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eコマース新興企業の創設者たちは、過去2年間に経済の状況が激しく変動することに慣れてきた。しかし最近になって、景気後退の可能性は、多くの創設者たちがパンデミックの初期段階以来見たことがないほど頻繁に語られるようになってきた。
ヒーローコスメティクス(Hero Cosmetics)の創設者であるジュウ・リュー氏は、「私にとって、景気後退は過去数週間により現実的なものになった」と筆者に語った。同氏は、これはいくつかの出来事が立て続けに起こったためだとしている。ターゲット(Target)とウォルマート(Walmart)が最新の四半期決算発表で報告した利益が予測より低かったこと、インフレが3月に40年ぶりの最高値に達したこと、連邦準備制度(Fed)がついに利上げに踏み切ったことだ。同氏は、これらの事実により、今年後半に向けて「当社の戦略を再評価するという意味で、非常手段を取ることになった」と語る。
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リュー氏と同様に、多くの創設者たちは今後数カ月に起きる可能性がある景気後退に対してどのように備えるかを検討するため、多くの時間を費やしていると語る。これらの対話は、企業の規模と段階によって異なる様相を見せている。ベンチャーの支援を受けた一部の新興企業は、最初に予期していたよりも早く資金調達ラウンドを行うことを検討しており、競合他社が同じことを行うのであればレイオフも検討している。事業に大きな変更を加えることは考えていないが、消費者がますます価格を気にするようになっていくなかで、どのような商品やマーケティングメッセージが最適に働くかを再考しはじめている企業もある。
二極化する見解
バッグブランドのダグネドーバー(Dagne Dover)の共同創設者でCOOを務めるディーパ・ガンジー氏は、創設者たちのあいだで景気後退の可能性について行われている対話が極めて「二分化している」ことに気づいたと述べる。「すべてをロックダウンし、予算をゼロコストにして現金を節約しようと考えている人々もいる」と同氏は述べている。同氏の会社では、どちらかというと市場の状況が「意思決定を慎重に行う必要がある」という警告の役割を果たしているという。たとえば、ダグネドーバーは「顧客が年間通して購入するアイテムに確実に投資できるよう、在庫のフロー方式を見直している」と語っている。
パンデミックの最中に、ダグネドーバーのマザーズバッグは同社のベストセラーのひとつであり続けたと、ガンジー氏は述べている。「子供が産まれる人々は、この商品を購入する必要がある」と同氏は述べる。その結果、この商品は景気後退が起きたとしても良好な売れ行きが維持されることを同氏は期待している。
筆者が話し合った多くの創設者たちは、自分たちが現在行っている対話の多くは、消費者がますます価格を気にするようになっていくなかで、自分たちは適切な商品を十分に保有しているか、間違った分野に過剰な注文を行っていないかを保証することが中心になってきたと語る。
ワークレジャーブランドを自称しているカッツクロージング(Cuts Clothing)の創設者であるスティーブン・ボレリ氏は、「もっとも重要な点として、現在のところ、在庫は非常に控えめに注文することだと考えている。これは、物を作るビジネスを廃業に追い込む行為だ」と述べている。同氏は、多くの人々がオフィスに戻りつつあるのに合わせて、自社がここ数カ月にポロシャツを販促しはじめたと述べている。同氏は、オフィスウェアの需要は今後も続くと予測した。
一方でリュー氏は、ヒーローコスメティクスのアクネケアのカテゴリーで、人々が「格安商品へと切り替えている」ことにより、同社が実際に利益を受けられる可能性があると考えている。ヒーローコスメティクスの商品はすべて20ドル(約2700円)未満の価格で、ターゲットやウォルマートなどさまざまなマスマーケットの小売業者で販売されている。
「私はチームに対して、人々が格安商品に切り替えていることを示す活動があるかどうか、データを詳しく調べるようにと伝えている。ただし現在のところ、そのような活動は見られていない」と同氏は述べている。
しかし、景気後退は確実に起きると言いがたい状況で、筆者が話し合った創設者たちのほとんどはまだ慌てふためいていない。連邦準備制度が6月15日、インフレに対抗するため利上げを行うと発表したばかりでもあり、この方策がどのような結果になるかはまだ明らかでない。
価格への懸念
現在においてもっとも注目されているコスト削減の取り組みは、利益に転じていないベンチャー支援によるもので、新たな資金調達が困難になる可能性があるため、財務をコントロールしようとしている。たとえばワンクリックチェックアウトの新興企業であるボルト(Bolt)は5月下旬、従業員の約3分の1を解雇した。
ボレリ氏は、カッツクロージングが多少の現金を保持するため、今年初めに5人の従業員を解雇した(同社の従業員数は約60人)が、同社は利益を計上していると語った。ヒーローコスメティクスのリュー氏は、同氏の会社もやはり利益を上げており、現在のところ採用を続け、7つほどの職種を募集していると述べた。
リュー氏は、多くの人々が職を求めるにつれ、「私が実際に望んでいることのひとつは、人材のプールにもっと余裕ができることだ」と語っている。「過去1年か2年間にわたり、人材の確保は非常に厳しいものだった」。
しかし、新興企業の創設者の心をよぎるのは、目前の景気後退だけではない。過去2年間にわたってD2C新興企業は、新規顧客の獲得コストから原材料の価格の上昇まで、あらゆるものの値段が上がっていくことに対処することを余儀なくされてきた。その結果、これらの企業は顧客がますます価格を気にするようになっていくなかで、価格を低く保つ方法を見つけ出そうと試みている。景気後退は、これらの価格の一部を下げるために役立つかもしれないが、それがいつ起きるのかは明確でない。
プレミアムベーシックスブランドのグッドライフ(Goodlife)の共同創設者であるアンドリュー・コーディスポティ氏は、これまでのところ同氏の会社は、原材料や輸送のコストが上昇するなかでも、価格の上昇を回避することに成功してきたと述べ、これによって同社は、インフレが悪化するなかで優位な位置を占めることができたと同氏は考えている。「もっとも重要なのは、人々が配送コストや倉庫のコストを低減しようと試みていることだ。人々は従来よりもマーケティングへの出費をとにかくよく認識していると思う」と同氏は述べている。
今後数カ月に何が起きるにせよ、筆者が話し合った創設者たちの多くは、これまでにも増して現金に慎重になるよう、包括的な必要に迫られていると語った。
「景気後退は起きると思う。それが多くの人の語っているように破滅的なものかどうかは不明だが、起きるのは間違いないだろう」とボレリ氏は述べている。
[原文:DTC Briefing: For founders, recession fears have become ‘more real’]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Cuts Clothing