eスポーツ組織の評価に関する問題、それは「つじつまの合わないことが多い」ということだ。この分野では、収益を上げていない企業に対する法外な評価が当然のことになっている。これは歓迎すべきことではない。
世界が不況に突入しつつある今、投資家もマーケターも一様に知りたがっているのは、実行した投資が、実際にどんな結果をもたらしてくれるかなのだ。彼らがeスポーツへの投資から得られる唯一のリターンが「不確実性」であるというのは、やはり気がかりだ。
なぜeスポーツ組織に対する評価はこれほどまでに不透明なのか? その理由を探るため、米DIGIDAYはこの業界の5人のエキスパート──リーグのマネージャー、団体のトップ、ジャーナリスト(そのなかのひとりは、もっとも信頼できるeスポーツ企業評価のひとつといってもいい、フォーブス[Forbes]の年間ランキングの著者)らから話を聞いた。
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成長VSプロダクト
どんなビジネスであれ、評価というのは厄介な課題だが、それがことさら難しいのは、メディアおよびエンタメ業界だ。各社の制作費と利益幅の実態を把握するのは容易ではない。まだ従来型のメディアおよびエンタメ企業であれば、見解の一致した主力商品がある。たとえばスポーツチームなら、チケットやグッズ売上、放映権といった、共通の収入源で一致している。
それに対してeスポーツ組織の場合、その主力商品が何なのかがまだまったくわかっていない。一般的なスポーツチームであれば、放映権は大きな収入源だ。しかし、eスポーツの場合はそうではない。オーディエンスはTwitchなどのプラットフォームでの無料観戦に慣れてしまっており、収入源としてのライブイベントは、(前途有望ではあるが)いまだにその真価を問われていない。
100シーブス(100 Thieves)などの団体にとっては、グッズ販売は折り紙つきの収入源だ。しかし、どちらかといえば、こうした商業モデルは利益率が低い。そのため、潜在的な投資家に対するアピール力も弱い。
eスポーツジャーナリストで、以前から同業界の動向に目を光らせてきたジェイコブ・ウルフ氏は、次のように語る(ウルフ氏は筆者の友人であり、かつての同僚でもある)。「『半製品』段階の企業を評価するのは本当に難しい。eスポーツチームの多くは今も『アイデア』のステージにいて、まだ『製品』のステージにたどり着いていない。しかし、過去数年のeスポーツ業界をめぐる派手な宣伝とFOMO(取り残されることへの恐れ)は凄まじく、まだその初期段階にいるにもかかわらず、どのeスポーツ企業もまるで中盤のステージに進んでいるかのような評価のされ方をするようになった」。
だが、ついに現実が追いついた。そしてそうなった以上、eスポーツ企業にかかる「収益を上げる」というプレッシャーも大きくなった。クリエイターハウスに大金を投下しながら、自分たちは全世界の何百万人というファンとともに成長していると主張することはできなくなった。eスポーツ企業の出資者には、金を使ってから許可を求めるという文化は、もはや受け入れてもらえなくなったのだ。
チームはマーケティングの駒に
eスポーツ組織は企業の買収や新規のファン、広告インベントリなどの増加をアピールして、成長という観点から自分たちの成功を語ることが多い。しかし、その登場から数十年が経ったいま、投資家たちは徐々に苛立ちを見せ始めている。
ここ最近は、外部の観測筋が、収入源と実益を気にする度合いも一気に高まり始めている。こうした観測筋の多くが頼りにするパブリケーション、フォーブスは、以前からeスポーツ業界の動向に目を向けてきた。フォーブスは2018年、eスポーツ企業を評価して同誌にとって初となる年間ランキングを発表した。その際に用いられた評価の手順は、フォーブスが以前から従来のスポーツチームの評価に用いてきたものがほとんどだった。eスポーツチームに対する評価は、それとはまるで別ものであることが明らかになったのは、ここ最近のことだ。
フォーブスの最新版・eスポーツ企業ランキングの著者である同誌編集者、ブレット・ナイト氏は、次のように語る。「一部の点においては、それほどの違いはない。大きく違うのは、従来型のスポーツ組織の場合、もっとも価値があるのはいまだにチームそのものであるという点だろう。チームこそがビジネスの要なのだ。一方、eスポーツの場合、組織内におけるチームそのものの価値はどんどん小さくなっている。組織が多角化を進めるにしたがって、社内的にも社外的にも、チームはそこまで重要な存在ではないとみなされるようになってきた。単なる駒のひとつに過ぎないということだ。よく見られるのが、チームがマーケティング、ほかの事業のためのプロモーションとして扱われているケースだ。つまり、顧客獲得のためのファネルということだ」。
業界は成熟する一方、マインドセットは初期段階のまま
問題のひとつは、eスポーツ組織の多角化がそこまでスピーディーには進んでいないということだ。彼らが「実年齢よりも若く」見られがちなのは、そのためでもある。
「一見すると、すべてのeスポーツチームが初期段階のスタートアップ然としているわけではない。なかには10年どころか20年前から活動していて、現に利益を出しているチームもある」と、ナイト氏は語る。「しかし、チームも投資家も、まだ試合は序盤だと思い込んでいる。フォーブスの従来型スポーツ企業のランキングで目にするものよりも、彼らに対する評価のマルチプルが高いのはそのためだ。eスポーツはいまも成長過程にあるという期待感が、そこにはあるのだ」。
言い換えれば、この期待感がeスポーツ組織は実際よりも大きな価値があるという、ある種の「自己成就的予言」を生み出している。フォーブスの評価がこの見方を無意識のうちにあおっている可能性はある。しかし、たとえそうであっても、この業界に詳しい専門家の大半は、フォーブスのそれは基本的によくできた健全なランキングであることを認めている。フォーブスの評価は、決定的なランキングではなく、トップグループに属する各eスポーツ組織が他と比べてどうなのかを示す指標として活用するのが望ましいのかもしれない。
多角化の一環としてライブイベント事業を展開しているエンビー/オプティク・ゲーミング(Envy/OpTic Gaming)も、自分たちは売上の大幅増のための土台固めを進めている最中であると考えているeスポーツ組織のひとつだ。
エンビー・ゲーミングのCEO、アダム・ライマー氏は昨年、フォーブスによるeスポーツ企業の評価に対して批判的な見解をリンクトイン(LinkedIn)に投稿した。同氏は次のように語る。「たとえ資産価値があっても、いまは必ずしも収益を生み出しているわけではないという理由で、『見えないところで取り組んでいるさまざまなことが評価されることはない』と、断言することはできないのではないか。方法論が年ごとに異なり、そのせいで大きく増えたり減ったりという結果が生じうるのであれば、然るべきやり方でやるべきことに取り組むことが難しくなる。それを私は懸念している。我々はこのビジネスを確立することに焦点を合わせている」。
eスポーツ組織をeスポーツ組織たらしめるもの
eスポーツ組織がその保有資産を多様化すればするほど、ゲームデベロッパー(100シーブスは先日、ビデオゲームを独自開発する計画を発表)やESLなどのeスポーツリーグといった、ゲーム業界内のほかのライバルとの直接対決へと知らないうちに足を踏み入れるケースも増える。その結果、いわゆるeスポーツ組織としてではなく、ゲーム業界をまたにかけて活動する彼ら企業を正しく評価することが難しくなっている。
ESLプロリーグ(ESL Pro League)でコミッショナーを務めるアレックス・イングロット氏は、次のように語る。「eスポーツ業界は常に変化している。そんな業界で、全体にひとつの価値基準という考え方はそぐわないのではないか。スポンサー、投資家、企業買収、タレント……これらの動きによって、eスポーツ業界は絶えず流動的な状態にある。そのため、その実態を正確に把握することなど不可能だ」。
ESLプロリーグは過去1年のあいだに、新たなパートナーチームから2000万ドル(約26億5200万円)の投資を得てきたが、その多くの出所は各チーム外の投資家たちだ。言い換えれば、各チームの価値は、少なくともある程度は、ESLプロリーグ自体の持続する成功と価値にかかっているということだ。業界の過酷さを考えると、この状況はeスポーツ組織にとって理想的とはいい難い。もしオーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)が煙と消えたら、フラインチャイズスポットに大金を落としてきた各チームの夢と希望も同じ運命をたどることになる。
これが、eスポーツ組織の価値を正しく評価することがいっそう難しくなりつつあるもうひとつの理由だ。eスポーツ組織は、貴重な有形資産としてリーグフランチャイズスポットを挙げることが多い。そこには、自分たちはこのスポットに何百万ドルという大金を注いできたのだから、その所有が組織に何百万ドル分もの価値を付加するのは当然だというロジックが働いている。そしていま、オーバーウォッチの視聴率は低下の一途をたどっている。アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)は、フライチャイズ料金の支払いの延期を各チームに認めるようになっている。そうしたなか、フォーブスなどの観測筋がこれらフランチャイズの金銭的価値を額面どおりに受け取れるかどうかは、ますます不透明になりつつある。
フォーブスによる評価が、eスポーツ業界待望の年間イベントになっていることは確かだ。しかし将来は、いまは「eスポーツ組織」として知られている各社の多様性を互いに比較することが、必ずしも意味をなすとはかぎらない。現にフォーブスは、ルミノシティ・ゲーミング(Luminosity Gaming)の親会社、エンスージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)をeスポーツ企業の最新版ランキングから外している。公的文書から、2021年の同社の売上に占めるeスポーツの割合はわずか3%だけだったことがわかっているからだ。
「eスポーツという言葉がマッチしていない」
いまのところ、eスポーツ組織の多くは、有形資産というよりもブランドハイプ的な存在だ。持株会社モデルを導入することで、eスポーツ組織の前には収益化への道が開けるかもしれない。しかしその一方で、そうしたからといって、各組織の真の価値が見極めやすくなるわけではない。
「もはや『eスポーツ』という言葉はかつてほど時代にマッチしていないと、私は思っている。多様化するeスポーツ企業という存在を一語で言い表そうとしても、無理があるからだ」と、ライマー氏は語る。「eスポーツは私たちが手がけていることのひとつであり、私たちが本腰を入れているのは、ゲームを中心とするブランドとコミュニティの確立なのだ」。
[原文:As esports organizations widen their revenue streams, valuation continues to be a challenge]
Alexander Lee(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)