2022年5月11日、民泊大手エアービーアンドビー(Airbnb)は「エアービーアンドビー史上最大の変革」を発表した。同社でマーケティンググローバル責任者を務めるヒロキ・アサイ氏によると、システムの再設計により、「サーフィン」や「洗練されたデザイン」などの細かなカテゴリ別検索や、宿泊先を分割する「分泊」が可能になる。リモートワークの浸透で、仕事も生活も場所を選ばなくなったいま、同社は変わりつつある旅のあり方を自社のサービスに取り入れようとしている。
米DIGIDAYはアサイ氏から、エアービーアンドビーのマーケティングに対する取り組みに加え、史上最大といわれる変革についても話を聞いた。今回の変革では、旅を守る「AirCover(エアカバー)」も最新版が用意されているという。
なお、本インタビューは読みやすさを考慮し、一部編集を加えている。
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――今回の新しい機能をどのようにマーケティングしていくのか?
6月に大きなキャンペーンを予定している。これは新しい「カテゴリ」について広く知ってもらうためだ。当社のマーケティングに対するアプローチやブランド(の存在意義)に対するアプローチは、他企業に見られる一般的な方法とは若干違う。ブランドは単なるキャンペーンでもなければ、企業理念や約束事だけではないと私たちは考えている。特に重要な点はふたつ。どのように行動するのか。そして、世の中の人々のために何を作るのか。
「どのように行動するのか」に関していえば、ウクライナ危機やアフガニスタンでおこなったように、ブランド主導で私たちのプラットフォームを使って人々を支援すること。これは私たちの深く、強い信念に起因する。つまり、私たちが作り出すものが私たちの商品なのだ。
「カテゴリ」を使えば、これまでとはまったく違う検索が可能になる。旅行で使われている検索方法を見ると、業界の検索依存体質がわかる。それが問題なのは、検索ボックスが教えてくれるのが、入力した情報の入手先に限定される点だ。旅行に関していえば、教えてくれるのは検索をかけた内容だけ。得られる情報は、世界の表面的な情報にすぎない。たとえば、アイスクリームショップなら、どのようなフレーバーがあるのかわからないまま店舗に行くようなものだ。「カテゴリ」機能とは、私たちが提供するものを、ユニークなもの、あるいは興味のあるものに分類して整理すること。
たとえば「デザイン」というカテゴリでは、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの施設が山ほどリストアップされている。「カテゴリ」を使用すれば、単に検索しただけでは見つけられないような情報を入手できる。この「カテゴリ」には、「サーフィン」「キャンプ」「スキーイン/アウト」もあり、格段に検索しやすい。世の中の人々に、このより良い検索システムを使うことで、より良い旅をすることができると理解してもらうこと、それがマーケティングなのだ。
――クリエイティブ部門は現在もインハウスのチームなのか? メディア関係は?
すべて社内で行っている。クリエイティブも、マーケティングも、デザインも、すべて社内だ。スタッフは総勢数百名。メディアバイイングはエージェンシーと協力しているが、戦略立案と実行はすべて自分たちでおこなう。クリエイティブも社内も制作も社内でおこなう。
――昨今のインハウス化の流れで、社内で戦略を練り、エージェンシーに実行を依頼するというハイブリッドな方法をとる企業もあると聞く。エアービーアンドビーもそのアプローチのようだが。
ハイブリッドのほうがはるかに理に適っている。メディアバイイングのような専門的な分野は規模やらネットワークやらが大切で、それを社内で構築するというのは合理的でない。もちろん、戦略は社内。プランニングも当然社内だ。
クリエイティブな部分は、すべて社内で完結するのが私たちのやり方だ。それに、クリエイティブな分野には個人的にも思い入れがある。すばらしい仕事を創り出すには、インハウス化が得策だ。この2年間、これまでのクリエイティブチームに加えて広告チームも構築しており、このチームをしっかりと融合させることに努めてきた。
広告チームには、マーケティングチームと密に連携をとるよう働きかけているが、それはデザインチームも、プロダクトチームも同じだ。いまではチーム全体が一体化している。ローンチした機能のなかには、こうして深くつながったおかげで生み出されたものもある。
宿泊先の分割(ユーザーが1回の旅行で、複数の施設に分泊できる新しい機能)は、そのよい例だ。これは、私たちのサービスを利用するユーザーが長期間にわたり予約していることに気づいて作った機能で、滞在先を探している期間に応じて、ふたつの宿泊先を自動的に組み合わせる。とてもユニークでおもしろい。そのふたつの滞在先をつなげようとは誰も考えつかないだろうし、これを利用すれば何百時間も節約できる。実に便利な機能だ。
――リモートワークによって旅行のあり方が変化している。リモートワークは、エアービーアンドビーのマーケティングや広告メッセージにどのような影響を与えているのか?
私たちのブランドがいまやっていることや考えていることから言えるのは、世の中が恐ろしいほど急速に変わってしまったということつきる。暮らしも仕事も変わった。住む場所も働く場所も激変している。その結果、旅のあり方ががらりと変わってしまったのだ。
私たちの目標は、このブランドもイノベーションを繰り返し、激変に対応できるようにすること、また、変化するなかでも旅の良さを満喫できるようなユニークでおもしろい方法、利用者が思わず試したくなるような方法を人々に提供することにある。それが達成されれば、マーケティングも自ずと決まってくる。
Kristina Monllos(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)