メディア企業スキム、企業の「 福利厚生 」DBを一般公開:迫る人材獲得競争に向け約500社が賛同

DIGIDAY

本格的な「大離職時代」が迫り来るなか、人材を引きつけ、さらには引き留めておくために、企業は有給育児休暇制度の情報公開に望みをかけている。デジタルメディア企業のスキム(theSkimm)は、企業の福利厚生情報を集めたデータベースを構築し、さきごろ一般向けに公開した。情報公開に同意した企業は、スタートアップからフォーチュン500企業まで、すでに500社近くにのぼる。

こうした動きを背景に、有給育児休暇だけでなく、職場における男女平等についての議論がさらに進めばよいと、スキムは期待している。同社のウェブサイトによると、スキムでは、従業員に対して、養子縁組、里親または代理出産に伴う18週間の有給休暇、流産や死産に伴う忌引き、職場復帰を円滑に進めるプラン、無制限の有給休暇を付与している。

「金融危機やシーセッション(Shecession)と呼ばれる女性の雇用不況は多くの人を失業に追い込んだ」と、スキムでブランドマーケティングおよびコミュニケーション担当シニアバイスプレジデントを務めるジョディ・パトキン氏は述べている。「人生のバランスを考えつつ、情報に基づいて意思決定をおこなえる環境はこれまで以上に重要だ」。

アドビなど大手企業も登録

このデータベースは、有給育児休暇制度の有無、その日数、妊活や養子縁組のための休暇制度の有無、従業員の復職プランの有無などについて、登録企業の詳細な情報を搭載している。これまでに、アドビ(Adobe)やバンクオブアメリカ(Bank of America)などの大手企業のほか、グループエム(GroupM)のような広告系の持株会社が登録している。また、ユーザーが勤務先の企業でこのような取り組みを開始するための情報やリソースも用意されている。

このデータベースは3月23日に正式に公開された。企業の福利厚生制度について知りたい求職者だけでなく、誰でも無料で利用できる。パトキン氏によると、有給家族休暇制度を持たない企業には、これを機に制度の導入を検討してもらいたいという。

データベースの構築はスキムが展開する#ShowUsYourLeave(あなたの会社の有給休暇制度について教えてください)キャンペーンの一環だ。昨年、ジョー・バイデン米大統領が「ビルド・バック・ベター(Build Back Better:より良い再建)」計画を看板政策に掲げ、この計画に有給家族休暇制度を含めることの是非が連邦議会で議論されたことも、この活動のひとつの端緒となった。実際、コロナ禍のさなか、多くのワーキングマザーや介護を担う女性就労者が、育児や柔軟な働き方を支援する制度の不在により、離職を余儀なくされている。パトキン氏によると、この女性特有の雇用不況、いわゆる「シーセッション」をめぐる議論もキャンペーンの立ち上げに大きく影響したという。

「有給家族休暇の不在が男女間の賃金格差を助長している」とパトキン氏は指摘する。「結果的に、女性はキャリアアップで後れを取っている。#ShowUsYourLeaveの活動を通じて、人々は声を上げ、企業が果たすべき責任について、自分たちの要望を語るようになった」。

動き始めた各社

ほかの先進国とは異なり、米国は現在、有給家族休暇に関する全国標準を定めていない。バイデン大統領のビルド・バック・ベター法案が上院に送られることもあり、今後の議論が注目される。一方、有給家族休暇制度に対する公的支援を求めているのはスキムだけではない。

マーケティングや広告の業界では、クリエイティブ系の企業が集まり、育児休暇制度の導入や充実を推進する「プレッジ・ペアレンタル・リーブ(Pledge Parental Leave)」運動を発足させ、新しく親になる従業員に対して、給与の全額を支給する3カ月間の完全有給休暇を認めるように同業他社に働きかけている。一方、ジェニファー・ベット・コミュニケーションズ(Jennifer Bett Communications)やインクハウス(Inkhouse)などのコミュニケーションエージェンシーは、流産や死産に際して有給休暇を付与する社内制度を設けている。

人材獲得競争で生き残るには

コロナ禍の収束がいまだ見えないなか、広告業界に限らず、従業員に最大限の休暇を付与することに新たな関心が集まっている。そう指摘するのは、A4で人材、公平、インクルーシブ担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるサイモン・フェンウィック氏だ。

「大離職時代は多くの組織にとって目から鱗の出来事だった」と、フェンウィック氏は述べている。「誰もがずっとこう考えていた。従業員は仕事を辞めない。辞めるとすれば、それは別の仕事が見つかったときだ。彼らは自分たちの地位に大いに満足している、と」。

しかし、現実は違った。「大離職時代」と呼ばれる現象が進行するなか、世界中で大勢の人々が仕事を辞めている。マーケティングウィーク(MarketingWeek)で報告されたリンクトイン(LinkedIn)の調査によると、マーケティング業界で働く女性の半数以上が、コロナ禍がもたらしたさまざまな問題を理由に業界を去った、あるいは去ることを検討しているという。

フェンウィック氏によると、この結果は、育児休暇や心の健康、柔軟な職場環境に重きを置くなど、人々が人生で大切なものを再考しはじめた証左だという。従業員の新たな要求を軽視する企業は、人材獲得競争で手痛い敗北を喫するかもしれないと、同氏は警告する。

コロナ禍とそれに続く2020年代の社会正義運動を背景に、広告業界だけでなく、米国の実業界全体が、ブラックライブズマター運動の支援や、マイノリティが経営する企業へのより積極的な投資などを通じて、#ShowUsYourLeaveのような社会運動に支持を表明してきた。これらの活動をめぐる議論は、その後やや沈静化しているものの、フェンウィック氏は従業員の強い要求を背景に、この勢いが続くことを期待している。

パトキン氏によると、スキムでは、先に公開したデータベースを毎週更新し、企業や個人がアンケート調査や記入フォームを通じて継続的に貢献できる仕組み作りを計画している。

「これはほんの始まりにすぎない」と同氏は語る。「この活動をさらに成長させ、もっと多くの情報を発信したい」。

[原文:‘Paid family leave is exacerbating the gender pay gap’: Nearly 500 companies pledge transparency around paid parental leave as talent war looms

Kimeko McCoy(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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