良いニュースと悪いニュースがある。前者は、事実上の識別子としてIPアドレスにいつまでも依存してはいられないという認識が、CTVの広告業界に浸透しつつあること。後者は、業界の趨勢がいまだIPアドレスに依存していることだ。
筆者が最近話をしたあるエージェンシー幹部は、アドテク企業と提携し、広告主がCTVの広告を世帯単位でターゲティングする支援を始めたところだ。同幹部は企業名を伏せることを条件に、次のように語った。
「彼らは非常に洗練された、他の追随を許さないアプローチを有している。(緯度経度情報を)IPと組み合わせ、世帯レベルで正確なターゲティングを実現できるのだ」。しかし、問題がひとつある。「IPを失った瞬間、すべては崩壊する」と、同幹部は言う。
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IP依存のCTVの現状
- CTVの広告業界は、いまだにIPアドレスに頼って世帯単位のターゲティングと測定をおこなっている。
- だが、業界幹部はこのような依存に伴うリスクを認識している。
- プライバシー保護規制当局の最近の動向から考えて、IPアドレスはいずれ識別子としての選択肢から外れるかもしれない。
IDチェック
あるアドテク企業の幹部は、自社の自動コンテンツ認識テクノロジーを利用して人々がCTVのスクリーンでどの番組や広告を見ているかを追跡し、ターゲティングと測定に利用するサービスを広告主に提供している。同社が視聴行動と個々の世帯を結びつけるのに使っている識別子は? 「我々はIPアドレスを利用している」と、同幹部は述べる。
一方で、業界幹部の多くは、IPアドレスは遠からず選択肢から外れるだろうと考えている。
「いずれ終焉を迎えると認識しておくべきだ」と、別のアドテク企業幹部は言う。「長期的に有効な識別子だとは考えていない」と、3人目のアドテク企業幹部も口をそろえる。
断っておくと、IPアドレスはすでに個人識別可能な情報に分類されている。カリフォルニアのプライバシー保護規制でそのように定義されており、現在準備されている米国データプライバシー保護法案(データプライバシーに関する連邦法の成立をめざす米国議会の最新の取り組み:以下、ADPPA)でも同様に、IPアドレスは固有識別子に分類され、同法案において規制対象となるタイプのデータのひとつとされている。
「当局は基本的に、個人識別可能な情報を手っ取り早く生成する方法に対して、規制を強めたがっている」と、法律事務所ウォンブル・ボンド・ディッキンソン(Womble Bond Dickinson)のテッド・クレイプール氏は言う。
踏み込んだ規制強化
規制強化は今に始まった話ではない。繰り返しになるが、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)は2020年1月の施行以来、IPアドレスの利用を規制している。しかし、プライバシー保護規制は最近になってさらに強化され、企業がIPアドレスのようなデータを利用する際、どのように消費者の同意を得るかという部分に、新たなルールを制定しつつある。
たとえば、現在議論されているADPPAは、IPアドレスを含む規制対象のデータの送信を拒否するオプトアウトの選択肢を提供することを、企業に義務づける内容になっている。カリフォルニア州はさらに踏み込む構えだ。
CCPAの執行を担う機関であるカリフォルニア州プライバシー保護局は、今年5月に新たな規制の草案を発表した。これによると、IPアドレスなどの個人情報を「個人情報の収集と処理をおこなった本来の目的とは無関係、あるいは相容れない何らかの目的で」収集、利用、共有する前に、企業はユーザーの同意を得ることを義務づけられる。
「規制当局は、マーケターに目的を達成するための同意を、それも意味のある同意を得ることを強制し、簡単かつシンプルに個人を特定する手段を奪おうとしている」と、クレイプール氏は述べる。
業界は脱却するしかない
言い換えれば、CTVプラットフォームやストリーミングサービスは、広告部門がIPアドレスを広告ターゲティングの目的で利用しつづけるつもりなら、今後はウェブサイトのCookieに関するバナーに相当するものを表示しなくてはならなくなるということだ。それが嫌なら、業界はIPアドレスから完全に脱却するしかない。
「(IPアドレスは)次のサードパーティCookieであり、いずれ(個人識別可能な情報に)区分されるだろう。そうなれば、2020年代の広告業界で生き抜くのは、多くの人々にとってますます難しくなる」と、2人目のエージェンシー幹部は述べた。
[原文:Future of TV Briefing: The connected TV ad industry is still weaning itself off the IP address]
Tim Peterson(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)