観葉植物 D2C ザ・シル、デジタル対応で「店舗」収益アップ :「当社にはCovidのプレイブックがある」

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ザ・シル(The Sill)は2012年のキックスターター(Kickstarter)のキャンペーンで誕生した会社で、デジタルネイティブなスタートアップ企業が従来はオフラインであるカテゴリー、この場合には観葉植物のカテゴリーを奪取しようと試みた初期の例のひとつだ。

ザ・シルは2017年に資金を調達するまで自力で立ち上げを行い、主に観葉植物のサブスクリプションサービスで知られていた。このサービスの価格は現在、毎月50ドル(約6100円)から60ドル(約7320円)だ。しかしそれ以後に同社は実店舗でのプレゼンスを拡大し、現在はさらに大規模な展開を計画している。

同社はニューヨーク市を拠点とし、2012年にオンラインで操業を開始してから全国に配達範囲を拡大して、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ボストンなどいくつかの主要都市に植物ショップを開設した。同社は現在9つの店舗を運営しており、そのうち4つは2021年6月から2022年2月のあいだに開設されたものだ。収益の大部分は依然として同社のウェブサイトから得られるものの、同社は現在、顧客が地元の店舗で新商品を簡単に見つけて購入できるよう支援するデジタル機能の追加に注力している。

パンデミックによる影響

同社の創設者でCEOを務めるイライザ・ブランク氏は、D2Cの植物ビジネスの拡大は、マットレスやフットウェアなどほかの一般的なD2Cカテゴリーよりも難しいことが明らかになったと述べている。「私は、自社のデジタルプレゼンスを確立するため、最初の5年間について自力での立ち上げを選択した」とブランク氏は述べており、それによって同社の拡大は遅くなった。同社が最初の店舗を開設したのは2014年で、資金調達のシリーズAラウンドは2018年まで行われなかった。それ以来同社は造花、ドライブーケ、ハーブ栽培キットなどの隣接商品の取り扱いもはじめるようになった。

植物に特化したほかのeコマース新興企業、たとえばブルームスケープ(Bloomscape)などと同様に、ザ・シルもパンデミックによって引き起こされた室内装飾ブームから、自室を飾り立てる方法を探していた新しい顧客の獲得に成功したと、ブランク氏は述べている。

同氏は次のように述べている。「当社の店舗が何カ月も閉鎖されることがあったにもかかわらず、オンラインの成長によって2020年の大半を乗り切ることができた。当社は多くの新しい顧客を獲得し、そのかなりの部分は当社が中心としている都市部の住民以外だった」。

ザ・シルのウェブサイトへのトラフィックは、2020年春にパンデミックがはじまったときに2倍以上に増えたと、ブランク氏は語る。この期間における同社の顧客の47%以上は植物を扱うのがはじめてで、ほかの28%はパンデミックの開始時にコレクションを大幅に増やしていたと、同氏は続ける。

しかし一方で、同社はパンデミックのためにいくつかの新店舗の開設を見合わせた。これは、最近になって同社が新店舗を矢継ぎ早に開設している理由でもある。同社は過去1年間に4つの新しい植物ショップを開設した。6月にはシカゴ、10月にはブルックリンのウィリアムズバーグ、11月にはボストン、そしてもっとも新しい店舗はブルックリンのパークスロープ地区に開設された。パークスロープの店舗はブランクストリートコーヒー(Blank Street Coffee)とのコラボレーションによる店舗とカフェのハイブリッドで、同社にとって新しいコンセプトだと、ブランク氏は語る。「当社は主にオンラインで成長したあとで、実店舗に回帰することを望んでいた」と同氏は述べている。

局所への特化

ザ・シルの売上のほとんどは依然としてオンラインで得られているが、同社の実店舗はビジネスの「特に、顧客への個別化されたサービスと長期的な顧客の維持について」重要な部分になったと、ブランク氏は語る。「店舗のシフトで勤務したことで、私は顧客がどの植物を求めているのかをあらためて学んだ」と同氏は述べ、「重要なのはコンバージョンのためにデジタルマーケティングに頼るより、顧客が望む商品を取り扱うことだ」と言及している。

D2C主導のブランドとして、ザ・シルは店舗をデジタル対応にするよう試みてきたと、ブランク氏は述べている。たとえば、ザ・シルのメインのウェブサイトには、各店舗に独自のランディングページがあり、顧客はウェブサイトから注文できない各店舗の独占商品や、特選品を調べることができる。

「当社には、各店舗に専用のインスタグラムのアカウントもあるため、顧客は各店舗の最新の特選商品を把握できる」とブランク氏は述べている。地元のフォロワーは、インスタグラムのDMや電話で、特定の商品の注文や、新しい商品ドロップの予約を行うこともできる。また、その店舗における今後のワークショップやイベントに目を光らせておくことも可能だ。

このような局所化された戦略は、現在も続くサプライチェーンの混乱のなかで特に役立っていると、ブランク氏は述べている。

「当社が2020年に注文した品物が、今になってようやく到着している状況なので、場合によっては私自身がDMで顧客にそのことを伝えなければならなかった」とブランク氏は述べている。さらに、過去2年間にわたり、同社の顧客サービスにおける問題点の大部分は在庫切れに関するものだったと、同氏は語る。また、顧客サービスチームはCovid-19の感染拡大により影響を受け続けてきた。「植物を熟知した臨時社員を雇用することは困難なため、問い合わせへの対応が遅れた期間もあった」と同氏は述べている。

一方で、店舗は顧客と対話するための新たな接触ポイントとなった。これにより、顧客が自宅の植物のコレクションを増やせるよう支援することで、注文量が増加しただけでなく、顧客サービスも提供できるようになったと、ブランク氏は語る。たとえば、店舗のスタッフは顧客に対して、ザ・シルのウェブサイトで植物の世話に関する教育的なコンテンツや顧客サービスを参照するよう、多くの場合に勧めている。

同社は今年、10番目の店舗の開設を計画しており、ニューヨークなどの市場でさらに取扱量を増やしていく。「今の当社にはCovidのプレイブックがあり、現在の小売業界の状況をどのように乗り切るかも理解している」とブランク氏は述べている。

植物ビジネスを拡大するための課題

アルバレズ・アンド・マーシャル・コンシューマー・リテールグループ(Alvarez & Marsal Consumer Retail Group)のマネージングディレクターを務めるアブヒナブ・チャンドラー氏は、生きている植物をオンラインで販売するにはいくつかの固有の課題があると語っている。たとえば、配達コストや、商品が安全かつ迅速に顧客に届けられるようにすることだ。

「ウェブサイトの写真と、実際に顧客の自宅に届けられるものとは大きく異なる場合があり、高い返品率や顧客の不満を招く可能性がある」とチャンドラー氏は述べる。しかし同氏は、オンプレミス型の写真とルームビューツールを使用すれば、オンライン植物のカテゴリーが成長するにつれ、このような問題は解決できる可能性があると注釈している。

実際のところ、ポップアップや実店舗は新しい顧客が植物の栽培をはじめる障壁を緩和してくれる可能性があると、コンサルティング企業のピュブリシス・サピエント(Publicis Sapient)のシニアマネージングディレクターを務めるサブリナ・マクファーソン氏は語る。同氏の推定では、植物のようなニッチなカテゴリーにおいて最大の課題は、人々が自社商品を繰り返し購入するよう呼びかけることだ。

マクファーソン氏は、2010年代初期に設立された多くのD2Cブランドにとって、卸売および何らかの物理的なプレゼンスが成長の鍵となってきたと付け加えている。同氏は次のように述べている。「現在では、ひとつのチャネルだけで効果的に販売を行うことはできない。会社が単一のカテゴリーの商品しか販売していない場合は特にそうだ。しかし私は、ブランドの店舗が収益を増やす最大の要因だとは考えていない」。

ブランク氏は、ザ・シルの拡大ロードマップには、いずれ各種のコラボレーションと配送チャネルが含まれるだろうと語っている。同社は卸売りのパートナーシップを実験してきた。同社は最初に独占プランターとして2014年にメイドウェル(Madewell)と提携し、それ以後にメイドウェルのオンライン顧客向けに商品をドロップシッピングしてきた。2016年にはウエストエルム(West Elm)とも提携し、同社の現地販売業者プログラムの一部として、ウエストエルムのニューヨーク店舗で小さな多肉植物を販売した。これらの提携により同ブランドの知名度が向上し、過去数年間にわたって売上を押し上げてきたと、ブランク氏は述べている。「しかし、当社は一気に無理な拡大を実現しようとは考えていない」。

「どのような無理をしても大きな成長を成し遂げるべきだという圧力もあるが、当社はサステイナブルな方法で成長を行うためのバランスを見いだそうとしている」とブランク氏は締めくくった。

[原文:How The Sill is using digital features to drive store sales]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Image via The Sill

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