複数のニュースレターを配信するアクシオス(Axios)のようなパブリッシャーにとって、バンドル化は忠実な読者を囲い込むための新たな戦略のようだ。
アクシオスはこの3月、毎日午前と午後に配信するニュースレターに、新たに立ち上げた1日の終わりに配信する「フィニッシュライン」を加え、政治・政策カテゴリーの日刊ニュースレター3本を「デイリーエッセンシャルズ」というひとつのパッケージにバンドル化した。朝夕のいずれか1本でも購読している読者なら、あるいは少なくともその購読に興味を持っている人なら、もうひとつ購読してみようと考えるのではないか。それならば、面倒な登録手続きを二度も三度もさせるより、一度で済ませられるようにするほうが合理的だろう。そう考えての一本化だった。
アクシオス編集長のサラ・ケハウラニ・グー氏によると、「デイリーエッセンシャルズ」への一本化によって、それぞれの開封率が向上した一方、購読者数の大幅減は起きなかったという(個別のニュースレターの購読者数や開封率は非公開)。このことを確認した同社は、経済分野を手始めに、このバンドル化戦略をほかのカテゴリーでも試験的に導入することにした。
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6月13日週、午前中配信の「マーケッツ」、新規立ち上げでランチタイムに配信の「マクロ」、東海岸で市場が閉じた後に配信される「クローザー」という日刊ニュースレター3本をまとめた「ビジネススイート」の配信が開始された。さらに、土曜日には週末版の「マーケッツ」が配信される。パッケージでの配信を望まない読者は、従来通り、希望するニュースレターを個別に申し込むこともできる。
アクシオスによると、同社のニュースレター購読者は全種類合わせて250万人に達し、平均開封率は41%だという。一方で、ニュースレター市場は飽和点を迎えつつあり、アクシオスのようなパブリッシャーは、読者のあいだに「ニュースレターを必ず読む」という習慣を根づかせ、しかも自社ブランドへの親近感を固定化しなければならないというプレッシャーにさらされている。
以下は、ケハウラニ・グー氏へのインタビューのハイライトである。なお、読みやすさを考慮して、若干の編集を加えている。
- −−新規に立ち上げた「マクロ」の発想はどこから生まれたのか?
- −−バンドル化したニュースレターでは、記者と編集者はどのように連携するのか。「マーケッツ」と「クローザー」で配信する日々のニュースに、「マクロ」が分析的な視点を与えるということだが、3本をまとめた「ビジネススイート」でその日のニュースを統合的に伝える必要上、各ニュースレターの担当チームは互いに協力するのか?
- −−「デイリーエッセンシャルズ」という政治ニュースレターのバンドル化から何を学んだか。このバンドル化戦略を経済ニュースレターでも採用したいと考えたのはなぜか。
- −−一部のメディアバイヤーが示唆するところでは、ニュースレターはメディア市場において飽和点に達しているという。ニュースレターを発行するパブリッシャーにとって、これは広告収入に影響を与えるだけでなく、自社で獲得できる読者のシェアを脅かしかねない問題でもある。テーマ別にニュースレターをバンドル化するという戦略は、読者をアクシオスの製品に深く引き込み、競合他社に対抗するという付加価値戦術なのか。
- −−このバンドル化戦略は、現在配信している個々のニュースレターにはない、何か新たな収益化の機会をもたらすと思うか。
- −−今後、ほかのニュースレターをバンドル化する予定はあるか?
−−新規に立ち上げた「マクロ」の発想はどこから生まれたのか?
この1年をかけて、あちこちから優秀な人材を集め、経済・経営の担当チームを作り上げた。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)から引き抜いたニール・アーウィンもそのひとりだ。アーウィンはマクロ経済を扱うジャーナリストとしてはもっとも著名で評価の高い書き手のひとりであり、情報源となる人脈も豊富だ。長く市場に貢献してきた彼の手腕を遺憾なく発揮できる場を作り、その分析力と知見を定期的に提供する方法を考えた。
現在、アクシオスが配信している2つの経済ニュースレター、「マーケッツ」と「クローザー」は、(格付け機関の)S&Pの指標から不動産市場、さらには暗号関連のニュースまで、その日の市場の動向を伝える内容となっている。執筆者のニール・アーウィンとコートニー・ブラウンはマクロ経済が専門で、ほかとはちょっと違う視点で記事を提供する。
「マクロ」はバンドル化戦略の一端を担うものだ。読者に大局観や俯瞰的な分析を提供し、たとえば、「今朝、発表された金利をどう見るべきか」とか、「経済や政策にはどんな影響が及ぶのか」など、より深い理解を助ける。毎日配信される経済分野のニュースや情報を肉付けする内容となるだろう。
−−バンドル化したニュースレターでは、記者と編集者はどのように連携するのか。「マーケッツ」と「クローザー」で配信する日々のニュースに、「マクロ」が分析的な視点を与えるということだが、3本をまとめた「ビジネススイート」でその日のニュースを統合的に伝える必要上、各ニュースレターの担当チームは互いに協力するのか?
我々のチームは大きくなったが、驚くほど協力的だ。Slackチャンネルで一日中、現在起きているニュースについて議論したり、アイデアや記事について互いに意見交換したりしている。各ニュースレターをそれぞれ2名の担当記者が執筆しているが、連名で書いたり、コンテンツを共有することもよくある。
どんな編集部にもいえることだが、各自がそれぞれの得意分野で貢献する。市場のニッチな部分を解説するスペシャリストがいる一方で、その解説をもっと大局的に、世界経済という文脈で捉える記者たちもいる。
−−「デイリーエッセンシャルズ」という政治ニュースレターのバンドル化から何を学んだか。このバンドル化戦略を経済ニュースレターでも採用したいと考えたのはなぜか。
「デイリーエッセンシャルズ」の経験から、バンドル化というモデルが正しい方向性であると確信した。というのも、これらニュースレターのメーリングリストを統合しても、購読者数に大きな減少は見られなかったからだ。むしろ、エンゲージメントは向上した。このことから、これらニュースレターのうち、ひとつでも購読している人は、別のニュースレターの追加を歓迎してくれるだろうと考えた。それに、1日に配信する記事は内容に重複がないようしっかり差別化しているため、1日分のニュースレターとして十分な価値を感じてもらえると思う。
この3月に配信を開始した「フィニッシュライン」はその好例だ。2分もあれば読める内容で、多くの人がその日最後にメールをチェックする就寝前の時間に配信している。内容は、「誰も就寝前に陰鬱なニュースなど読みたくないだろう」という直感を頼りに決めている。配信するコンテンツや、読者のニーズに応えるにはどうしたらよいかについて真剣に考えた。政治なし、ニュースなしの構成で、世界を肯定的に捉えられるような情報を提供することは、ある意味賭けだった。結局、アクシオス創業者たちの寄稿を中心に、広い意味での健康やウェルネスに焦点を当てようと考えた。結果的に、従来のニュースレターとは比べものにならないほどの反響を得ている。
個人的な視点を盛り込んだ「フィニッシュライン」と内容的には異なるが、短いという点では「マクロ」も同じだ。「ビジネススイート」にバンドルした朝配信の「マーケッツ」と午後配信の「クローザー」はそれぞれ6本程度の記事で構成されるが、「マクロ」はもっと少ない。読者が起き抜けに読むニュースレターでは、前の晩の出来事やその日の予定をニュースとして配信する。一方、「マクロ」はもっと大局的な視点で経済政策を解説するという点で、朝夕配信のニュースレターとは少々異なる。
−−一部のメディアバイヤーが示唆するところでは、ニュースレターはメディア市場において飽和点に達しているという。ニュースレターを発行するパブリッシャーにとって、これは広告収入に影響を与えるだけでなく、自社で獲得できる読者のシェアを脅かしかねない問題でもある。テーマ別にニュースレターをバンドル化するという戦略は、読者をアクシオスの製品に深く引き込み、競合他社に対抗するという付加価値戦術なのか。
「ビジネススイート」を製品として考えるとき、我々は常にオーディエンスファーストを心がけている。アクシオスは多数のニュースレターを発行している。「マーケッツ」に登録している読者なら、我々が提供するより広範なニュースに関心を寄せる可能性は十分に見込めるだろう。実際、同じ読者に配信しているニュースレターがいくつもあるが、読者はそれぞれのニュースレターに個別に登録しなければならない。我々がもう少し違う方法で連携し、読者が必要とする情報をより組織的に発信できれば、そのほうが合理的ではないだろうか。
ニュースレターの配信に特化したパブリッシャーや、ひとつのアプローチ、またはひとつの製品しか持たないパブリッシャーに比べれば、我々の置かれた状況はそれほど厳しくはない。新興企業として、我々は真に創造的でありたいし、読者の視点、ジャーナリズムの視点、そして財務の視点から、十分な利益を見込める機会があれば、そちらに向けて積極果敢に舵を切りたいと考えている。誰もが今後の経済状況を懸念しているが、今年後半の見通しとして、現在我々が取っているバンドル化というアプローチは、少なくとも我々を守る盾とはなるし、この懸念の一部を緩和してくれるだろう。
−−このバンドル化戦略は、現在配信している個々のニュースレターにはない、何か新たな収益化の機会をもたらすと思うか。
アクシオスが政治ニュース専門のブランドではないことを、読者に対してより明確に打ち出したい。確かに、立ち上げ当初はそう捉える読者も一部にいたが、アクシオスには政治ニュース以外にも、読者に提案できるものがたくさんある。収益の観点からも、この方針は理に適っている。個々のニュースレターを個別に売ろうとするよりよほど合理的だ。朝配信のニュースレターは読むが、午後配信のニュースレターは読まない。そういうことはないだろう。
これら諸々を考え合わせると、我々が重要な分野に投資をしていることは確かだし、ユーザー重視のラインナップも読者に気に入ってもらえるだろう。我々の1週間は、読者に配信するコンテンツで膨らむ一方だ。スポンサーシップの観点でも、広告主は読者がアクシオスの旗艦的なニュースレターをパッケージで読んでいることを知っており、おそらくは、自分たちも一枚加わりたいと望んでくれるだろう。十分理に適う話だと思う。
−−今後、ほかのニュースレターをバンドル化する予定はあるか?
次のバンドル化の具体的な予定はないが、市場の飽和状態については考えているし、意識しておく必要はあるだろう。配信頻度の高い製品に一本化する機会は常に模索したいが、当面、具体的な計画は持っていない。
[原文:A Q&A with Axios’ Sara Kehaulani Goo on bundling newsletters as an audience engagement strategy]
Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)