「実験の時代において、どのような答えが出るのか楽しみだ」: カンヌライオンズ CEO サイモン・クック氏

DIGIDAY

2年間の中断を経て、6月第4週、世界中のマーケターがカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルに出席するべく、再び南仏へと向かった。

猛威を振るうコロナ禍のせいで、2020年と2021年はバーチャルで行なわれたが、2022年はついに対面での会合が復活する。ただ、広告業界最大の栄誉と長らく讃えられてきたこのフェスティバルについては、コロナ禍の前から、見直しの動きが出ていたのも事実であり、クロワゼット大通り沿いで所構わず商談をするだけのために、数日も――そして数ドル以上も――費やす価値が本当にあるのか、との議論も起きていた。

同フェスティバルを運営する英企業アセンシャル(Ascential Plc)は、カンヌライオンズ2022の参加者/代表者の具体的な人数については明かさなかったが、2022年は90社のパートナーがスポンサーになると話した。ただ、現況を考えると、フェスティバルの雰囲気はかなり穏やかなものになるのではないかと話すマーケターもいる(ちなみに、同フェスティバルは2023年が70周年となる)。また、会合の様子を世界中どこからでもリモートで見られる、ハイブリッド方式も導入される。

米DIGIDAYはカンヌライオンズCEOサイモン・クック氏に取材し、何が変わったのか、そして何が期待できるのか、詳しく話を聞いた。読みやすさを考え、発言は少々編集を加え、端的にまとめてある。

※取材はカンヌライオンズ開催前に行われた。

――2022年の新しい点は?

カウンシルズ・フォー・プログレス(Councils For Progress/発展評議会、の意)を5つ発足させた。カンヌライオンズの主眼は、クリエイティビティ(創造性)による目的の推進にある。その評議会については、P&Gのマーク・プリチャード氏が全体のスポンサーとして付いているが、5つそれぞれがトップに業界の重鎮を擁し、世界中のさまざまなCEOやCMOなど、20人から30人の委員で構成されている。

今回、クリエイティブに関する大規模な調査を実施し、業界が直面している最大の課題について訊ねるとともに、そこで得た情報をそれら評議会の基盤にした。5つの評議会のテーマは、ひとつがサステナビリティ、ひとつがDE&I(多様性、公平性、包括性)、ひとつが人材、ひとつが事業変革、ひとつがクリエイティブエフェクティブネス(広告効果)だ。2022年はカンヌを、人々がひとつになり、コミットメントをなすためのアジェンダを設定するプラットフォームとして活用したい。

――不安定な世界情勢と収まりきらないコロナ禍のせいで、2022年のスポンサー集めは困難だった?

2022年初頭は、パートナーたちがどのようなかたちでフェスティバルに来たいと思うのか、その点が不透明だったが、そう、彼らは来てくれる。皆が来てくれるし、期待に胸を含まらせてくれている。ただ、以前と違うのは、今回は皆、思慮深い姿勢を見せているという点だ。世界ではいま戦争が起きている、不安と混乱が生じており、多くの人々が南仏に来てくれるとはいえ、我々としても、いま世界で起きているすべてのことをしっかりと意識していたい。だからこそ、今年、パートナーたちの最大のフォーカスは、繋がり合い、ひとつになることであり、焦点はパーティではなく、ネットワーク作りとなる。

――それはどういう意味? どのあたりが変わると?

2019年をふり返ればわかるとおり、あの時はステージがあまりも多く、コンテンツがあまりにも多かった。つまり、極めて多くの会合が同時並行的に進行していた。いまにして思えば、それは過剰以外の何物でもなく、最初からタイトなスケジュールを組んでいた人々にとっては、特にそうだ。また、それとも関係があるのだが、今回、人々は限られた時間を有意義な会話に使いたいと、コネクション作りに、2019年以来会えていない人々と再び繋がることに費やしたいと思っている。そこで、我々がしたのはコンテンツの凝縮であり、したがってコンテンツの量自体は少ないが、質ははるかに高くなっている。そしてそれに伴い、人々がネットワークを作り、ひとつになるためのスペースを以前よりも多く設けられたし、それを可能にするアプリに新たな技術も導入した。

――ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)がカンヌライオンズへの参加と賞への応募を一時取り止める計画を発表したことを受け、他からも同フェスティバルの適合性に対する疑問の声が上がった。それから数年経ったいま、あなたの考えは?

それはもう遠い過去の話だ。というのも、2022年は以前よりも多くのブランドが、多くのクライアントがフェスティバルに参加してくれるし、賞に応募してくれている[編註:2022年の賞応募数は、このインタビュー時点では発表されていなかった]。そしてこれは、要するに振り子のようなものであり、ここ数年、ビジネスパフォーマンスの促進に繋がる、ブランド構築を目的とする類のクリエイティブよりも、おそらくはパフォーマンスマーケティングが重要視されていた傾向の揺り戻しだ。

だからこそ、2022年に参加するブランドの多くは、参加理由を訊ねれば、クリエイティビティは役員室のリーダーなのだと、成長を牽引するリーダーなのだと気づきはじめたからだ、と答えるだろう。つまり、カンヌで受賞できる、世界クラスのクリエイティブを制作するために何が必要かを理解することは、ブランドにとっても、彼らのエージェンシーにとっても、彼らが共に仕事をするパートナーにとっても、ますます重要になりつつある、ということだ。

――メッセージング、審美性、プラットフォームに関しては、どのようなテーマが?

NFTやメタバースといった諸々にフォーカスした作品が数多く見られるだろう。これまでは、新たなテクノロジーが注目されていたり、話題になっていたりする場合、それは間違いなくカンヌの賞から生まれたものだった。それを考えると、2023年と2024年に何が起きるのかは、非常に興味深い。というのも、賞を経由せずに登場した新たなテクノロジーが世の中に浸透していくのかどうか、それを示す指標が明確に見えることになるからだ。テクノロジーが透明になり、その機構の欠かせない一部になって初めて、それが完全に浸透したという事実が、そしてそこから何かが始まるという未来が、はっきりと見える。

――仮想通貨はいわば急降下中だが、この現状は2022年のWeb3を巡るマーケティング界の会話にどう影響する?

数年前にゲーミングで同様の現象を目にした。広告作品において突然、ゲーミングがブランドメッセージに乗っ取られる、という現象が起きたわけで、なかでも米ファストフード大手ウェンディーズ(Wendy’s)がソーシャル&インフルエンサー部門グランプリを獲った作品は目を引いたし、実際、大きな成功を収めた。何かが標準になっていくとき――それこそが、キラキラと輝く新しいものが、人々が大騒ぎをするキラキラした新しいものが、日常の社会的風景の一部に、エコシステムの一部になっていく未来が見える瞬間にほかならない。

――2019年イノベーションアワードの決勝に残った多くは、視覚、聴覚、運動をはじめ、アクセシビリティに障害を持つ人々の支援のためにテクノロジーを活用していた。そのトレンドは続いている?

ここ数年で目にしたトレンドのひとつが、広告らしくない広告だ。つまり、本物の社会ソリューションやビジネスソリューションは、マーケティングメッセージを第一に掲げるのではなく、現実世界の諸問題に真剣に取り組んでいる。2021年、私はそれが非常に面白いと思った。「クリエイティビティ・フォー・グッド(善のための創造性、の意)」――と多くは呼んでいるが――そういうものが見えてきたからであり、しかもそれが、ブランドの戦略を強化する洗練されたかたちで起きていることが見えたからだ。それまでは、ブランド勢が補完的とは言いがたい大義に自らを無理やり寄せている広告ばかりであり、善を取り繕うための善というか、取って付けた感が否めなかった。だがいまは、両者がシームレスにひとつになりつつある。

――最近気づいたトレンドで、フェスティバルでも目にすることになると思われるものは、ほかに何か?

ここしばらく、まさしく実験の時代が続いている。多くのエージェンシーとブランドが、NFT戦略をどうするのか、Web3戦略をどうするのか、答えを出そうと必死になっている。何が残るのか、つまり私のこれまでの説に何が合致するのか、それを見られるのが楽しみで仕方がない。また、それと正反対のことなのだが、十分に試行を重ねた戦略の復活という温故知新的なことも――それも2022年のテーマおよびコンテンツの中から――出てくることになると思う。基本に立ち返ろう、といった姿勢に近いものだ。そして、その並列こそが興味深い。いま、我々全員が乗っている実験の大波が生じている一方で、同時に人々が、十分に試行を重ね、効果が証明されている従来の戦略に再び向かう、という現象だ。

[原文:Cannes Lions CEO Simon Cook on creative trends and returning to the Croisette

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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