かつて2010年代半ばのミニマルな「ブランディング」のトレンドは、ブランド美学の世界に新鮮な息吹を吹き込んだとされているが、いまでは時代遅れとなりつつある。
過去10年間に創業した複数のD2Cスタートアップが、この1年でリブランディングを行っており、これまでのD2C時代を支配していたミニマリズムのスタイルからの転換を図っている。次々と誕生する新たなブランドとの競争や、オンラインと店頭の両方で目立たなくてはならないというプレッシャーのため、ブランドは大胆でカラフルなブランディングの方向に向かっている。いくつかのブランドによれば、これはマキシマリズムの新時代のひとつの兆しでもある。
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シンプルでミニマルからカラフルで大胆なデザインへ
2016年にオーガニックコットンのタンポンでローンチしたフェミニンケアブランドのコーラ(Cora)は、今月、新たに大胆な配色とロゴでリブランディングを行った。これまでのパッケージは白い箱にサンセリフ体のフォントを使用していたが、現在は赤、青、ピンクの配色で、きわめて大きなロゴが目立つ。
「ブランドを立ち上げたときは、当時、店頭で売られていた製品とはまったく対照的な、非常にシンプルでミニマルなデザインをかなり意図していた」と、コーラのCMOダナ・コーエン氏は語る。しかし同ブランドの最新の美学は、美容製品のパッケージからヒントを得ている。「お気に入りのスキンケア用品と一緒に並べても十分に美しいタンポンのパッケージ」を作りたかったという。
「私たちの願いは、消費者にこのタンポンを高級な製品だと思ってもらうこと。隠したいものではなく、気分が上がるものと思ってほしい」と、同ブランドのクリエイティブを率いるアンドレア・マッカロク氏は述べている。
人々は明るさを渇望している
ブルームバーグ(Bloomberg)が言う「ブランディング」の時代には、かなり似通ったミニマリストの美学を持つD2Cブランドが多々生まれた。このスタイルのアーリーアダプターは既存のブランドとはだいぶ対照的だったが、現在の市場は、このスタイルを用いた新興企業で飽和状態だ。
いま、相次いで市場に参入している新規ブランドはすべて色彩を重視しており、セレモニア(Ceremonia)、キンシップ(Kinship)、インビューティ(Innbeauty)、ユースフォリア(Youthforia)といったブランドは明るく大胆なブランディングでローンチしている。そして、以前のD2Cブランドもそれに追随しつつある。
イリア(Ilia)、スーパーグープ(Supergoop)、ヴィトルーヴィ(Vitruvi)、メリット(Merit)、グロシエプレイ!(Glossier Play!)、ウープ4.0(Whoop 4.0)といったスタートアップと仕事をしてきたデザイン会社アルライデン(Aruliden)のCEOで共同創業者のリナト・アル氏は、「こうした冷たく孤立した白い背景の時代は、いまのところ終わっている」と語る。「デザインは癒しと安心感を与える非常に強力な手段だ。感情に大きく作用する役割を果たすことができるし、そして人々は(もっと明るいもの)を渇望している」。
D2Cブランドは定評ある大手企業に比べて「変化への意欲」が強く、「多くのリスクを取ることを厭わない」ため、ブランディングの転換が早い、とアル氏は指摘した。またD2Cブランドは「データの使い方を熟知しており、何がうまくいって、何がダメだったかについて、本当にすばらしいインサイトを得ることができる」。
色彩とマキシマリズムがトレンドに
「リサーチや私が実際に会話から得たことからすると、消費者は飽きている。注意を引くにはもっと多くのことが必要だ」と話すのは、オイルディフューザーブランドのヴィトルーヴィの共同創業者サラ・パントン氏だ。同ブランドは、今年初めにアルライデンの監督の下でリブランディングを行った。「白と黒のミニマリズムと北欧デザインは、やや飽きられている」。その代わり、インテリアやブランディングなどのデザインの世界全体で「色彩とマキシマリズム」がトレンドになっているという。
2015年に創業したヴィトルーヴィは、パントン氏いわく、もともと「白黒で北欧らしい、クリーンでミニマルなデザインを多用したハイパークリーンなブランディングだった」。今回、パッケージの側面にアロマの種類を明記するためのカラーグラデーションで色を追加するなど、ロゴ以外のすべてを変更した。
スキンケアブランドのクルード(Crude)の共同創業者デニス・カートライト氏は、「最近はポピーカラーを(多く)目にしている。人々は少し大胆になっていて、ずいぶん久々に楽しく新鮮な感じがした」と話す。同ブランドは、昨年「きわめてミニマル、サンセリフ、白と黒、シンプル」という美学から、「よりカラフル、アートワーク、大胆なロゴのブランディング」へとリブランディングを行った。
実店舗への参入がリブランディングを推進
さまざまなブランドのロゴやテキストのフォントは、細い線のサンセリフをやめて劇的に変化している。
「ブランドのフォントとして完全に独自のセリフフォントをデザインし、そこに動きを持たせた」とパントン氏は語る。
以前のコーラのミニマルなサンセリフのロゴは、「とくに消費者に直接販売していたときは、うまく機能していた。しかし小売に進出すると、そのロゴが店頭の棚では埋もれてしまうことが想像できる」とクリエイティブの責任者であるマッカロク氏は説明している。
とくにD2Cのeコマースでスタートして現在は店頭で注目を集めなくてはならないブランドの場合、フィジカルリテールへの参入がリブランディングの大きな理由だと創業者たちは述べている。
「小売に参入すると、突然、競争相手全体と対峙することになる。そこにはいくつかの課題があり、棚で目立つようにするには色がかなり重要になってくる」とマッカロク氏は指摘した。
パントン氏も同じ意見だ。「(ヴィトルーヴィは)より多くの実店舗に参入しており、それが今回のリブランディングの大きな推進力となった」。
ミレニアル世代のテイストが根本のD2C革命を推進したが、Z世代は大胆さを好んで「ミレニアルピンク」のミニマリストルックを捨てているため、現在の転換に拍車がかかっている。
一時的なトレンドではなく、ブランド戦略を重視すべき
だがブランドは、美意識の変化だけを理由にトレンドにすぐに飛びつくべきではないと、アル氏は注意を促した。
「ミレニアル世代と50代に差しかかった世代に向けて語りかける場合、それぞれの世代で求めているものが違う。本当に重要なのは、色のトレンドを追うのではなく、『どこにチャンスがあるのか』ときちんと考えることだ。ブランドには、そのような規律がなくてはならない。そうでなければ、あっという間に道を見失い、自分たちが伝えようとしていることとはまったく関係ないトレンドを追いかけるはめになる」。
多くのブランドは、新しいルックを作る際に独自の提案をうまく活用している。たとえばコーラは、アメジストなど自然界に存在するものから色のインスピレーションを得て、「オーガニック」というテーマを強調した。一方、クルードはプロバイオティクスという点を伝えるために、バクテリアにヒントを得たアートワークを制作してパッケージに用いている。
最終的には、ブランドはブランディングの選択をするにあたって消費者に目を向けるべきだと、アル氏は述べた。「これらの製品のユーザーは、非常に積極的な意見を持っている。ブランドが好むと好まざるとにかかわらず、ユーザーが独自のコンテンツを作っている。そして(ブランドは)、それらのいくつかの手がかりや(消費者が)視覚的かつグラフィック的に行っていることを本当に理解すべきだ」。
アル氏からブランドへの最大のアドバイスはこうだ。「(リブランディングの)プロセスにある会社は、一過性で終わるかもしれないトレンドを追いかけるのではなく、自分たちが何者なのか、何を解決しようとしているのか、ブランドとして全体的な戦略は何か、ということにきわめて忠実であるべきだ。なぜなら、私たち人間はとても気まぐれだからだ。あることに興奮したかと思えば、それに飽きてしまい、放棄してしまう」。
[原文:The fall of ‘blanding’: DTC labels rebrand to keep up with the era of maximalism]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)