登録ウォール は定期購読へのかけ橋として活用できるか:「「コンバージョンを求める気持ちはわかるが、多少力を抜く必要もある」

DIGIDAY

登録ウォールは有料定期購読者と匿名読者の間、という微妙な位置にいる読者との関係構築を始めるための、橋渡し的存在となっている。そうした中間的読者は1回きりの訪問者と大して変わらないとされているが、いくつかのパブリッシャーは定期購読料を支払ってくれる読者の増加に繋がる、より良い関係の構築を始めている。

登録ウォールはパブリッシャー勢が、有料定期購読者と匿名読者の間、という微妙な位置にいる読者との関係構築を始めるための、橋渡し的存在となっている。そうした中間的読者は主にリピート訪問者ではあるものの、登録させられなければ、各々の関心に関する十分なデータが得られず、そのためARPU(Average Revenue Per User、ユーザー1人あたりの平均売上金額)もLTVも、1回きりの訪問者のそれと大して変わらない。

だが、eメールアドレスの提供を求める登録ウォールおよび有名プロダクトの導入により、ガネット(Gannett)やデイリー・ビースト(The Daily Beast)とといったパブリッシャーはユーザーとのより良い関係を構築し、ページ閲覧数の増加に、ひいては定期購読料を支払ってくれる読者の増加に繋がる、より良い関係の構築を始めている。

登録ウォールがもたらすもの/h2> Advertisement 登録ユーザーは非登録ユーザーに比べ、有料定期購読者(サブスクライバー)になる確率が45倍と、ピアノ(Piano)が最新報告書「Subscription Benchmark Report(サブスクリプション・ベンチマーク・レポート)」で発表。 とはいえ、メーター制登録ウォールは逆に、パブリッシャーのペイウォール戦略にマイナスの影響を及ぼす恐れあり。 デイリー・ビーストとガネットは登録ウォールを、定期購読はしていないが、自身に関する貴重な情報――つまりeメールアドレス――は喜んで共有するユーザーとの関係向上に活用中。「以前は、完全な匿名と完全な忠誠の二極にのみフォーカスしていた」とガネットのコンシューマープロダクツ部門SVPカラ・チリズ氏は話す。「登録ユーザーの創出というこの機会を通じて気づいたのは、第三のユーザーの存在であり、彼らは定期購読者になるかもしれないし、ならないかもしれないが、登録してもらうことで、彼らにも我々にも利益がある」。 忍耐のいる効能

2022年7月前半に発表されたピアノ報告書『Subscriptions Benchmark Report』によれば、匿名訪問者から有料定期購読者へのコンバージョン率はわずか0.2%強だが、登録ユーザーのそれは約10%に上る[編註:ピアノはDIGIDAYの契約ベンダーの一社]。ガネットとデイリー・ビーストも同じく、登録ユーザーから有料定期購読者へのコンバージョン率は匿名ユーザーのそれよりもはるかに高いと断言する。ただし、具体的な数字は明らかにされていない。同報告書はBBCやCBS、ウォールストリート・ジャーナルをはじめ、500社以上からなるピアノの顧客ベースに基づいている。

同報告書に記載のコンバージョン率は0.5%から12%と、パブリッシャーによってかなりの幅がある。読者のeメールアドレスの入手だけでは、コンバージョンに繋げるには不十分、という点は念頭に置いておく必要があると、ペイウォールプラットフォーム、ピアノのストラテジー部門SVPマイケル・シルバーマン氏は指摘する。ただそれでも、ある程度の時間が経てば、通常は有料のコンテンツへのアクセスや、パーソナライズされたサイト体験など、登録読者ならではの価値が相応に蓄積されていくのは間違いない、とも氏は言い添える。

登録ユーザーの初年度における有料定期購読者へのコンバージョン率は、平均わずか3%であり、登録からコンバージョンに至るファネルは予想以上に長い可能性があると、先述のピアノの報告書は指摘する。その内、登録初月のコンバージョン率は21.4%と低く、40%以上が登録後2カ月から12カ月の間で起きている。つまり、ユーザーに欲求を可能な限り長く保持させることが、登録ウォールの有効的利用の鍵となる。

エンゲージメントに報いること――ただし褒め過ぎ注意

パブリッシャーが登録ウォールを介してコンバージョン率上昇を狙う際に注意すべき最大の落とし穴は、登録の見返りとしての報酬をユーザーに提供し過ぎてしまうことだと、FTIコンサルティング(FTI Consulting)のテレコム、メディア&テクノロジーインダストリーグループのマネージングディレクター、ジャスティン・アイゼンバンド氏は指摘する。

デイリー・ビーストは登録の場を4つ設けている――プッシュ通知、アプリおよびニュースレター、そして登録ウォールだ。同社は登録ウォールを一部コンテンツにおけるペイウォールとして代用しているが、その狙いは、現時点で定期購読をしていない読者を同社のコンテンツに引き込むことにあると、CROミア・リバティ氏は話す。同社の場合、登録ユーザーの定期購読者へのコンバージョン率は匿名ユーザーのそれの300倍にも上ると、氏は言い添える。

ガネットは一方、登録ウォールをメーター制ペイウォールの前段階的存在にはしていない。「我々の場合、コンテンツはプレミアムと非プレミアムのいずれかだ。したがってコンテンツは、登録者ではなく定期購読者の特典であり、前者には基本的に関連コンテンツを開示している」と、チリズ氏は話す。

その代わりに、読者は記事にコメントをしたい、もしくはニュースレターを購読したいと思えば、すぐに登録できるようになっており、同社はこの仕組みを通じ、自社ニュースサイトと交流を望む読者の欲求に価値を付与している。「そうした類のものこそが、経時的に価値を付与し、長期的な関係を築いてくれると、我々は考えている」と氏は話し、登録ユーザー1人あたりのページ閲覧数は、非登録ユーザーのそれよりも平均で5倍多いという。

多くのユーザーに支払いを求める姿勢を止める

アイゼンバンド氏によれば、彼の知るパブリシャーの中には、メーター制ペイウォールをいったん引っ込め、代わりに登録ウォールを設けることにしたところもあるという。つまり、読者は30日間で読める記事は3つ、といったペイウォールの壁に阻まれる代わりに、気が向いた時に登録でき、たとえば1カ月で5つの記事を読んだ段階で、再びペイウォールの壁に遭遇する。同社も無論、登録数は増やしたいが、可能な限り多くのユーザーにコンテンツへの支払いを求める姿勢は止め、短期的に見れば、コンバージョンファネルの口をあえて絞ることにしたという。

「コンバージョンを求める気持ちはわかるが、多少力を抜くのもありだ」とアイゼンバンド氏は話し、あまりにも多くのアクセスを一気に与え過ぎると、「今この状態でも欲しいものがほとんど手に入っているのに、どうしてわざわざ金を払わないといけないんだ?」と読者に思われてしまう恐れもあると、氏は言い添える。

[原文:Media Briefing: Publishers use registration walls as subscription bridges

Tim Peterson and Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)


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