エンタメファンサイト「ファンダム」、広告主の獲得に意欲: ファーストパーティデータ に関する深い知見が強み

DIGIDAY

エンターテインメントファンサイトのファンダム(Fandom)は、いうなればエンターテインメントに特化したウィキペディア(Wikipedia)だ。サイトの規模は4000万ページにのぼり、テレビ番組、映画、ビデオゲームに関する基本情報のみならず、各タイトルのストーリーや歴史、登場するキャラクターなどについて、微に入り細を穿つ解説を提供している。月間のユニークビジター数は(Googleアナリティクスによれば)ざっと3億人。この人々がページをクリックする頻度や理由を分析することにより、ファンダムは広告販売に有益な知見をより多く収集することができる。

ファンダムはFanDNAという名称でファーストパーティデータを提供している。クライアントに対する最初のデータ提供は2021年1月のことだ。FanDNAはトピック別にまとめられたページから、ありとあらゆるコンテクスチュアル情報を収集する。さらに、同サイトのコミュニティページでコンテンツを寄稿したり、エンゲージメントを管理したりする20万人の「スーパーファン」を対象に調査をおこない、知見を集めることも可能だ。立ち上げ以来、ビデオゲームの開発企業、消費者向けの冷凍食品ブランド、動画配信サービスなどがファンダムのデータを活用している。

「我々は何が人気なのかだけでなく、なぜ人気なのかという理由まで分かる」と、ファンダムのステファニー・フリード最高マーケティング責任者(CMO)は話す。「ファンたちがどのキャラクターに共感を覚え、どんなストーリーに心惹かれ、ゲームのなかでどういう武器を使いたがるか把握できる。さらに、そのストーリーやキャラクターや武器が、ファンのエコシステムのなかでどうつながっているのかまで知ることができる」。

そのため、マーケティングキャンペーンの企画を待つまでもなく、さまざまな形で広告クライアントと連携できる。たとえば、ファンから直接集めた知見を活用して、新しいエンターテインメントを企画したり、マーチャンダイジング戦略を立てたり、新たにターゲティング対象とすべきファン層の重なりを特定するなどだ。

FanDNAで得られるメリット

一方、広告主は大規模な広告購入でFanDNAの知見を活用することができる。あるいは、FanDNAの営業チームにカスタム調査を委託することもできる。料金は調査やデータによって異なるが、ファンダムは価格設定モデルを公開していない。

セールスマーケティング担当バイスプレジデントのアンソニー・イアファルダーノ氏によると、ファンダムは現在、ある動画配信サービス(社名は非公開)のコンテンツ開発を支援している。往年の子ども番組を実写でリメイクする企画で、ターゲットはオリジナルの番組を見て育った大人のオーディエンスだ。作品の公開は1年半ほど先で、ファンダムは制作には関わらない。代わりに、オリジナル版のキャラクターやストーリーのうち、ファンダムの番組ページの検索件数やエンゲージメントに基づいて、反響の大きかったものを共同で分析している。なお、この調査は同サービスの広告購入とは別途でおこなわれている。

フリード氏によると、知財保有者がマーチャンダイジングで使うキャラクターや名セリフ、シーンなどを決める際にもFanDNAのデータを活用できるという。

しかし、もっと広範なクライアントが享受できるFanDNAのメリットは、パブリッシャーから直接購入する純広の予算を拡充できることだという。潜在的なファン層、いつどこに広告を表示すべきか、あるいは広告メッセージの文言などについて、FanDNAはより多くのデータや知見を提供してくれる。ファンダムによると、FanDNAのデータを活用したキャンペーンは、平均して7桁以上の収益をあげている。昨年、FanDNAを活用して調査をおこなったり、広告キャンペーンを強化したりしたクライアント企業は20社以上にのぼった。

「この種のツールはクリエイティブの開発に有用だ。新たに発見されたトレンドを広告に反映できる点は特に大きい」。そう語るのは、メディアエージェンシーのザクシス(Xaxis)でソリューション担当のマネジングディレクターを務めるシャオ・リン氏だ。「ブランドはファンダムのデジタルチームやクリエイティブチームと連携して、このようなトレンドを広告に反映させることができる。消費者のニーズに適い、感情に訴えるコンテンツをタイムリーに提供することで、ターゲティングだけのケースより、さらに大きなインパクトを期待できる」。

カプコン「モンハン」の事例

ビデオゲームを開発する日本企業のカプコン(Capcom)は、「モンスターハンター」のリリースに合わせてキャンペーンを展開した。イアファルダーノ氏によると、キャンペーンの主な目的は、カプコンが過去に開発したゲームのファンを再活性化するとともに、潜在的なファンを掘り起こすことだった。

「ファンダムのデータを活用して、ほかのコミュニティとの重なりを発見した。さらに、アニメをはじめ、ゲームと親和性の高いエンターテインメント分野も特定した。特にアニメは新しいクリエイティブ戦略やメディア戦略の提案につながり、このキャンペーンで実際に採用された」。なお、具体的な評価指標(KPI)は開示されなかった。

これらの知見はゲーム業界の広告主だけにメリットをもたらすものではない。メディアバイイングエージェンシーのメディア・トゥ・インタラクティブ(Media Two Interactive)のセス・ハーグレイヴ最高経営責任者(CEO)は、「家具やインテリア雑貨を扱うクライアントなども、ビデオゲームや新しいゲーム機の発売日に合わせて、コンピュータ用のデスクやチェアのキャンペーンを展開できるだろう」と述べている。

結局のところ、メディアバイヤーにとって、ファンダムの最大の魅力とはなにか。ハーグレイヴ氏によると、それは3億人のファンに対する無制限のアクセスだという。しかもこの人々は、ウサギが複雑に入り組む巣穴を掘り進むように、いくつものクリックを重ねながら、自分たちの関心や興味をピンポイントで教えてくれる。

[原文:How Fandom is using its insights into fans’ online behavior to pitch advertisers

KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)

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