Q&A:「 アップフロント 」とは? – 米国で テレビ広告 の年間契約を結ぶ期間

DIGIDAY

米国のテレビ広告市場にとって有益な存在であるにもかかわらず、アップフロントにはどこか謎めいたところがあります。アップフロントとは、毎年、テレビ局が今後の番組ラインアップを発表し、広告主が資金を投じるサイクルのことでしょうか? おおむねその通りですが、そうでないとも言えます。

そして、モノクロテレビの時代に生まれたアップフロントは古めかしい存在に見えますが、パンデミックが発生し、インフレが進行し、サプライチェーンの問題が続き、景気後退の崖っぷちに立たされている今、年1度のテレビ広告交渉サイクルはむしろ重要性を増しています。

ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)で米国の広告販売責任者を務めるジョン・スタインローフ氏は次のように述べています。「私たちは先物を販売しています。15カ月後あるいは16カ月後の2023年8月、この国がどうなっているかを想像するのは難しいですが、私たちはまさにそれを売っているのです」。

いつものQ&Aシリーズで「アップフロント」について説明します。

◆ ◆ ◆

──テレビ広告のアップフロントとは何ですか?

テレビ広告のアップフロントとは、毎年、広告主とそのエージェンシーが、テレビ局やCTV(コネクテッドTV)プラットフォーム、ストリーミングサービスの所有者と交渉し、年間契約を結ぶ期間のことです。広告主とエージェンシーは従来型のテレビネットワークやストリーミングプロパティの広告枠を合意した金額で購入することを約束します。

「アップフロント(もしくはアップフロンツ)」という言葉は、テレビ局やCTVプラットフォーム、ストリーミングサービスが広告主やエージェンシーに番組や広告製品を売り込むプレゼンテーションにも使われますが、これらのプレゼンテーションは実際のところ、テレビ広告のアップフロントサイクルのもっとも一般的な表現にすぎません。

──テレビ広告のアップフロントサイクルとはいつのことですか?

テレビ広告のアップフロントサイクルは通常、春の終わりから夏にかけて行われ、一般的には、8月末までに終了します。ただし、近年、サイクルの期間が拡大しています。前年の10月から準備に取り掛かるバイヤーやセラー、2月に予備交渉を始めるバイヤーやセラーもいます。2021年、アップフロント交渉のペースは大きく加速し、ディズニー(Disney)、フォックス(Fox)、NBCユニバーサル(NBCUniversal)、バイアコムCBS(ViacomCBS)などの大手テレビ局グループは6月末までに契約を完了しました。

──何をもってその年のアップフロント契約が完了するのですか?

アップフロント市場で広告主に販売するインベントリー(在庫)がなくなったときです。

──気まぐれなように聞こえます

そうですね。テレビ局は基本的に、放送する番組でどれくらいの広告枠を確保できるか、特定の広告主やエージェンシーにどれくらいの視聴者を提供できるかを計算しています。後者には、視聴者の年齢、性別などのカテゴリーに基づくセグメント化も含まれます。そして、その広告枠のうち、どれくらいをアップフロントで販売し、どれくらいをいわゆる「スキャッター市場」のために取っておくかを決定します。スキャッター市場では、広告主はアップフロントで求められる年間支出の約束を行うことなく、インベントリーを購入できます。

──年間支出の約束はいつ有効になるのですか?

主に10月から翌年の9月までです。このタイミングの起源は1962年のアップフロントで、ABCが秋に放送を開始する新シーズンのため、春に番組の広告契約を確保しようとしたことに端を発します。

一部の広告主は1~12月の暦年モデルでアップフロント契約を結んできました。しかし、テレビ局は伝統的な放送年モデルを優先するため、暦年モデルの広告主は不利になりがちでした。テレビ局やエージェンシーの幹部によれば、このように販売プロセスがずれ込んだ結果、暦年モデルの広告主は事実上、ずさんな交渉で高値を押し付けられており、2021年のハイペースなアップフロント市場で、暦年の選択肢はほぼ消滅したそうです。

──なぜアップフロントの広告主は年間支出を約束しなければならないのですか?

テレビ局がそう言っているからです。軽率な答えに聞こえるかもしれませんが、それが事実です。従来型のテレビは広告インベントリーの供給量に限りがあります。通常、広告に使うことができるのは1時間当たり最大16分で、ほとんどの場合、広告枠は一度にひとつの広告主に割り当てられるためです。テレビ局はこの供給不足を利用し、広告主にアップフロント契約で在庫を確保しておくよう圧力をかけているのです。

──しかし、なぜ広告主はアップフロントへの参加に同意するのでしょう?

なぜなら、それが良い取引になるからです。従来型テレビの視聴率は確かに低下していますが、広告主が一度に多くの人にリーチできるもっとも費用対効果の高い手段であることに変わりはありません。そのため、ブランドや商品の認知度を高めたいマーケターにとって、テレビ広告は広告戦略の柱であり続けています。そして、テレビ視聴者にリーチする必要があるとわかっている広告主のあいだでは、供給不足が機会損失への恐怖(FOMO)につながっています。テレビ局が一定人数に一定回数リーチできると保証しているアップフロント契約でリーチを確保しなければならないと考えているのです。

あるエージェンシー幹部は「売り手市場だとそうなってしまいます。(テレビ局が)FOMOをあおっているのです。チャンスを逃したくないからこそ、(アップフロント市場に)より多く(の金額)を投じてしまうのです」と証言しています。

──広告主がアップフロントに参加する動機はFOMOだけなのでしょうか?

いいえ。広告主が次年度、テレビ広告に何百万ドルも投じるつもりであれば、費用対効果が高くなる可能性もあります。テレビ広告をアップフロント市場で買うことは、家庭用品のまとめ買いに似ていると考えればよいでしょう。今後もトイレットペーパーを使うことがわかっているのであれば、1ロールずつ購入するより、大きなパックをひとつ買う方が安上がりです。テレビ局やエージェンシーの幹部によれば、スキャッター市場に比べて、アップフロント契約で確保されるテレビ広告の価格は通常20~40%安く、広告主の需要が高く、在庫の供給量に限りがある第4四半期などは、80%安くなることもあるそうです。

──テレビ局が広告主への視聴者保証を果たすことができなかった場合、広告主がテレビ局に約束した金額を使いたくないと判断した場合はどうなりますか? アップフロント契約に返金や返品のポリシーはあるのでしょうか?

そのようなものはあります。テレビ局が視聴者保証を果たすことができなかった場合、広告主には「視聴者不足ユニット(ADU)」が割り当てられます。ADUは埋め合わせ広告とも呼ばれ、事実上、テレビ局が従来のテレビネットワークやストリーミング、デジタルプロパティの別の場所で広告を流し、不足分を補うことを約束する「借用証書」として機能します。

一方、広告主はアップフロントの約束から完全に逃れることはできません(2020年春のパンデミック初期、テレビ局が一部の広告主に対し、アップフロントのキャンセルを認めたという例外はあります)。ただし、アップフロント契約には、広告主が約束の一部を取り消すことができるキャンセルオプションが含まれています。キャンセルオプションの内容はさまざまですが、通常、その四半期が始まる30~60日前までに申し出れば、四半期契約の最大30~50%をキャンセルできます。

──かなりテレビに偏った話ですが、CTVプラットフォームやストリーミングサービスの所有者もアップフロントに参加しているそうですね。彼らはやり方が違うのでしょうか?

いくつかの点で、答えはイエスです。Amazon、Roku、YouTubeはアップフロント市場の主要ストリーミング専門サービスであり、彼らは通常、テレビ局のようなアップフロント契約構造にはこだわりません。ストリーミング専門のセラーは固定的な約束ではなく、「努力型契約」と広く呼ばれているものを広告主と結びます。努力型契約では、広告主はCTVプラットフォームやストリーミングサービスから一定金額の広告を購入すると約束するのではなく、広告料金の値下げ、厳選されたインベントリーや広告製品といった特典が得られる支出目標を設定されます。

さらに、ストリーミング専門のセラーは通常、キャンペーン開始予定日の14日前までであれば、契約の最大100%をキャンセルできるようにしています。ただし、Rokuは2021年にリスクを取り、2日前まで100%キャンセルできるオプションを提供し始めました。

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米DIGIDAY編集部のティム・ピーターソン記者による解説動画

[原文:WTF is the TV upfront?

Tim Peterson(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)

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