ナイキ(Nike)、スキムス(Skims)、イージー(Yeezy)、カーハート(Carhartt)、ノースフェイス(North Face)の共通点は何だろう? 数年前なら、答えは「共通点などほとんどない」だったかもしれない。しかし現在、これらのブランドはすべて比較的手頃な価格であるにもかかわらず、これらもまたラグジュアリーブランドであるという強い意見がある。
長年にわたって「ラグジュアリー」は「高価なもの」と同義語だった。しかしラグジュアリー小売店の実店舗やネットショップ、ラグジュアリーを中心にした出版物の記事などで、ラグジュアリーという言葉が次第に広い意味を持つようになり、多様な価格帯のさまざまなカテゴリーのブランドを含むようになってきている。
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ラグジュアリーに昇格する大衆ブランド
ナイキのようなブランドはリーズナブルな価格で、ほとんどのラグジュアリーブランドよりもはるかに入手しやすい価格である。しかしいまでは、「ラグジュアリー」かどうかのお墨付きを与える役割を果たしているファーフェッチ(Farfetch)やマッチスファッション(MatchesFashion)といった小売業者のおかげで、ラグジュアリーのステータスに昇格している。たとえばファーフェッチは40ドル(約5060円)のシンプルなナイキのTシャツと、615ドル(約7万8000円)のバレンシアガ(Balenciaga)のシャツを並べて販売している。ネッタポルテ(Net-a-Porter)では、スキムスの58ドル(約7340円)のワンピースが、イザベルマラン(Isabel Marant)の1395ドル(約17万6500円)のドレスと並んで売られている。
「ナイキはラグジュアリーブランドではないが、ラグジュアリーな服と一緒に着られている」と話すのは、オーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group)の社長でCMOのニック・ウッドハウス氏だ。「私は時々、ナイキや(ABG傘下の)リーボック(Reebok)あるいはコカ・コーラ(Coca-Cola)といった企業を説明するのにスーパーブランドという言葉を使うことがある。そうした企業はあらゆるデモグラフィック、あらゆるサイコグラフィックに向けて、いたるところで活動することが許されている。いくつかのブランドにはそうした普遍的な魅力がある」。
限定版やスペシャルコラボでラグジュアリーの顧客にアピール
しかし、これらのブランドがラグジュアリーなオーディエンスに販売している方法には、コアな顧客に対する方法と比較するといくつかの顕著な違いがみられる。こうしたラグジュアリークロスオーバーブランドの多くは、アディダス(Adidas)のアディダスオリジナル(Adidas Originals)のように、ラグジュアリー小売業者か直販のみでしか販売されない独立した製品ラインやコレクションを持っており、それに対し、主流となる衣服はいたるところで販売されている。通常、より高級志向の製品は価格も高く設定されている。たとえば、ナイキのオフホワイト(Off-White)のジョーダン1(Jordan 1)のスニーカーの小売価格は190ドル(約2万4000円)であり、かなり高い値段で再販されているが、標準のジョーダン1はたったの110ドル(約1万4000円)である。
ファーフェッチで販売されているアディダスのスニーカーのほとんどは、ラグジュアリーデザイナーのクレイグ・グリーン氏ともにリリースしたシューズなど、リミテッドエディションのコラボレーションである。それにくらべると、ウルトラブースト(Ultraboost)のような人気スニーカーのベースラインモデルが同サイト上で販売されるケースは非常に少ない。それらはアディダスから直接販売されるか、フットロッカー(Foot Locker)のようなメインストリームの小売店での販売が一般的だ。
デジタルマーケティングエージェンシーのヒュージ(Huge)で分散型コマースのグローバル責任者を務めるキム・グエン氏は、「ラグジュアリーな小売店の品揃えのほとんどは、機能よりもスタイルが優先される」と述べている。「ナイキやノースフェイスのようなブランドは、最高レベルのデザイラビリティ(望ましさ)を推進するために品揃えを分けており、ラグジュアリーな小売店ではリミテッドエディションの配色やスペシャルコラボレーション、あるいはライフスタイルラインのみを小売している」。
ラグジュアリーを伴うブランドとなることで新たな高みへと飛躍し、チャンピオン(Champion)やカーハート(Carhartt)のようにブランドへの関心を復活させたり、大いに利益をもたらす新規オーディエンスを獲得したりすることもある。したがってこれは魅力的な動きではあるが、意図してできるものではない。
ラッセル・アスレチック(Russell Athletic)は、2019年にチャンピオンのようにクロスオーバーの動きを推進したが、同じように成功することはできなかった。しかし1月、ラッセルのヴィンテージパーカーが、ブランドからのインプットなしにeBayで有機的に注目されはじめ、検索数350%増、売上190%増を記録している。
人はレアなものに高い価値を見出す
では、平凡なブランドがラグジュアリーのステイタスに昇格する要因は何か。そこにはいくつかの理由がある。まず間違いないのは、ファッションのカジュアル化が進み、人々がジム以外でもアスレチックやアスレジャー系のブランドを受け入れるようになったことだ。
BtoBファッションマーケットプレイスのファッシュワイア(FashWire)のCEOキンバリー・カーニー氏は、「消費者はさらにカジュアルになり、高級志向の顧客は自分のテイストのレベルに合ったブランドを探している」と話す。「とくにパンデミックの最中に、消費者は普段の生活で着る服と、仕事や遊びの服を調整した。ラグジュアリーは、引き続きスポーツ界の大手企業の成功を利用して、このカテゴリーでさらに多くのことを行っていくだろう」。
だが多くの非ラグジュアリーブランドをラグジュアリーへと向上させるうえで、ストリートウェアが中心的な役割を果たしていることからもわかるように、依然としてそこになくてはならないのが独占性である。リミテッドエディションにある独占的な要素は、高価格が持つ独占性と同じポイントをうまくつかんでいる。つまり、誰もが持っているわけではないということがラグジュアリーの魅力の一部だとすれば、安価だが、レアなスニーカーには、容易に手に入るが法外な価格のハンドバッグと同じよさがあるのだ。
「ラグジュアリーは決して価格だけの問題ではなく、常にアクセスの問題だ」とグエン氏は指摘した。「価格はたしかにそれを達成するためのひとつの方法だ。しかしナイキやイージーのようなブランドは希少性を活用して、似たような欲求やステータスを示す感覚をもたらしてきた。希少性は精神的近道として機能する。要するに私たちはレアだと認識されているものに高い価値を見出し、豊富にあると思われるものは価値が低いと考える」。
注目すべきは、イージースニーカーをより広く入手できるようにブランドが供給を増やした後、2019年にイージーへの関心が控えめとはいえ明らかに低下したことだ。コアな顧客とされる層には、そのシューズが一般的ではないことがセールスポイントになっていたのだ。
ラグジュアリーとの区別が曖昧になることで生まれる利点
ヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)の広報担当者によると、ブランドのリセールバリューの認知度も、そのブランドがいかに「ラグジュアリー」かという点において役割を果たすことがあるという。このフランスのリセールサイトは、ラグジュアリーに特化していると主張するが、アシックス(Asics)やパンガイア(Pangaia)など、ラグジュアリーに隣接するさまざまなブランドを扱っている。
またラグジュアリーブランド自体も、そうではないブランドにラグジュアリーというステータスを与えることに貢献しているとグエン氏は述べた。彼女は、2019年から2021年にかけてラグジュアリーブランドとストリートウェアブランドとのコラボレーションが200%増加したことを示すストックX(StockX)のデータについて言及している。代表的な例に、グッチ(Gucci)×ノースフェイスやオンランニング(On Running)×ロエベ(Loewe)などがある。グエン氏によると、ラグジュアリーと非ラグジュアリーの区別が緩くなったことで、どちらのブランドにもメリットがあるという。
「ライフスタイルブランドは憧れに満ちた幸福感から恩恵を受けているが、ラグジュアリーブランドもまた、新しいオーディエンスにリーチして、老舗のメゾンが幾度となく手に入れたいと望んできたレレバンス(商品やブランドと消費者がつながること)を獲得するという機会を得ている」とグエン氏は述べている。
[原文:How do non-luxury brands become luxury-by-association?]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida、編集:黒田千聖)