eスポーツ系のメディア各社はいま、今年の春に始まり、ここにきてその勢いをさらに増すレイオフの嵐の真っ只中にいる。大手のジャーナリズム部門がその門戸を閉じ、新たなビジネスモデルへの方向転換をはかるなか、一部の業界観測筋は、はたしてeスポーツジャーナリズムがこのままのかたちで生き延びていけるのかということに、悲観的な見方を示している。
2016年から業界の動向を取り上げてきたeスポーツ系ジャーナリズム企業、インベン・グローバル(Inven Global)は先日、トラフィックの減少と、迫りつつある不況を理由に、エディターの大多数をレイオフした。
かつてインベン・グローバルのジャーナリストだったトム・マシーセン氏は、次のように語る。「インベンの経営陣の話では、今後はゲーム市場におけるマーケティングにフォーカスする方向へと転換をはかっていくことになるようだ。それがどんな結果を生むことになるのか、私にはわからない。すべては彼ら次第だ」。
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Tom Matthiesen
ーインベン・グローバルは、今日編集部員をレイオフした。
いつものように「仕事募集中」のツイートを出すが、その前に、少し考えておきたいことがある。
ジャーナリズムにとってこれが何を意味するのか、私のキャリアにおいてインベンが果たした役割、そして私の将来についてだ。
インベン・グローバル(韓国のゲームサイトが以前から運営する英語版eスポーツジャーナリズムサイト)が行ったようなレイオフは、いまに始まったわけではない。何カ月も前から、こうした動きがゲームおよびeスポーツメディア業界を席巻している。
「どのメディア企業も死に瀕している」
eスポーツ系ニュースサイトのアップカマー(Upcomer)は今年3月、動画コンテンツへの方向転換をはかるため、エディターの大多数をレイオフした 。ゲーム・インフォーマー(Game Informer)も先日、親会社のゲームストップ(GameStop)が大量解雇を実施するなかで、スタッフ2名をレイオフした。
ダラス・モーニング・ニュース(Dallas Morning News)は7月11日、 eスポーツ専門記事を終了し、eスポーツライターを別の職務へ移すことを決断した。
ベテランのeスポーツジャーナリストで、ESPN Eスポーツ(ESPN Esports)やザスコア・Eスポーツ(theScore Esports)といった編集部門の立ち上げを支援したロッド・“スラッシャー”・ブレスラウ氏は、次のように語る。「この業界全体が死に瀕している。どのメディア企業も死に瀕している。ジャーナリズムの世界全体が変化し続けている」。
コストダウンの格好の標的
実のところ、eスポーツメディアを悩ませているさまざまな問題は、ある意味では、メディア業界が2022年現在、直面している収益性をめぐる課題の縮図だ。
eスポーツ系パブリケーションの大多数は、ベンチャーキャピタリストの支援を受けている。eスポーツジャーナリズムに対する需要と、eスポーツ業界全体の成長は、いずれ足並みが揃ってくるのではないかと、彼らベンチャーキャピタリストたちは期待していたのだ。不況の兆しが見えてきたいま、資金繰りに苦しむジャーナリズム部門はコストダウンの格好の標的になっている。
インベン・グローバルのある社員(雇用主からの報復のおそれがあるため匿名を希望)は、次のように語る。「VCサイトはいま、どこも大なり小なり金欠に陥っている。だったら、かつてのスタイルに戻るしかないと、私は思っている。eスポーツは情熱を注ぐプロジェクトであり、小規模なサイトのサイドビジネスだ。だがしばらくは、かつてのようなフルタイムの仕事に戻ることはないだろう」。
トラフィックの減少
とりわけeスポーツジャーナリズムが大打撃を受けている、業界全体が直面するもうひとつの課題。それは、2022年5月にGoogleのアルゴリズムに対して行われたコアアップデート後のトラフィックの減少だ。
一部の観測筋によれば、このアップデート後、eスポーツパブリケーションの読者数は軒並み打撃を受けたという。
eスポーツコンサルタントで、ニュースサイト「Eスポーツ・ニュースUK(Esports News UK)」の創業者、ドム・サッコ氏は、次のように述べている。「程度の差はあれ、Googleのアップデート以来、さまざまなサイトがその影響を受けている。eスポーツパブリケーションもその例外でないことは、私がいちばんよく知っている。Eスポーツ・ニュースUKと同じように、一部の大手パブリケーションもインプレッションとトラフィックの減少に見舞われている」。
編集以外の収益源への拡大
デクセルト(Dexerto)は、一貫して利益を出している数少ないeスポーツジャーナリズム企業のひとつだ。自社編集物のバーティカルから得た信用を活かして、たとえばブランドへのコンサルといった、より効率のいい収益源を構築していく。それが同社のやり方だ。
実はブランドコンサルティングは、インベンの大きな収益源のひとつでもある。マーケティングへのインベンの方針転換は、同社が自社事業のこの側面に力を入れつつあることを示唆しているのかもしれない。米DIGIDAYはインベンにコメントを求めたが、この記事の締め切りまでに回答は得られなかった。
「ブランドコンサルティングは、この5年間のインベンの主な収入源だ」と、前出のインベン社員は語る。「韓国や東南アジアで人気の高いアジア圏の企業をプロモートすること。それが、売上の観点から見た、インベンのポジションだった。そして、欧米圏にマーケットを拡大したいインベンは、同市場に向けてコンサルティングサービスを提供した。インベンはアジアのゲーム市場で依然として高い知名度を誇る一方で、欧米でもその存在を知られているからだ」。
さまざまなパブリケーションが編集以外の収益源への拡大を続けている。これが示すのは、eスポーツメディアにとっては耳が痛い真実のひとつだ。いまのところそのオーディエンスは、確固とした情報源による綿密なeスポーツジャーナリズムを確立できるだけの規模には達していない。個々の有名インフルエンサーがますますその支配力を強めるコミュニティにおいて、eスポーツファンが気にかけるのは、誰が真っ先にいちばん大声でそのニュースを伝えるのかであって、誰がいちばん正確に伝えるのかではない。
別のインベンの元社員は、次のように語る。「メディアリテラシーがここまで低かったことは、過去になかったのではないか。誰もがニュースをソーシャルメディアから入手しているいま、その情報の出所などたいして気にもされなくなってしまった」。
オーディエンスは「違い」を気にしない
今回取材した関係者のなかには、eスポーツの若いオーディエンスのアテンションスパン(集中力の持続)があまり長くないことを示すさらなる証拠として、eスポーツジャーナリズムとインフルエンサーによる解説(フル・スクワッド・ゲーミング[Full Squad Gaming]のジェイク・ラッキー氏など)のあいだにある垣根がなくなりつつあることを指摘する人もいた。
インベンなどの従来型パブリケーションが次々に倒れていく一方で、フル・スクワッドはますます数字を伸ばしている。eスポーツオーディエンスの多くは、両者のコンテンツの違いなど指摘できない。というより、そもそも気にもしていない。
長年にわたって独自のレポートをTwitterに投稿することで「ナンバーワンeスポーツコンサルタント、リーク屋」の名声を確立したブレスラウ氏は、次のように語る。「ジャーナリストではない彼らは、テーマに切り込むこともなければ、関係者から話を聞くこともない。当然、Reddit(レディット)のスレッドを読むだけでは知り得ない情報を付け加えることもない。彼らは、読者が物事の核心に迫れるようなサービスを何も提供していないし、物議を醸しそうなことや、自分が悪く映りそうなことには首を突っ込もうともしない。それでもいっこうに構わないのだが」。
大きく後退するeスポーツジャーナリズム
インベンは2022年にレイオフを実施した最初のeスポーツ系パブリケーションではない。また、同社がその最後になることもないだろう。
業界各社が不況を見越して身を潜めるなか、これまで一貫して利益ではなく情熱の産物であり続けてきたeスポーツジャーナリズムは、大きく後退しつつある。eスポーツコミュニティが成熟するか、本物のジャーナリズムを求めるオーディエンスを生み出せるだけの規模に成長するまでは、この状況がよくなることはないだろう。
「もし将来のジャーナリストたちが、リチャード・ルイス氏やジェイコブ・ウルフ氏ではなく、ジェイクやキームスターをアイドルとして見ているのなら、そこには困った未来が待っているような気がする」と、サッコ氏は語る。「10年、20年後がどうなっているのか楽しみだ」。
[原文:‘Our entire industry is dying’: In esports media, layoff season is in full swing]
Alexander Lee(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)