の話題づくりにソーシャルメディアのファンが欠かせない一方、コアなフォロワー以外の新しいオーディエンスを獲得しようと試みる傾向が強まっている。
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創業者はユーチューバー
もっとも新しい例は、ユーチューバーのエマ・チェンバレン氏が作り上げたブランドのチェンバレンコーヒー(Chamberlain Coffee)で、8月16日の朝、700万ドル(約9億5900万円)の資金調達を発表したばかりだ。VCファンドのブレイザーキャピタル(Blazar Capital)や、同じユーチューバーのダニー・ダンカン氏に加えて、グリン(Grin)の創業者のブランドン・ブラウン氏や、D2C戦略家のニック・シャーマ氏など著名なeコマース関係者も投資家として参加している。チェンバレンコーヒーのCEOを務めるクリス・ガラント氏は、同社がこの新しい資金調達によって、小売でのプレゼンスを高め、新しい商品ラインを開発する計画だと述べた。基本的に、インフルエンサー主導のブランドは、ほかのD2C新興企業のプレイブックに従い、存続能力を証明しようとしているのだ。
「当社の有利な点は、エマ(エマ・チェンバレン)が非常に幅広い層のオーディエンスを保有していることだ。しかし我々は、エマがブランドの大きな部分を占めているということだけではなく、ブランド自体を発展させることにも取り組んでいる」と、ガラント氏は語る。チェンバレンコーヒーは今年、収益を昨年の2倍以上に増やす目標に向けて動いている。
同ブランドは、特にZ世代を対象としてデザインされたはじめてのコーヒーブランドと自らを位置づけている。YouTubeの登録者数が1170万人、インスタグラムの登録者数が1600万人近いチェンバレン氏は、インスタントコーヒーバッグとマグカップで最初のテスト販売を行い、2019年にチェンバレンコーヒーを設立した。2020年には、ローストごとにアーリーバード(Early Bird)やケアレスキャット(Careless Cat)などの名前とイラストを付けるなど、新しい外観と一新された商品群で、ブランドをリニューアルした。
「最大のチャネル」はD2C
ガラント氏は2021年の半ばにCEOとして招き入れられ、この1年間、同ブランドがどのチャネルやカテゴリーに進出するのが有意義かを見極めることに多くの労力を注いできた。
同ブランドは現在、コーヒー豆、マグカップやミルク泡立て器などのアクセサリー、抹茶やココアの粉末を販売している。同社は今秋、チャイ商品など、紅茶の販売を増やす。昨年末にはAmazonやゴーパッフ(Gopuff)での販売を開始し、現在ではロサンゼルスで人気のエレウォン(Erewhon)やスプラウツマーケット(Sprouts Market)でも販売している。ガラント氏は、今でもチェンバレンコーヒーの「最大のチャネル」はD2Cだと語っているが、小売による売上の割合は明らかにしていない。
同氏は、小売への展開がチェンバレンコーヒーの重点になってきたのは、「コーヒーの購入は今でも圧倒的に小売で行われている。したがって、当社も小売で販売する必要がある」ためだと述べている。
重要なのはブランドの独自性とそれに共感する人々
フィットボディー(Fit Body)アプリの最高マーケティング責任者で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教授としてインフルエンサーマーケティングを専門としているリア・ハーバーマン氏は、インフルエンサー主導のビジネスがしばしば直面する最大の課題は、「そもそも成功を得る助けになったもの」だと述べている。
同氏はメールに「最初から顧客ベースを保有していることは、立ち上げの時点では役立つ」と記している。チェンバレンコーヒーの場合、エマ・チェンバレン氏のポッドキャストで自社商品をプロモートでき、ほかのポッドキャストで広告を実行する必要はない。「しかし、事業が成功するには、インフルエンサーとそのオーディエンスに依存しきらない、独自の長所を生かした運営を行い、成長を達成できる必要がある」。
ガラント氏は、チェンバレンコーヒーのソーシャルメディア投稿のほとんどは、実際にエマ・チェンバレン氏が登場していないと言及している。代わりに、50万人強のフォロワーを持つ同ブランドのインスタグラムのページは、ほかのD2Cブランドのページとよく似た外観で、明るい色の背景に商品写真を掲載し、ほかのブランドとのパートナーシップを強調している。
チェンバレンコーヒーにとって、コラボレーションはますます重要な注目分野となり、その相手は通常、エマ・チェンバレン氏が好む他ブランドから選ばれる。同社は5月、スーン(Swoon)との共同ブランドで、抹茶レモネード(Matcha Lemonade)を発売した(スーンはチェンバレン氏がエレウォンで見つけたブランドだ)。このブランドは発売日に、1分間に3缶近いペースで売れた。
「私が観察したところでは、チェンバレンコーヒーは依然としてエマ・チェンバレン氏と強く結びついているが、最近スマートなリデザインを行ったことで、ブランドの独自性が際立ってきた」と、ハーバーマン氏は述べている。「同社は、エマ・チェンバレン氏の熱心なファンだからという理由ではなく、優れた商品だからという理由でチェンバレンコーヒーを愛する人々を見つける必要がある」と、同氏は付け加えている。
大手の売上を奪えるブランドに
ガラント氏は、チェンバレンコーヒーが成長するにつれて、ブランドの維持がさらに重要になってきたと語る。同社にはサブスクリプションによる割引の制度があり、その成長を見込んでいるが、それとともにクラブチェンバレン(Club Chamberlain)というロイヤルティプログラムもある。また同社は小売でのプレゼンスの拡大によって、スターバックス(Starbucks)やプレミアムコーヒーブランドから売上を奪いたいという。
「これまで誰も、Z世代のコーヒー好きに訴えかけてこなかった。我々は実際のところ、『当社が訴えかけようとしている層に、当社のブランドに共感する多くの消費者が存在する』と語った最初のブランドだ」と同氏は述べている。
「Z世代はコーヒーをよく飲む人たちですが、まだ誰も彼らに話しかけていません。私たちは、『この消費者層は、私たちのブランドと共鳴し、私たちが話しかけようとしている層である』と考えた最初のブランドなのです」とギャラント氏は言います。
[原文:DTC Briefing: Chamberlain Coffee raises $7M as it plots retail expansion]
ANNA HENSEL(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Image via Chamberlain Coffee