マイクロソフト(Microsoft)とソニー(Sony)が、それぞれゲーム内広告ビジネスを開始すると報じられているが、実現するなら、それは彼らに合わせて作られたものになるだろう。
テック大手2社は、膨大なプレイヤー数と潜在的なインベントリ(在庫)を誇る。しかし業界の事情通たちは、両社が提供するプレミアムなコンソールゲームは特にゲーム内広告に適しているわけではなく、彼らが投資しようとしているゲーム広告の様式はもはや時代遅れだというのが一部の専門家の見立てだ。
基本プレイ無料ゲームと事情が異なる
両テック大手の競争相手となる可能性があり、また、こうした広告に対する消費者の関心の移り変わりを見てきたゲーム内広告の専門家たちは、マイクロソフトとソニーの戦略が必ずしもうまくいくとは考えていない。
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ゲーマーは従来、基本プレイ無料のゲーム内に掲載される広告に最も好意的な反応を示し、自分たちの注意と関心をエンターテインメントと引き換えにしているという暗黙の了解を持っている。
「人々は価値の交換を理解している」と、ゲーム内広告のインフラ企業アドミックス(Admix)のCEO、サミュエル・ヒューバー氏は話す。「しかし、文字通りお金で買ったゲームに、さらに広告を追加するとなれば、それは単なる欲張りだ」。
だからこそ、ゲーム内広告会社は最近まで、モバイルゲームを主なインベントリーソースとし、モバイルゲーム広告はバナーやリワード動画の形を取ることが多かった。ゲーム内広告の専門家のあいだで、この分野におけるソニーとマイクロソフトの成功に懐疑的な見方があるのもそのためだ。両社のXboxとPlayStationは、AAA(開発予算の大きい)コンソールゲーム市場を支配しているが、両プラットフォームとも基本プレイ無料のゲームは限られており、Xboxの公式サイトには現在116の無料タイトルが掲載されている。
両社にとっての真の課題
「ゲーム内のブランドコンテンツ、特に没入性の高いAAAタイトルにおけるブランディングや広告に対して、ゲーマーから反発があることはわかっている」と、エージェンシーのマインドシェア(Mindshare)でスポンサーシップ責任者を務めるメイスン・ベイツ氏は話す。両社のゲーム内広告の計画が報じられて以降、マイクロソフトとソニーのどちらとも接触していないとして、同氏は次のように述べた。
「マイクロソフトとソニーにとって真の課題となるのは、コミュニティを疎外したり混乱させたりすることなく、ゲーマーに付加価値を提供するプレミアムな体験のなかで広告を配信することになる」。
ヒューバー氏は、Xboxとアドミックスのネットワークはともに約1億人の月間アクティブユーザー数を誇るが、Xboxのプレイヤー基盤はそもそも、無料ゲームに時間を費やす人の割合がはるかに小さいと指摘する。
「それだけでなく、現時点では、ユニバーサルなコンソールIDも存在しない。これは、ターゲティングやアトリビューションの機会が非常に乏しいことを意味する。したがって、ネットワークが小さいというだけでなく、実際にはアドテクのエコシステムから切り離されているわけだ」とヒューバー氏は述べる。
一方で楽観的な見方も
ゲーム内広告の専門家のなかには、テック大手2社に対してより楽観的な見方もある。ゲーム内広告企業アンズ(Anzu)のCEO、イタマール・ベネディ氏によると、基本プレイ無料のモバイルゲームと比較して、コンソールタイトルはより高いエンゲージメントを引き出し、繰り返しプレイする人が多く、広告主にとっては、コミットメントの低いモバイルゲーマーよりも価値が大きいという。
「広告というのは、人々の目を売っているようなもので、我々はインプレッションが確実に視認されること、ブランド価値とメディアインパクトをもたらすことを目指している。そこで考慮すべき要素が、ユーザー基盤だ」とベネディ氏はいう。
「10人が1分間プレイしても、1人が10分間プレイしても、インプレッション数や広告の規模という意味では、どちらも同じだ。XboxやPlayStationの特色は、多くの人がごく短時間しかプレイしないハイパーカジュアルゲームと比較して、プレイ時間がより長いことだ」。
「没入感のある体験」
ゲーム内広告には、プレミアムゲームにより適していそうな様式がほかにもある。ロブロックス(Roblox)やフォートナイト(Fortnite)のような初期メタバースのプラットフォームに代表される、仮想のアクティベーションやブランドスペースだ。アンズやアドミックスなどの企業が手がけるゲーム内広告、すなわちマイクロソフトとソニーが計画中とされる広告様式と異なり、これらの体験には通常、独自のミニゲームが含まれており、参加者にはプラットフォーム上で使用できる仮想の景品が提供されることもある。
「マイクロソフトとソニーがこの収益源に注目していることは意外ではないが、両社とも彼らの新たなゲームストリーミング戦略に合わせて、新たにカスタマイズしたものを作ろうとしているのだと思う」とベイツ氏は述べる。「彼らが手がけるゲーム内広告は、従来の技術を使ったり、モバイルから何かを取り入れたりするのではなく、新しく開発された戦略やエコシステムに即したものになるだろう」。
そのような広告体験の構築を専門とするゲームスタジオ、デュービット(Dubit)のような企業は、マイクロソフトとソニーは古いビジネスモデルに注力しすぎており、それよりもメタバースプラットフォームに投資するか、マイクロソフトのマインクラフト(Minecraft)のような独自の仮想空間にブランドアクティベーションを追加したほうがよいと考えている(両社はすでにほかの形で独自にメタバースに参入している。ソニーは4月、エピックゲームズ[Epic Games]のメタバース開発に10億ドル[約1279億円]を投資している)。
「ロンドンのハイドパークで開催するイベントに10万人が集まれば大満足な結果だろうが、ロブロックスではすでに300万人が集まっている」とデュービットのCEO、マシュー・ウォーンフォード氏は話す。「個人的に、バナー広告やビルボードは、広告主がそこから何を得ようとしているのかわからない。一方で、このような楽しくて没入感のある体験を生み出せば、それがブランド構築につながる」。
[原文:In-game advertising experts question Microsoft and Sony’s gaming advertising plans]
Alexander Lee(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:黒田千聖)