電気自動車メーカー大手テスラの最高経営責任者(CEO)で、2021年版フォーブス誌世界長者番付で1位のイーロン・マスク氏(純資産2,190億ドル)がツイッターを440億ドルで買収することで合意しましたね。
そのマスク氏と言えばトランプ氏と同様、歯に衣着せぬ物言いで知られます。自身を「言論の自由に対する絶対主義者」と公言して憚らず、ツイッター社の規制によるアクセス制限やアカウント凍結などは民主主義を根本的に損ねていると批判していました。今回の買収も言論の自由の獲得を狙いがあるとし、そのために非上場化を進めます(マスク氏のツイッター関連をめぐる重要な投稿は、こちらをご確認下さい)。
そうなれば、俄然注目されるのが2021年1月にツイッターから永久追放されたトランプ氏のアカウント復活です。マスク氏と言えば、トランプ前大統領が政権発足後まもなく立ち上げた製造業評議会のメンバーでした。17年6月にはパリ協定離脱に反対して辞任したものの、トランプ氏は2020年にテスラの工場を視察するなど冷戦状態にあったわけではありません。
逆に気候変動対策を推進するバイデン大統領とマスク氏は、犬猿の仲です。マスク氏はトランプ氏と同様、歯に衣着せぬ物言いで知られますが、バイデン氏に対し「米国人をコケにしている」など猛批判してきました。一因に、テスラ氏が21年9月に不満を漏らしたようにバイデン氏がテスラ社を無視してきた実情が挙げられます。
例えば、1月26日に暗礁に乗り上げる「より良い再建法案(BBBA)」をめぐる会合にゼネラル・モーターズ(GM)やマイクロソフト、全米教職員保険年金協会(TIAA)を招いたものの、テスラには声が掛かりませんでした。2月に漸く、バイデン氏がテスラの存在について「米最大のEVメーカー」と言及し、4月6日に開催したEVの普及と充電器の設置をめぐる主要自動車メーカーとの意見交換で、やっとテスラは参加できたものです。
バイデン氏がテスラと距離を置く理由に、労働者保護をめぐる見解の違いがあります。バイデン氏と言えば、就任早々の21年4月、労働組合強化の大統領令に署名。21年10月に発表したBBBAの礎となる「より良い再建の枠組み」でも、労組を有する米自動車メーカーからEVを購入者した場合、労組が組織されていないテスラより税額控除を4,500ドル多く提供する条項が盛り込まれていました。もちろん、マスク氏も不当と噛みついたものです。
マスク氏の確執はさておき、ツイッター社の規制変更懸念もありバイデン政権はトランプ氏を始め一部右派の共和党議員のアカウント復活を懸念し、買収動向を注視しているもよう。また、プログレッシブのエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)も「民主主義を危機にさらす」と警戒し、シリコンバレーの支持を受けるロー・カンナ下院議員(カリフォルニア州、民主党)もユーザー保護に向けた法整備が必要と語ります。
当のトランプ氏はいうと、25日にツイッターへの復帰を希望しないと発言済み。ただし、今後のルール改正次第では、トランプ支持者のツイッターのアカウントが復活しないとは限りません。
ところで、アメリカ人はマスク氏のツイッター社買収をどう評価しているのでしょうか?
まずは株価をみてみましょう。ツイッター社との買収合意により、マスク氏は同社株主に1株当たり54.20ドル支払うとされ、これはマスク氏が株式大量取得を公表した前営業日の4月1日の終値を38%上回る水準です。とはいえ、2021年2~10月にかけての55~70ドル台に及ばず、株主全員にとってハッピーな金額かというと疑問が残ります。
それでも、同社株価が5.7%高の51.70ドルで引けました。株高で反応した背景には、米国人の規制疲れがあると考えられ、ハーバード大学/ハリスが実施した世論調査ではマスク氏のツイッター買収に57%が支持を表明していました。世論調査会社ハリスXのCEOは、今回の世論調査結果に対し「マスク氏によるツイッター買収への支持は、有権者の明確なメッセージだ」と指摘。その上で有権者は「企業による取り締まりを減らし、ソーシャルメディアにおける真の議論を求め、自分たちが声を上げて築いたデジタル上の公共の意見交換の場が、政治的な偏見に影響されない寛容さを持つことを望んでいる」と分析していました。
チャート:過半数がマスク氏のツイッター買収に賛成
投稿後にツイートを編集できる機能付加も好感された可能性がありますが、そもそも、NPR/PBS/マリストによる2018年12月の世論調査で、既に52%が「一段のポリコレ推進に反対」と回答していました。一段と表現への配慮が進む過程で、2021年11月のバージニア州知事選で共和党知事が辛勝した事実が思い出されます。
さて、マスク氏の買収に規制上のハードルはないと言われていますが、投稿制限ルールなどの改定などに対し、米証券取引委員会(SEC)が質問を浴びせ買収プロセスを長引かせることは可能なんだとか。実際にSECが行動すれば、ツイッターの影響力は中間選挙で抑えられそうですが、果たしてどうなることやら。また、仮にツイッターの規制が変更されれば、ロシア―ウクライナ間での情報戦にも変化をもたらしかねません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年4月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。