インフレ 時代の最新マーケティング手法は「値上げしない」こと:価格競争に走らずロイヤルティ向上をめざす小売業者たち

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こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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インフレが進むなか、小売業者は単純に値上げしないことで、よりお得な買い物ができることを、買い物客に売り込んでいる。

バークボックス(BarkBox)の親会社バーク(Bark)の共同創設者でCEOを務めるマット・ミーカー氏は、同社の商品がインフレの影響を「現在も、将来も」受けないことを告知するメールを顧客に送った。同社の玩具、ウェルネス、およびバークフード(Bark Food)の商品はインフレの影響で値上げすることはない。一方、オールド・ネイビー(Old Navy)は7月、同社のデニムすべてについて、9月末まで値上げしないと発表した。

ミーカー氏は、メールによる声明で、次のように米モダンリテールに語った。「ペットフードの価格が記録的な高値になっているが、我々は、犬たちがインフレの影響を受けるべきではないと考えている。当社は犬向けのサービスを10年間にわたって提供してきたが、継続的なサブスクリプション会員の料金を上げたことはない。当社が2012年にバークボックスを立ち上げた時に加入した顧客は、今も同じ価格を支払っている。顧客が退会して再加入しないかぎりは、生涯同じ価格が適用される」。

値上げを控えている小売業者も

小売業者とブランドは、価格と利ざやに関して難しい決断を迫られてきた。シリアルメーカーのケロッグ(Kellogg’s)や、掃除用品ブランドのクロロックス(Clorox)など、数多くの小売業者は、インフレが長引くなかで、商品の値上げを行ってきた。しかし、すべてのブランドが値上げに頼っているわけではない。バークやオールド・ネイビーのほかにも、予算を節約しようとしている消費者を取り込むために、値上げを控えている小売業者が存在する。これは、明確な割引をすることなくプロモーションを行う方法であると、専門家は述べている。

コンサルティング企業のパーカー・アベリー・グループ(The Parker Avery Group)のプリンシパルを務めるマーティ・アンダーソン氏は次のように述べている。「顧客に対してはさらに説得が必要だ。インフレが進み、あらゆる場所で価格が上昇している状況では、顧客が自由裁量で使える収入はある意味で減少している」。

米国労働省(Labor department)からの新しいデータによれば、7月の商品・サービス価格は昨年と比べて8.5%上昇した。消費者が価格に敏感になっている現在、小売業者は商品の販売方法や顧客とのコミュニケーションに気を配っていると、専門家は語っている。

割引が企業の決算と収益性に悪影響

過去のインフレの環境とは異なり、現在のインフレは、アパレルや家庭用品など一部のカテゴリーにおける需要の高まりや、サプライチェーンの危機が背景にある。これらのカテゴリーへの需要が減少するにつれ、小売業者は消費者からの需要を上回る多くの在庫を抱えることになった。

結果として、一部の小売業者はわずか数カ月前に大幅な割引を行った。たとえば大手小売業者のウォルマート(Walmart)は、6月のある週末に値引イベントを開催した。同様に、ラグジュアリー寝具ブランドのブルックリネン(Brooklinen)は7月に、予告なしの値引イベントを開催し、ほとんどの商品を15%割引で顧客に販売した。

しかし、割引に頼りすぎた小売業者は、特に価格の上昇が続くなかで、利ざやを削りつつある。ジョージタウン大学(Georgetown University)のマーケティング担当の教育専門准教授を務めるカーシク・イースワー氏は、プロモーションの展開を必要とせずにインフレに対処する方法のひとつが、オールド・ネイビーやバークのように、値上げをしないことだと語る。

同氏は次のように述べている。「誰もが値引きをするなかで、もっとも大きな割引を行うためには、ほかの誰かより価格を下げなくてはならない。価格が意思決定や差別化の主要な要因になってしまうと、最安値競争になり、間違いなく企業の決算と収益性に悪影響を及ぼすことになる」。

ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance)が保有している英国の薬局チェーンのブーツ(Boots)は、自社ブランド商品1500点の価格を年末まで凍結することを、6月に発表した。英国ブーツ(Boots U.K.)の最高顧客および商業責任者を務めるスティーブ・エージャ氏は、これがインフレ期に買い物客に対して安心感を与えるための決定だと語った。

ほかの英国の小売業者で、健康と美容に特化しているスーパードラッグ(Superdrug)は、消費者が生活コストの上昇に対処することを支援するため、生活必需品100点以上の価格を凍結すると4月に発表した。

顧客のロイヤルティを勝ち取るために

ザ・パーカー・アベリー・グループのシニアマネージャーを務めるドミトリー・マガス氏は、効果的な価格戦略を立案するには、特定の時期にどの品物への需要が高くなるかを、小売業者が認識している必要があると語る。専門家たちは、それによって小売業者は、顧客とのあいだにロイヤルティを作り上げることができると述べている。

「マーケターは、消費者のトレンドがどのように変化しつつあるか、それぞれの種類の商品について需要がどのように変化しつつあるかを認識している必要がある」と、同氏は語る。

このため、値上げを行わないという一部の小売業者たちは、重要な販売期間中に顧客のロイヤルティを勝ち取るための方法として、競争が激しい新学期シーズンに値上げを行うところもある。たとえば、アイルランドの多国籍ファストファッション小売業者のプライマーク(Primark)は、新学期のショッピングシーズンにおいて、Tシャツや、ワンピース、ジーンズなど多くの子供服の価格を凍結すると、7月に公言した。一方で、ディスカウント食料雑貨店のアルディ(Aldi)は、「我々が営業対象としているあらゆるコミュニティにおいて、常に低価格のリーダーであり続ける」という約束を繰り返している。

「小売業者が、単に自社の在庫を一掃しようとしているのではなく、顧客を助けようとしていると隠し立てせず正直に示せば、実際に顧客を勝ち取るための方法となるだろう」と、デジタルコンサルティング企業のシーアイ・アンド・ティー(CI & T)で小売戦略ディレクターを務めるメリッサ・ミンコウ氏は語る。

さらに、小売業者はどのような特別な販売を開始するときも、それが一時的なものの可能性があることを顧客に伝える必要があると、同氏は語っている。これを伝えておかないと、経済が回復したとき、買い物客のあいだにある種の憤りを引き起こす恐れがあるためだ。

同氏は次のように述べている。「これらの小売業者が、このような特別な販売や割引を永久に維持でき、そして維持するというある種の期待を顧客に抱かせるなら、それは危険な賭けとなる。すべては小売業者が実際に販売をどのように行うか次第だ」。

[原文:Not raising prices is the hot new inflation marketing tactic]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Illustration by Ivy Liu

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