あらゆる形態のゲーム広告への関心が高まるなか、「ハイパーカジュアル」なモバイルゲーム開発者は、自社製品内の広告在庫にいかに価値があるか、主張している。
近年、ゲーム内の要素の一部としてごく自然に組み込まれた本質的ゲーム内広告(intrinsic in-game ads)などの新しい形態のゲーム内広告が注目を集めている。
しかし、カジュアルモバイルゲームの開発者たちはこれまでも、自分達のエコシステムをほかのゲーム広告よりもブランドにとってアクセスしやすく、かつグローバルなものとして構築することで、密かに広告提供内容を改善してきている。eマーケター(eMarketer)の調査によると、米国のモバイルゲーム広告収益は2022年に62億6000万ドル(約8500億円)に達すると予測されている。2021年、モバイルゲーム全体の広告収入は34%増加した。
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ハイパーカジュアルゲームという領域
ハイパーカジュアルモバイルゲームは、一般的に遊び方がすぐに理解でき、無料でプレイできるモバイルゲームを指す。そして、往往にしてこうしたゲームのシステムはミニマルで、往々にして昔のアーケードゲームを思い起こさせる。短い時間単位で楽しむのが一番とされているものだ。(画面を覆ってしまう)インタースティシャル広告や(見ることでゲーム内の報酬を得ることができる)報酬付きビデオなどの一般的なモバイル広告形式は、コンソールやPCゲームよりもこのジャンルで広く普及している。
「スナック感覚のコンテンツとなっている。地下鉄での2分〜5分、会議の合間など、どこでもプレイできる」とモバイルゲーミングのアドテク企業POKKTのCEOであるヴァイブハヴ・オドヘカー氏は言う。「リラックスすることを目的とした行動の一種であり、プレイ時間は長くないが、パッとゲームに入って、遊んで、パッと出て行くことができる」と述べた。ハイパーカジュアルゲームの顕著な例の1つは「キャンディクラッシュ(Candy Crush)」だが、アプリストアにはほかにも無数のハイパーカジュアルゲームがあふれており、ゲームスタジオたちは毎日それらを量産し続けている。
過去10年間で、ハイパーカジュアルゲームは、典型的なゲームオーディエンスと従来はゲーマーとは考えられていなかったグループの両方にリーチしたいと考えているブランドやマーケターにとって実り多い環境となった。ハズブロ(Hasbro)などの玩具ブランドは、自社製品のバーチャル版を宣伝するためにゲーミフィケーションされたモバイル広告を制作している。
一方でプログレッシブ(Progressive)などのより多くの大人向けブランドは、10年以上前からモバイル広告に関わっている。エンターテイメントソフトウェア協会(Entertainment Software Association:ESA)の最近のレポートによれば、ゲーム愛好者の70%がゲームをするデバイスとしてスマートフォンを好んでおり、18%がスマートフォンでのみゲームをすると答えている。
広告主からすると低品質?
ESAのプレジデント兼CEOのスタンリー・ピエール=ルイス氏はこう述べている。「モバイルではゲーム機よりも女性の方が多い。その主な理由は、アクセスのしやすさだ。65歳以上のプレーヤーはこれらのゲームをプレイしており、慣れ親しんだデバイスでゲームをプレイする人々にとって、モバイルデバイスがゲームの入口になっているという事実を物語っている」。
また、ハイパーカジュアルゲームは、コンソールゲームやPCゲームよりグローバルなリーチが広い。アジア市場では、モバイルゲームが主流となっている。その主な理由は、これらの地域のほとんどの世帯が専用ゲーム機にお金をかけることができないか、または使いたくないからだ。「個人用デバイスといえば、それはモバイルであり、ブランドにとっても同じだ。受け入れられるメディアといえば、モバイルだ」と語るのは、ムンバイに本拠を置くオドヘカー氏だ。「タイにいても、インドネシアにいても、インドにいても、本当にモバイルファーストだ」。
これらの利点にもかかわらず、一部の観測筋は、ハイパーカジュアルゲーマーたちは、比較的短いプレイ時間と特定のタイトルに対するロイヤルティの欠如のため、本質的に広告主にとって低品質のターゲットであると考えている。モバイルマーケティング・フトウェア企業のアップラビン(AppLovin)が発表した数字によると、この1年間、ハイパーカジュアルなゲーマーは1日平均7分〜10分しかプレイしていなかった。
しかし、毎日10分という時間は年単位では毎年数十時間に相当する。これは、アップラビン・エクスチェンジ(AppLovin Exchange)のような広告取引所に参入したいと考えているブランドにとってはかなりのエンゲージメントだ。アップラビンのEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ地域)およびアメリカ地域のデマンド責任者のミーガン・マルティーノ氏は、「彼らは可処分所得のある質の高いユーザーであり、この種のアプリにかなりの時間を費やしている」と語った。
もっとも進んだゲーム広告となるか
ハイパーカジュアルゲームは、新しいもしくは成長を続けているゲーム消費者にますますリーチしている。この強固かつ確立されたエコシステムに参加できることが、ハイパーカジュアル広告の最大の利点かもしれない。現時点では、ほかのゲーム広告はまだ初期段階にいるように感じられる。インタラクティブ広告協議会(IAB)がイントリンジック・ゲーム内広告の最新の測定基準をようやく公開したのは今週初めだが、メタバース広告はこれまでのところ、真の広告チャネルというよりは実験段階にとどまっている。
しかし、モバイルアプリ開発者、デマンドサイドプラットフォーム、そしてアップラビンのような広告エクスチェンジは、10年以上にわたって消費者に広告を提供してきた。そのため、ゲームユーザーとつながることに関心を持つものの、その経験の浅いブランドにとっては、これが快適な入り口となっている。
「誰もが同じルールに基づいて行動している。そのため、負荷の大きいブランドごとの大規模なカスタマイズを行う必要がない」とマルティーノ氏は話す。「高度にカスタマイズされた体験を求めているのであれば、イントリンジック広告は確かに特定のブランドや広告主に提供するための多くのものを持っていると思うが、それにはより多くの作業が必要だ」。
[原文:Why brands shouldn’t lose sight of hyper-casual gaming as a growing and diverse ad environment]
Alexander Lee(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)