オンラインファッション小売業者 がビューティ分野へ次々と参入。成功する要素とは?【ビューティブリーフィング】

DIGIDAY

化粧品、スキンケア用品、ヘアケア用品はどこでも簡単に買えるようになった。過去4年のあいだにAmazonターゲット(Target)ウォルマート(Walmart)はビューティ商品の扱いを大きく拡大し、アンソロポロジー(Anthropologie)やメイドウェル(Madewell)などのファッションブランドも、限定した品数でビューティカテゴリーへの進出を試みている。だが特にこの数カ月、オンラインファッション小売業者が次々とビューティ分野への積極的な進出を発表する動きが著しい。

4月にはファーフェッチ(Farfetch)がビューティ系のラインナップを公開し、そのマーケットプレイスで100の高級ブランドの扱いを始めた。その前の1月には、ポジショニングの一環としてバイオレットグレイ(Violet Grey)を買収している。後れを取るまいとモーダ・オペランディ(Moda Operandi)も5月にビューティ進出を発表し、2022年秋の立ち上げを予定する。さらにはショップボップ(Shopbop)も、同社に近い情報筋によると既存のビューティ商品の品ぞろえを見直し、2022年の夏に大々的な展開を計画しているという。ショップボップは今回の記事に関するコメントは差し控えたいとしている。

もちろん、ビューティ商品のオンライン販売自体は特に目新しいことではない。サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)やブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)などの百貨店はそのブランド体験と店舗体験をオンラインで再現しようと図っているし、いうまでもなくAmazonもビューティ商品を販売する。ネッタポルテ(Net-a-Porter)も、2013年に11のブランドでビューティ商品の販売を開始している。リボルブ(Revolve)とその姉妹ブランドのフォワード(FWRD)は、それぞれ2016年と2020年にビューティ分野に販売を拡大した。最近のファーフェッチ、モーダ・オペランディ、ショップボップの参入は、これらのオンラインビジネスが成熟期を迎え、1人当たりの購入量と収益の拡大を狙っていることを示している(拡大狙いでいえばターゲットのアルタビューティー[Ulta Beauty]との提携もまさにそうだ)。また、カテゴリーとしてのビューティは、ファッションよりはるかに逆境に強く、それがこうした進出計画を推し進める要因となっている可能性がある。

ビューティへの二度目の挑戦となるファーフェッチ

オンライン販売でビューティ分野への進出を成功させるには、ビューティに対する視点を明確にする必要がある。その上でその視点に立ったブランドを販売し、既存・新規の両方の顧客に対して効果的なマーケティングを行う必要がある。市場に大量に存在する新興ブランドのことを考えると、インディーズブランドや話題のブランドの採用がもっとも簡単だろう。だが、クールなビューティブランドをウェブサイトにとってつけたところで、それが売れることにはならない。

ファーフェッチが最初にビューティ商品の販売を試したのは、2016年にスペースNK(Space NK)と提携したときだった。同社の最高顧客責任者であるステファニー・フェア氏は、うまくいかなかったのはファーフェッチがラグジュアリーファッションでの既存モデルを単純にビューティに適用することができなかったからだと認めた。「ビューティ業界は勝手が違う。感情に大きく訴えるカテゴリーであり、ビューティ商品の買い物では、感情的につながることができて自分の価値観に合うところが選ばれる」とフェア氏は話す。

フェア氏によると、今回の進出の効果を高めるため、ファーフェッチは同社のラグジュアリーマーケットプレイス体制とグローバルなDNAを活用したという。同時に、インディーズブランドから調達して支援する卸売モデルの展開や、自社ブランドの育成にも取り組んでいる。ファーフェッチのオンライン店舗出店モデルとグローバル倉庫は、エスティローダーカンパニーズ(Estée Lauder Companies)やコティ(Coty)など、これまでこうしたオンラインファッション小売業者をほぼ避けてきた大手ビューティグループには特に魅力的だろう。グッチビューティ(Gucci Beauty)、ラ・メール(La Mer)、トムフォード(Tom Ford)はいずれもファーフェッチで販売されている。こうした大手は自社のD2Cサイト構築にも懸命に取り組んでいるところで、そこでもファーフェッチのモデルを役立てることができる。

バイオレットグレイとの関係や、ヘアスタイリストのジャワラ、メイクアップアーティストのイサマヤ・フレンチとエリン・パーソンズなどのエキスパートが名を連ねるファーフェッチのビューティ・グローバル・コレクティブ(Beauty Global Collective)の存在も、ファーフェッチの立場を高めている。ファーフェッチは、評価・レビュー・チュートリアルの新セクションの構築にビューティ・グローバル・コレクティブを活用しており、たとえば、ビューティ・グローバル・コレクティブの投稿や買い物客とのオンラインでの交流は、そのセクションで行われている。

フェア氏は「大手ブランドの権威あるセレクションをそろえ続けると同時に、ブラウンズ(Browns)やバイオレットグレイを通した調達でインディーズブランドもそろえていく」と語った。

リボルブとフォワードはファッションとは切り分けたマーケティング戦略を展開

評価、レビュー、チュートリアル、シェードファインダー、UGCなどは、今日のビューティ販売サイトになくてはならないものだ。パンデミック下でEC売上拡大を狙ってセフォラ(Sephora)がこうした機能の構築にかなりの時間をかけたのにはそれなりの理由がある。一方、ショップボップやエッセンス(Ssense)のビューティ商品のページを見ても、これらはどこにも見当たらない。ビューティが他のファッション商品とまったく同じ扱いになっているからだ。たとえばショップボップでは、スーパーグープ(Supergoop)のリップクリームをクリックすると、一緒に買うことを薦められる商品として、ソリッド&ストライプ(Solid & Striped)の水着とイザベルマラン(Isabel Marant)の野球帽が表示される。エッセンスでウェストマンアトリエ(Westman Atelier)のプレストパウダーをクリックしても、ページの下方にさらに同じラインの別商品が表示されるだけだ。

リボルブとフォワードに目を向けると、こちらもビューティでの存在感の確立に余念がない。リボルブの最高マーチャンダイジング責任者のローレン・ヤーキーズ氏によると、最初はファッションの枠組みの中で、45のブランドのみで試行を始めたそうだ。これが成功を収めると、リボルブはビューティ専用のランディングページを用意した。ヤーキーズ氏はこれが「新着商品、売れ筋ブランド、最新トレンド、インフルエンサーのビューティ関連記事を簡単に見つけることのできる中心的なハブ」なのだと話す。2016年にはリボルブビューティ(Revolve Beauty)のソーシャルメディアアカウントも開設され、同時に美容に特化した週刊メールも創刊された。ビューティとファッションのクロス投稿もひとつの戦術ではあるが、リボルブがビューティ専用のアカウントやメールを用意したことは、美容サイトとして認識されるために極めて重要だった、とヤーキーズ氏は語る。

「リボルブは早い時点でデジタルチャネルやデジタル技術、ブランドマーケティング戦略の活用を始めていた」とヤーキーズ氏はいう。「当社のイベント、アクティベーション、インフルエンサーネットワークは最大の差別化要因として確立されており、私たちは絶えずこれらに対するアプローチを進化させている」。

リボルブにとって、インフルエンサーとのタイアップは重要だ。特に、カミラ・コエーリョ氏をはじめとする元アンバサダーたちが自分のビューティブランドを立ち上げているとなればなおさらである。好例として、コエーリョ氏が2020年に創設したエラルス・ビューティ(Elaluz Beauty)がリボルブで販売されていることが挙げられる。

リボルブではこれまで、シャーロット・ティルブリー(Charlotte Tillbury)、オラプレックス(Olaplex)、イリア(Ilia)、ドクター・バーバラ・シュトルム(Dr. Barbara Sturm)などのベストセラーをはじめとする、300以上のビューティブランドをそろえてきた。ブランドの取りそろえが拡大するにつれて、売上も伸びている。リボルブの2019年のビューティ関連売上は1140万ドル(約14億8200万円)だったが、着実な成長にビューティ商品のオンライン購入人気が相まって、2021年には3000万ドル(約39億円)に達している。

可処分所得の多い顧客を狙うフォワード

姉妹ブランドのフォワードも、ビューティ事業に重点を置く。パンデミック下でのオンラインショッピングブームの波に乗ったフォワードは、ラグジュアリースキンケア、セルフケア、ウェルネス商品に大きく注力した。最初に販売したブランドには、バイレード(Byredo)やイソップ(Aesop)などがある。

フォワードのバイスプレジデント、エイプリル・コザ氏は次のように述べる。「そこで見えてきたのは、メイソンピアソン(Mason Pearson)などの新しいブランドを登場させるとすぐに売り切れる、ということ。女性たちが1カ所ですべてをまとめて買いたいと本当に願っていることが理解できたとき、ビューティ商品に対する本格的な取り組みが始まった」。フォワードでは、人気のインディーズブランドであるアウグスティヌス・バデール(Augustinus Bader)や111スキン(111 Skin)など、約60のビューティブランドを扱っている。

コザ氏の話は、最高級の品と個別対応サービスを提供するワンストップショップという、元来の百貨店ビジネスを思い起こさせる。だがビューティ商品に関しては、今も美容部員のいる百貨店のほうに分がある。美容部員は、顧客を引き込み商品の販売を推進する、究極のマーケターだ。

コザ氏は、フォワードで買い物する人がリボルブより年齢層が高く、可処分所得も多いと話す。こうした客層に対しては、選び抜かれた取りそろえを用意するほうが理にかなっている。コザ氏いわく「ペルソナは郊外に住み、10代や大学生の子を持つ。忙しくて時間はあまりないが、とても社交的。サンローラン(Saint Laurent)のバッグを持ち、おそらくアミナモアディ(Amina Muaddi)のヒールを履いていて、誰も聞いたことも見たこともないけれども、誰もがどこのものか知りたいと思っているワンピースを着ている」。

フォワードのビューティ事業はまだ規模が小さいが、ホリデーシーズンに向けてブランドの取りそろえを拡充しているところだとコザ氏は話した。同社の財務的な数字は公開されていない。コザ氏は、リボルブも多様なブランドをそろえていることから、リボルブとフォワードの両方がビューティ大手にとってより大きな存在となることを期待している。エスティローダーカンパニーズのトムフォードとラ・メール、資生堂のクレ・ド・ポー(Cle de Peau)はフォワードに適しているだろうし、エスティローダーカンパニーズのドクタージャルト(Dr. Jart)とクリニーク(Clinique)、資生堂のドランクエレファント(Drunk Elephant)はリボルブのほうが適しているだろう。

「こうした巨大ブランドの世界に入っていくのは簡単ではない。複数の層があり、予算に関する条件もベンダー対応も、物流に関する課題もさまざまだ。だが、当社としては積極的にこれを追求しているところだ」とコザ氏は語った。

ブランドにとってはプラスの多いオンライン進出

オンラインファッション小売業者がビューティ分野における自社のポジショニングを決めていくにつれ、成功を見るのはブランド側だ。バイオレットグレイでブレイクしたアウグスティヌス・バデールのように、流行のブランドとなる場合もある。これらのサイトで販売するには、セフォラとアルタビューティーや、ターゲットとウォルマートのような量販店の場合には必要な資本やインフラは必要ない。その一方で、こうしたオンラインファッション業者が大量の商品販売につながるかは定かではない。

「セフォラとアルタの優勢は揺るぎがたい。彼らは厳しい条件の取引を勝ち取り、利幅の薄い小売業を営んでいるが、そうした取引は成長軌道と拡大という意味では状況を大きく変える力を持っている」とベリティ・ベンチャー・パートナーズ(Verity Venture Partners)の共同創業者であり、共同マネージングパートナーのティナ・ブーサバ氏は語る。「この2社を除くと、他の小売業者の売上高は大幅に落ちるが、ブランドにとってはオンラインを試してみることは、通常の範囲外での露出と認知度の獲得につながるため、最終的にはプラスになる」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Online fashion retailers want in on beauty, but are they ready?

PRIYA RAOJUL(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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