広告が減速するなか、 企業買収 の警戒が高まる:「2021年ごろのM&A環境とは全く異なる状態だ」

DIGIDAY

広告業界のM&Aに関しては、どうやら買い手市場とも売り手市場ともいえない状況が起きている。買い手候補たちは、彼らの経済的な状況が厳しくなっていることを感じており、起業家側は景気の冷え込みを警戒している。両サイドのエグゼクティブたちに取材したところによると、これが現在の交渉の現状だという。

それでもM&Aに取り組む人々は希望を持ち続けているが、経済の逆風や世界的な景気後退の可能性、地政学的な不確実性のなかで警戒が高まっているようだ。適正な取引をしようとする意欲は十分にあるが、一昨年の2021年には多くM&Aが成立したことの影響もあり、取引を成立させるのは難しくなってきている。

アドオン買収や国境を超えたM&Aが増加

ファーストパーティ・キャピタル(FirstPartyCapital)のマネージング・パートナーであるリッチ・アストン氏は、「2020年後半から2021年の大部分と比べると、ここ半年ほどの経験は全く異なるM&A環境であることは間違いない」と説明する。

言い換えれば、より大規模で変革的な買収の時代はとっくに終わっている。それらの代わりに、アドオン買収や国境を越えたアウトバウンドのM&Aが増えている。この傾向は、少なくとも高インフレによって資金調達コストが高騰する限り、今後も続く可能性が高い。

このことは、プライベートエクイティ投資家が2022年、前年の2021年ほど活発でない理由を説明している。確かに、売り手の資金調達やアーンアウトのような現金の代替手段を使って取引の資金を調達することは可能であり、実際にそれが行われている事例もある。しかし、投資家たちが直面している真の課題を解決するものではない。より多くの仕事をすることになりながらも、その成果は以前よりも小さくなるだろう、という課題だ。

戦略的投資家にはそのようなためらいを持ってはおらず、そのようなためらいを持っている余裕もない。彼らは、まだ成長しなければならず、スマートな買収よりも迅速に成長する方法は少ない。経済的に厳しい状況ではなおさらだ。

広告業界の厳しい現実に備える「拡大」

今の状況は、その両側面のかゆいところに手が届いている状態だ。アドテク企業のアゼリオン(Azerion)がその好例といえる。アゼリオンは2022年すでに8件の契約を結んでいるが、同年9月以降だけでも3件である。一方、マーケティングサービスグループのパワー・デジタル(Power Digital)は12月に2件の買収を発表し、2022年の買収数は6件となった。成長を加速させるために買収を行ったマイQ(MiQ)やエイオー(Eyeo)も同様である。

手短にいえば、2022年前半の休眠期があった後、数カ月で活気付いたしたことは間違いない。英国市場がその好例である。会計事務所ムーア・キングストン・スミス(Moore Kingston Smith)の調査によると、メディアおよびマーケティングサービス分野でのM&A件数は118件で、同期間に比べて11%増加した。M&Aへのこの需要はより大きな規模でも見られる。投資銀行ルマ・パートナーズ(Luma Partners)によると、第3四半期の世界のアドテク関連の求人数は前期比36%増加した。

そして、今後もM&Aは行われるだろう。実際、アフィリエイトマーケティングのような古くて確立されたマーケティング手法であれ、CTVやリテールメディアのような新しい分野であれ、広告業界の新しい現実が徐々に具体的になってきたなか、それに備えるための整備や拡大に取り組む企業はまだ存在する。さらに、これらの企業は米国、欧州、アジア太平洋の3つの大きな市場で規模を拡大するための準備をさらに拡充しているのだ。また、(これらの企業を買収する場合)通常よりも安くなっている可能性があることも忘れてはならない。

課題は最も魅力的な企業が本当に売りに出ているか

アイオーの最高収益責任者であるジャン・ウィテック氏は、「経済の低迷により、若い企業が優れたアイデアや価値提案を適切なビジネスに変えることが難しくなっている」と述べた。「彼らのなかには、オンライン広告エコシステムにおける堅実なビジネスと強力な関係を持ち、より早く成長できる我々のようなパートナーを探している者もいるだろう。我々はこれを行うことに前向きであり、M&A関連の会話のペースは今後6カ月間で大幅に上昇すると予想している」。

これを踏まえると、買収事例が着実に続くことは驚くに値しない。買収ルートを取る企業をよく見るとなおさらだ。彼らはパンデミックの間に十分な現金を備蓄しており、より魅力的なバリュエーションを利用することができる。これは戦略的な日和見主義と呼べるかもしれない。

アゼリオンのグループ最高投資責任者であるヨースト・マークス氏は「最近ではプライベートエクイティ投資家がM&Aに積極的ではなく、ファウンダーたちがM&Aをしたいと思っているなか、夏以降、より多くのプロジェクトや潜在的な取引が私たちのもとにやってきている」と述べた。「これにより、取引を成立させるさらなる機会が生まれた」。

このような見方は、M&Aの成長をある程度持続させ、ひいては関係者たちが取引成立に自信を持つことを後押しする可能性が高い。とくに現在、これまでの流れを鑑みると関係者たちは自信を取り返すことが必要だろう。広告のM&A市場は、買い手に有利な方向にシフトしつつあるかもしれないが、必ずしも売り手が売却してくれることが保証されているわけではない。多くの不確実性のなかで、すべての起業家が現金化を望んでいるわけではない。なかには、現状の混乱が収まった後、自分たちがどんな選択肢を持てるのか、様子見をすることに問題を感じていない人々もいる。そのため、パワー・デジタルの創設者兼CEOであるグレイソン・ラフレンズ氏のような買い手は苦境に立たされることもあった。

ラフレンズ氏がいうところの課題は、彼の企業開発チームが取引でほかの買い手たちと競争することではない。ひとつの企業に対して、30もの入札者と競争していた2021年とは状況は大きく異なるのだ。課題はむしろ、最も魅力的な企業が本当に売りに出ているかどうかにかかっている。

言い換えれば、M&Aはまだ、売りたくなるような、十分に魅力的なものでなければならない。これは2021年の加熱したバリュエーションがいまだにベンチマークとして使われている市場では容易なことではない。ラフレンズ氏はこの点をさらに詳しく説明し、「我々は、年内には完了するはずの取引がひとつあるが、この契約も、先方が今すぐ売却するのではなく、構築と成長を続けるという選択肢と競っていたのだ」と述べた。

CTV企業は優位な位置に

このように、より慎重なM&Aの波と並行して、エンジェル投資家、プライベートエクイティ会社、ベンチャーキャピタリストなどがより賢明な考え方をするのは理にかなっている。最近の資金調達ラウンドで100万ポンド(約1億5965万円)を確保したアドテク企業のライトボックスTV(Lightbox TV)はその好例である。

同社を支援したのは投資会社のファーストパーティ・キャピタルとアペリアム・ベンチャーズ(AperiamVentures)だけではなかった。ほかにも興味を示したアドテクの専門家たちがいた。パネルベースの測定を提供しているTヴィジョン(TVision)も同様であった。同社は最近1600万ドル(約21億4675万円)のベンチャー・ラウンドを完了した。

これらの企業は明らかに多くの投資家が求める資質・条件を満たしていたようだ。投資家が何としても成長に集中するような好況時ですら、それは容易なことではない。ましてや、明らかに市場が悪化し、投資家の関心がビジネスのファンダメンタルズに向かうようになると、なおさらである。

ライトボックスTVのCEOで共同創業者のマーク・ギブリン氏は、同社の最新の資金調達ラウンドについて、「潜在的な投資家から、事業のコストについて多くの質問があった」と語っている。ギブリン氏は続けて、とくに同社のバーンレートに投資家たちの関心は集まっていると述べた。また、広告が減速したことで、2022年後半におけるオンライン広告費の指数関数的な伸びが大きく下げられたが、同社がいかにそれを乗り切ったか、についても注目されているという。明らかに彼のプレゼン力(と貸借対照表)は投資家の共感を呼んだようだ。

「現在の経済状況は、私たちが物事を計画する方法をあまり変えていない。少なくとも、私たちが別の資本イベントを行う時が来たときに世界がどのようになるかわからないので、バーンレートを少し長く伸ばすべきか、伸ばすとしたらどのようにするか、を検討しているくらいだ」とギブリン氏は述べた。「急速に成長している業界にはおらず、リニアテレビの広告予算が一時停止されたとしてもそれが利益に繋がらないほかの企業よりに比べると、コネクテッドテレビのスタートアップである私たちは、優れたポジションにいるかもしれない。資金の一部はコネクテッドテレビを通じて得られる」。

[原文:‘A very different environment for M&A’: Dealmaking trundles on as ad slowdown drags

Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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