パンデミック後にアウトドア熱が高まったことで国立公園が過密状態に、環境被害を抑えるにはどうすればいいのか?

GIGAZINE
2021年08月14日 23時00分
メモ


by Thru My Shutter

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴って密閉・密集・密接の3密を避けることが推奨された結果、日本では自然の中に開放的な空間を求めてアウトドア人気が高まっています。アメリカでも同様にアウトドア熱が高まった結果、自然あふれる国立公園への訪問者数が急増しており、人間の過密状態によって引き起こされた環境への被害が新たな問題になっています。

Post-pandemic overcrowding of national parks causing bigger problems than just long lines | Live Science
https://www.livescience.com/overcrowding-us-national-parks.html

国立公園は自然保護の目的で国が管理している公園で、野生動物などの豊かな自然と触れあえる区域です。アメリカではワクチン接種が広まってパンデミックが一段落して以降、都市封鎖や不要不急の外出を控える要請で家に閉じこもることを余儀なくされた反動か、国立公園を訪れる観光客の数が急激に増加しているとのこと。

ユタ州のアーチーズ国立公園には2021年4月に19万4000人の人々が訪れましたが、これは2019年4月と比較して15%も増加しています。同じくユタ州のキャニオンランズ国立公園は4月の訪問者数が2019年から2021年にかけて30%も増えたほか、テネシー州のグレート・スモーキー山脈国立公園は2021年1月1日~5月20日の訪問者数が313万人を突破し、パンデミックが起きた2020年の同時期と比較して115%も増加しました。

国立公園への訪問者数増加は、主にこれまで国立公園に行ったことがない観光客によって引き起こされているそうで、専門家は国立公園の過密状態が引き起こす影響を懸念しています。コロラド州立大学の国立公園の専門家であるマイケル・チルダース准教授は、「私たちはみんな、国立公園を体験したいと思っていますが、全員が一度に行くことはできません」とコメントしています。


国立公園が過密状態になってしまうことには、大きく分けて2つの問題があります。1つ目の問題は、訪れる観光客自身の「エクスペリエンス」が損なわれてしまうという点です。チルダース准教授は「国立公園は訪問者が自然の美しさやその場所の歴史を体験できるように作られています。しかし、ハイキングをするのに順番待ちをしたり、駐車場を見つけるのが大変だったりする場合、自然の美しさやその場所の歴史を体験するのは困難です」と述べています。

そして2つ目の問題が、大勢の訪問者が来ることで国立公園の環境に負担がかかってしまうという点です。たとえばカリフォルニア州のヨセミテ国立公園では、訪問者の増加によってジャイアントセコイアの地表に近い根系にダメージが及んでいるとのこと。

チルダース准教授は、「国立公園局はこの問題を解決するために地面よりも一段高い歩道を敷設しましたが、あまりにも多くの訪問者が車で来て駐車するなど、木の周囲を行き交う観光客は依然として問題です」とコメント。人が持ち込むゴミや騒音、車の排気ガスなどに加え、動物と人の遭遇する可能性の増加も環境に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しました。


パンデミックは確かに国立公園を訪れる人の増加につながりましたが、実際にはパンデミック以前から国立公園の過密状態は問題視されていました。1919年に国立公園を訪れた人はアメリカ全体で78万1000人でしたが、1969年には1億5900万人、2019年には3億2700万人と急激に増加しています。これは自動車の普及や観光業の発達が関連しており、過密に対応するために道路や宿泊所といったインフラストラクチャーを整えたことで、さらに多くの人々が国立公園を訪れるようになっているとのこと。

チルダース准教授は、国立公園の過密に対する解決策は1つではなく、以下の複数の選択肢を組み合わせることが重要だと主張しています。

・政府による支出の増加
政府が国立公園への支出を増加させ、行列を減らすための券売機や渋滞を防ぐための広大な駐車場、ゴミ箱、トイレといった設備を整えることは、国立公園が収容できる人数を増やすために重要です。しかし、さらに重要なのは「国立公園の管理を行う人員の増加」だとチルダース准教授は指摘。国立公園を適切に管理するスタッフや科学者に投資して、慢性的な人員不足を解消することが必要だと述べました。

・国立公園への訪問を予約制にする
国立公園を一度に訪れることができる人数の上限を設定し、予約制にしてしまうことも、訪問者が過密状態になるのを防ぐ1つの方法です。この方法は国立公園を訪れる観光客のエクスペリエンスを向上させる可能性がありますが、頻繁に国立公園を訪れるヘビーユーザーや観光業の人々にとっては不満が残る方法かもしれません。

・訪問客が自ら責任を持つ
最後のオプションは、国立公園に来る人々が自ら責任を持って行動するということです。「私たち訪問者の持っている『人気のある国立公園にいつでも好きなように訪れて体験できる』という期待を変える必要があります。この変化はおそらく最も難しいものですが、最も影響力があります」とチルダース准教授は述べています。


チルダース准教授は、国立公園との関わりには変化が必要だとしつつも、依然として人々にとって国立公園は必要不可欠なものであり、できるだけ多くの人々が国立公園を体験できることを望んでいるとのこと。「国立公園のアイデアは、素晴らしい場所での休息と思考を人々に提供することです。国立公園を楽しむことができる人は多ければ多いほどよいのですが、私たちは将来の世代も国立公園を楽しむことができる方法を見つける必要があります」と述べました。

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