広告不況のなか、 リテールメディア への投資はますます拡大:「データドリブンなショッパーマーケティングとして確立されるだろう」

DIGIDAY

景気が低迷すると、マーケターは予算の使い道を精査し、本当に効果のあるものに投資をするようになる。

そうした投資先のひとつが、米スーパー大手クローガー(Kroger)のリテールメディアネットワークだ。

今の状況は「停滞」というより「是正」

リテールメディア企業の84.51°でクローガー・プレシジョン・マーケティング(Kroger Precision Marketing)担当バイスプレジデントを務めるカーラ・プラット氏が、広告不況にもかかわらずクローガーの広告事業を楽観視しているのも当然だろう。この事業は、クローガーのウェブサイトとモバイルアプリの検索結果に表示されるサイト内検索広告と商品リスト広告という、商業的意図の強いチャネルを基盤としている。

したがって、今の状況は停滞というより是正であり、広告をパンデミック前のレベルに近づけるものといえる。つまり、まだ成長の余地があるのだ。

「関心と投資が高まっていることは疑いようがない。このような投資の大半は、エージェンシーで国内投資を手がけるチームからのものだ」と、プラット氏は話す。また、関心が高まっている主な理由として、クローガーが昨年10月に立ち上げたプライベートマーケットプレイスの存在を挙げた。そして、同氏はこの関心が続くことを期待している。今後はディスプレイ広告だけでなく、CTVやビデオの在庫もマーケットプレイスで購入できるようになるからだ。

膨大なデータを持つクローガーだからこそ

とはいえ、クローガーが広告売上を公表していないこともあり、実際にどれほど成長しているのかを把握するのは難しい。ただし、同社が発表している他の数値を見れば、広告事業の規模を推測できる。

そのひとつが、同社と取引している広告主の数だ。最新(2021年末)の統計によれば、取引のある広告主は2000社近くあり、その90%が前年から取引を続けている企業だ。加えて、通常なら取引することがなかったであろう広告主もいる。

たとえば、ブランド企業のマーケターや、旅行、健康、ウェルネスといった非流通業界のマーケターだ。彼らのような企業がクローガーに予算を費やすケースが増えているのは、彼らの求めるデータをクローガーが持っているからにほかならない。

それでも、クローガーが広告費を獲得するためにマーケティングファネルにどの程度食い込めるかは不明だ。従来型の小売企業は、メディア支出先としての認知度を高めたくても、プロプライエタリなファネル上部のコンテンツやメディアにアクセスできない。そこでクローガーは、他のアドテクベンダーと提携し、フルファネルでメディアアクティベーションを実現する手段のひとつとして、オープンウェブでリーチを拡大できる製品を提供している。

あるときにはパブリッシャーとして、あるときには他パブリッシャーのアクセラレーターとして活動

「パンデミックのおかげで、eコマース市場で一部の活動が活発になったため、成長ペースに変化が起こった」と、プラット氏は述べ、成長はまだ続いていると話す。とはいえ、過去2年のような成長ペースは望むべくもない。「我々はこのことを心に留めている。世界が変わる3年前の予測より今のほうがはるかに先を行っているからだ」

実際、この3年間で多くの変化が起こった。まず、クローガーのリテールメディアネットワークが、マネージドサービスのみを提供するプラットフォームではなくなった。マーケターは、自社のアドテクを利用してそのインベントリー(在庫)に入札できる。同じように、クローガーのデータが以前よりずっとアクセスしやすいものになった。

マーケターはクローガーのデータを利用して、ウェブでのキャンペーンの成果を判断できるのだ。たとえば、クローガーとRoku(ロク)の提携によって、マーケターはTVキャンペーンが店舗の売上に貢献した度合いを把握できる。プラット氏はこのような現状について、次のように説明した。「我々は、あるときにはパブリッシャーとして、あるときには他のパブリッシャーのアクセラレーターとして活動している」

ウォールドガーデン化を避けデータを守るには

マーケターに自社メディアでクローガーのオーディエンスをターゲットにすることを認めながら、収益機会を維持して顧客データを保護するには、間違いなく微妙な調整が必要だ。だが、うまくいけば、クローガーは急増するデジタル予算をはじめ、さらに多くの広告費を獲得できるだろう。一方、誤ったやり方をすれば新たなウォールドガーデンと化し、広告費は獲得できても広告の成果の正確な測定結果を提供できなくなる。

クローガーにとって、後者のような事態はもちろん避けたいことだ。そこで、データを保護しながらウォールドガーデン化を避けようと、いくつかの方法を試みている。クローガーのリテールメディアネットワークは、広告主の売上を直接把握できるというユニークな立場にあるのだ。このおかげで、インクリメンタリティに注力しながら、パフォーマンスの透明化を図ることができている。

「リテールメディアは、ブランド広告主が年間1000億ドル(約13兆6500億円)程度を費やしているショッパーマーケティングのデータ駆動型バージョンになるだろう」と、アクイティアズ(AcuityAds)で最高戦略責任者を務めるセラージ・アーワニ氏はいう。「このような投資は小売企業との共同マーケティング契約に含まれており、折り込み広告やクーポン、エンド陳列、ロイヤルティプログラム、関連のプロモーションマーケティングといったファネル下部への投資を通じて、販売を促進している」

[原文:‘An influx of investment’: Kroger sees retail media opportunities in ad slowdown

Seb Joseph(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)

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