子どもをもつのは贅沢になったというのは本当か?

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岸田総理が「異次元の少子化対策」を打ち出して以降、各方面から様々な少子化対策が提案されています。筆者はこの流れの背景には、こども家庭庁の創設がまずあり、こども家庭庁に相応の予算規模を持たせる目的と、それに便乗して一度小泉進次郎氏を担いで頓挫した「こども保険」の復活ひいては厚生労働省とその応援団の権限拡大があると睨んでいますが、ここではそのことには深入りはしません。

本記事では、所得水準と子どもの関係を探ってみたいと思います。ただし、公表データの制約上、所得水準と子どもの「数」にまでは踏み込めず、あくまでも所得階層別に見た子どものいる世帯の割合の差異についてでしかない点を予めお断りしておきます。

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さて、経済学によれば、所得水準と子どもについては、一般的には、所得水準の上昇は、子どもを養う余力が大きくなるので子どもが増える効果(所得効果)と、反対に子育てに時間が取られて収入が減るため子どもを減らす効果(代替効果)という、相反するベクトルを持つそれぞれの効果の綱引きによって決まるとされています。しかも、代替効果は所得水準が高くなるほど、出産・育児のために断念しなければならなくなる所得が増えてしまうので、より大きくなると考えられています。

つまり、ある程度までの所得水準の上昇は、所得効果が代替効果を上回るので子どもを増やす方向に働くのに対して、ある程度以上の所得水準になると、代替効果が所得効果を上回るので子どもを減らす方向に働くのです。

厚生労働省『国民生活基礎調査』により、所得階層別の子どものいる世帯の割合を見てみます。ここでは、第一子が誕生する平均年齢が父32.9歳、母30.9歳であることに鑑み、30代以下に限っています。

グラフを見れば、経済理論が教える通り、総じてみれば所得水準の上昇とともに子どものいる世帯の割合は高まり、ある所得水準を超えるとその割合が低下することが確認できます。

図1 所得階層別にみた30代以下世帯のうち児童のいる世帯の割合
(出所)厚生労働省「国民生活基礎調査」より筆者作成

なお、こうした所得が上がるほど子どものいる世帯が増えある程度の所得水準を超えると子どものいる世帯の割合が減る傾向はいつの時代にも観測されることも指摘できます。

そしてピークとなる分岐点の所得水準は、2020年では、600万円台の所得階層であることが分かります。

やはり、厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、29歳以下世帯の平均所得は433.1万円、30歳台では636.3万円となっています。30歳台に限れば、世帯所得が600万円以上の世帯は全体の45.8%、中位所得も500万円程度ですので、平均から大きく乖離しているわけではないことが分かります。

つまり、平均的な所得と子どもの関係からは、子どもを持つのが贅沢になったとまでは言えないでしょう。

同時に、20年前と比較したグラフからは、同じ所得階層でも現在の方が子どものいる世帯の割合が低下していることも分かります。特に、注意してみると、世帯年収が400万円未満の層で、子どものいる世帯の減少が著しいことが分かります。

図2 所得階層別にみた30代以下世帯のうち児童のいる世帯の割合の推移
(出所)厚生労働省「国民生活基礎調査」より筆者作成

これは、子育てに昔より多くの金額が必要になっているのと、社会保険料の増加で手取り所得が減っていることが原因と考えられます。

この点から言えば、子どもを持つのが昔に比べると贅沢になったと言えるのだと思います。なぜなら、同じ年収であっても今の方が子どもを持てないわけですから。

したがって、現在政府が検討しているような生活がかつてより苦しくなった子育て世帯に児童手当等の現金給付を分厚くするのは正当な理由があると考えられますが、所得制限を撤廃する必要まであるかと問われれば、筆者はそれは政策目標次第と考えます。

つまり、これは少子化対策の目的が、「第一子を増やす」ことにあるのか、それとも「第二子以降を増やす」ことにあるのかで違ってくるはずなので、政策目的次第と言えるのです。

いま、所得の低い世帯が、本当は子どもが欲しいのに所得が低いが故に子どもを諦めていて、そうした世帯に支援を手厚くすることで子どもを持って欲しいというのであれば、所得制限をより厳しく掛けることで低所得世帯に集中的に金銭的な支援をするべきでしょう。それに対して、すでに第一子はいるものの第二子以降になると金銭面で負担が重いので諦めている世帯の方が、金銭的な支援があればより子どもが増えるというのであれば、例えば第一子への支援をやめ、第二子、第三子以降への金銭的支援を拡充することが考えられます。

なお、1986年には子どものいる世帯といない世帯とはほぼ半々だったわけですが、現在では子どものいる世帯の方が5世帯に1世帯と圧倒的に少数派であるという現実がありますし、子どもが一人の減少幅よりも、2人以上の子どものいる世帯の減少幅の方が大きい事実を指摘できます。つまり、少子化進行は子どもを2人以上持たなくなったことが大きいのです。

図3 児童の有(児童数)無の年次推移
(出所)厚生労働省「2021年 国民生活基礎調査の概況」7頁

果たして、岸田総理の「異次元の少子化対策」は、「第一子を増やす」のか、「第二子以降を増やす」のか、どちらを目指しているのでしょうか。

まさか特に戦略的な目標はなく、薄く広く、とにかくバラマキたいというのでないことを切に願います。

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