小売業界、急成長の後に訪れたレイオフの波:効果的である一方で損害を伴う場合も

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この2年間の急速な成長を経て、大規模なレイオフの波が小売業界のさまざまな部門を襲っている。

過去2年間、小売のほとんどの分野は大きな成長を達成してきた。米国国勢調査局のデータによれば、米国におけるアパレルの売上額は2021年に1980億ドル(約26兆9000億円)に増加し、これは前年の2020年に比べて47%の増加だった。家庭内フィットネス企業の機器への需要が高まり、ペロトン(Peloton)の株価は2020年に440%も上昇した。アグファンダー(AgFunder)によれば、食料品オンライン販売の新興企業への投資は2020年から2021年に188%も増加し、185億ドル(約2兆5200億円)に達した。

そのあとで、インフレ、サプライチェーンの問題、顧客の消費傾向の変化といった経済的な逆風が発生し、小売業者の利益が減少した。小売業者は現在、成長の鈍化に伴って経費の削減をはじめ、さまざまな部門にわたる大規模な企業レイオフを引き起こしつつある。

「成長が鈍化し、ほかの圧力が積み重なると、組織はコストをコントロールする方法を探し求め、ときにはもっとも簡単な行動、すなわち要員の削減を行う」と、戦略的執行について企業にアドバイスを行うグローバル企業のエスエスエー・アンド・カンパニー(SSA & Company)のマネージングパートナーであるマシュー・カッツ氏は述べる。「即座に影響が表れるからだ」。

ほんの数カ月前には成長業種でありながら、現在では従業員の削減に走っている小売部門のいくつかを以下に紹介する。

アパレル

ビクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)は、パンデミックのあいだにリセットを行った多くの小売業者のひとつだ。同社は男性からの目線に合わせたブランドという古い評判を払拭することをめざし、インクルーシビティ(包括性)を中心とした完全なブランド刷新を行った。このブランドの刷新は実りあるものに思えた。3月の決算発表で、実売上は3.6%増の22億ドル(約2990億円)に達した。

しかし同社は7月12日、ビクトリアズ・シークレット、ピンク(Pink)、ビューティー(Beauty)の3つの事業部門を統合し、管理職160人、ホームオフィスの従業員の約5%を解雇することを発表したばかりだ。同社の改革は「自社戦略の実行を可能にし、長期的な成長目標を促進するよう設計された」もので、同社は第3四半期から年間約4000万ドル(約54億4000万円)を節約することができる。

一方で、アパレルeコマースのスティッチフィックスでもトラブルが起きていた。同社は300人を超える有給の役職をレイオフすると発表した直後、純損失が前年の1880万ドル(約25億6000万円)から7800万ドル(約106億円)に増大したと発表した。

自宅でのトレーニング

パンデミックの最中に家庭用エクササイズ機器への需要が増加したとき、自宅用フィットネス企業のトーナル(Tonal)の評価額は、2021年のある時点では16億ドル(約2180億円)に達し、新規株式公開の準備を進めていた。しかし7月、事業コストの上昇を理由に、従業員の35%をレイオフした。

グローバルコンサルティング企業のアリート(AArete)の小売プラクティスリーダー兼マネージングディレクターを務めるタイラー・ヒギンス氏は、「小売業界では、2021年には多くの業者が絶対的な好景気を迎えるといった状況から、店舗を完全に閉鎖して一時解雇やレイオフを行わざるを得ない状況が起きたが、24カ月のライフサイクルでこのように状況が一変するということは、ほかの業界では考えられない」と述べている。同氏は、一部の小売業者は2021年に経験した需要が続くと考えて野心的な計画に乗り出したと付け加えている。「これらの業者は、成長が同じ勢いで続かなければ、最終的には人員過剰となるだけだ」。

パンデミックの初期には、Covidによるロックダウンのため、ペロトンのハイエンドのエクササイズバイクやトレッドミルの売上が急増した。2020年9月に同社は、売上が172%増加したことから、はじめて四半期で利益を計上した。

しかし現在、パンデミックにより推進された同社の売上増加は終わりに来たようだ。5月に発表された同社の決算報告によると、同四半期の損失は7億5710万ドル(約1030億円)に増加した。

ペロトンは2月、CEOを交代させ、コスト削減計画の一環として2800人の従業員をレイオフし、法人での職務を約20%削減すると述べた。レイオフに加えて、倉庫も減らし、サードパーティの物流プロバイダとの契約を拡大することで、年間約8億ドル(約1090億円)のコスト削減ができるという。

食料品の配達

食料品配達企業は、ソーシャルディスタンスを含め、消費者の買い物の行動に変化が発生したことから、もっとも大きな恩恵を受けた業界のひとつだった。需要の結果として、このカテゴリーには多額の資金が急激に流入した。しかし、このカテゴリーに弱点の兆候が見えはじめるまで長くはかからなかった。

アクシオス(Axios)は昨年12月、ゴーパフ(Gopuff)が15億ドル(約2040億円)を確保したと報告した。しかし、数カ月後の3月には、従業員の3%を解雇した。そして7月、「間接費を取り除き、運用上の効率を促進する」ための手段として全世界の従業員の10%をレイオフする予定だと発表した。約1500人の従業員が解雇されることになる。

配達の新興企業であるゴリラズ(Gorillas)は2021年に、シリーズB資金調達で2億9000万ドル(394億円)を手にした。一方でゲティール(Getir)は3月に、シリーズE資金調達ラウンドが7億6800万ドル(約1044億円)で終結したと発表した。

しかし、景気後退の懸念が増したことで、これら2社の配達の新興企業は従業員の数を削減することになった。ゴリラズは5月に、収益性を求めてイタリア、スペイン、デンマーク、ベルギーの4つの市場から撤退し、約300人の従業員をレイオフすることを発表した。同月にゲティールは、全世界の従業員数を14%削減することを従業員に告知した。

小売への影響

景気後退が予測されるときに大量のレイオフを行うのは、新しいことではない。マクロ経済の逆風から小売業者の利益が減少するときに従業員の数を減らすのは、企業にとって経費削減の手っ取り早い方法だ。しかし専門家たちは、経済が安定したとき、長期的に見てこの方法は、小売業者の評判と財務に大きな損害を引き起こす恐れがあると警告している。

最近数カ月における従業員数の大幅な減少は、小売業界が今年前半に行った急激な雇用と明確な対比を見せていると、専門家たちは語る。いずれかの時点、おそらくはホリデーシーズンに、小売業者はそれらの職位を再度補充しはじめる可能性がある。しかし、小売業者が当時、それらの職位を充当するために苦労したのと同様に、今後数カ月に小売業者は同じ立場に陥るかもしれない。

モダンハイアー(Modern Hire)のイノベーション担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるエリック・サイデル氏は、従業員をレイオフしてから再度雇用するには、退職金、新しい人材の検索、新しい従業員のトレーニングなど、小売業者がしばしば考慮していなかったことが発生する可能性があると語る。さらに、生産性の低下や、レイオフを行ったあとの風評被害など、簡単に数値化できないコストもあり、特に後者は最高の人材を企業が招き入れるのを困難にする可能性がある。

サイデル氏は次のように述べている。「これはある意味神頼みの戦略で、長期的にはいい結果にならない。多くの場合、特に小売部門において、景気が後退して金利が上昇しているときにレイオフを行うと、年末年始の買い物が再開される秋には、いいポジションを確保できないことがよくある」。

経営コンサルティング会社のコーンフェリー(Korn Ferry)でシニアクライアントパートナーを務めるクレイグ・ローリー氏は、このラウンドのレイオフにより、小売業者は事業運営を困難にする可能性が高いと語る。レイオフや雇用凍結が、ハイテク、銀行、不動産など多くの業界に広がっているため、裁量的な支出は減少していく可能性が高い。

ローリー氏は次のように述べている。「経済も顧客も、予測できない状況だ。来年はどの企業も、ほとんどのリーダーにとって愉快な時期ではないだろうが、そのなかでも特に小売業界は厳しい状況となるだろう」。

[原文:After years of hyper-growth, layoffs come for the retail sector]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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