ビールブランド、モーテルで 体験型マーケティング に注力:「我々のブランドが『場所』だったら、と想像してみた」

DIGIDAY

8月初めから、ミシガン州トラバースシティにあるグランド・トラバース・モーテルで特別に装飾された部屋が、パブストブルーリボン(Pabst Blue Ribbon、以下PBR)の熱烈なファンたちの宿泊予約を受け付けている。アーケード、場末のバー、レクリエーションルームをそれぞれテーマにした3室は、同社による体験型マーケティングの取り組みの一環だ。

「パブストが場所だったら、と想像してみると、そこは誰をも暖かく迎え入れてくれて、懐かしく、落ち着ける、時を超えた場所になるだろう」とPBRのマーケティング担当バイスプレジデントのニック・リーリー氏は話す。

「現実世界で同じような感情を呼び起こす場所といえば、モーテルだ。誰をも受け入れ、どのような階層の人なのかは問われない。宿泊する人は裕福でも、予算が限られていても関係ない。モーテルは凍結保存されたアメリカンカルチャーを切り取った一片だ」。

「強力な支持、ファンダム、忠誠心」の促進

この体験型マーケティングの取り組みは、PBRの全体的なマーケティング戦略を新たに担当するエージェンシーであるDNAが主導し、PBRから連想される「クラシック、トラディショナル、アメリカーナ」のイメージ活用を狙ったものだとリーリー氏は説明する。PBRが出てくる仕掛けのジュークボックスなど、特製アイテムの数々で装飾された部屋は、レイバー・デー(労働者の日、9月の第1月曜日)まで予約でき、キャンペーン期間中の総宿泊客数は約70人になると見込まれている。

ファンとの「1対1でハイタッチな」体験に集中的に取り組むことによって「強力な支持、ファンダム、忠誠心」の促進を図ることができると、この取り組みの親密さについて問われたリーリー氏は話す。その一方で、モーテル宿泊体験についてソーシャルチャネルでの共有を有償で依頼することによって、体験型キャンペーンの効果増幅も狙う。リーリー氏によると、依頼先にはPBRとの提携実績があるコメディアンやプロスケーター、プロレスラーのマット・カルドナ氏と妻のチェルシー・グリーン氏などがすでに選ばれているそうで、フォロワー数に基づいてソーシャルインフルエンサーの起用はしていないという。

PBRがこの体験型キャンペーンにいくら投じているのかは明らかではない。リーリー氏は、キャンペーン予算は明かさなかったが、それがPBRの2022年のメディア予算の約6分の1に相当することは教えてくれた。2021年に比べて若干増えているPBRの2022年のメディア予算は、このキャンペーン以外ではビルボード、オーディオ、ストリーミング動画、ソーシャルメディアなどのチャネルに割り振られている。

カンター(Kantar)によると、PBRの2021年のメディア支出は、2020年の43万1555ドル(約5611万円)より少し多い50万6668ドル(約6587万円)で、その大半がデジタル広告やOOH広告に向けられていた。2022年第1四半期のメディア支出は2万5310ドル(約329万円)。ただし、カンターのデータにはソーシャルメディア広告は含まれていない。

ストーリードゥーイングへのシフト

ブランドコンサルティング会社プロフェット(Prophet)のパートナーでエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるグレッグ・アーデリー氏は、いまのタイミングで体験型マーケティングに注力するのは理にかなっていると語る。「人の外出が増えている。旅行に出かけ、航空路線に人が押し寄せている。ブランドも、同じように実体験に戻ることに大喜びしている」。

キャンペーンを実際に利用した人による増幅効果への期待は、ブランド間でますます一般化しつつあるユーザー生成コンテンツ(UGC)への動きに合ったものだ。

ランドー&フィッチ(Landor and Fitch)の米州エクスペリエンス担当グループエグゼクティブクリエイティブディレクターであるアラスデア・レノックス氏は「ストーリーテリング(語る)からストーリードゥーイング(行動する)へのシフトが見られている」と説明し、このようなアプローチではブランドから参加者に力が託される、と付け加えた。

「部屋を予約した人たちはもはや単なるゲストではなく、インフルエンサーだ。その体験を自分のすべてのチャネルに載せ、世界に発信するのだ。PBRは一歩下がって、PBRビールのファンたちにブランドの語り手となってもらっている」。

「低価格を全面に出すつもりはない」

リーリー氏によると、PBRは今後、同ブランドのイメージを実際に感じてもらう体験型マーケティングを増やしていきたいと考えているそうだ。

逆に、景気後退がささやかれるなかにおいてもまったく予定されていないのが、価格の低さを前面に出した宣伝だという。

「景気後退の話にはあまり注意を払っていない」とリーリー氏は話す。「確かにPBRにはお手頃感があるが、PBRが買われる主な理由が価格にあるとは思っていない。安価だという点を中心にしたメッセージ発信は考えていないし、やろうとも思わない。価格にお手頃感を感じてもらえるのはとても嬉しいが、当社製品を飲んだり気に入ってくれたりしている理由が価格面における妥協であるのは嬉しくない」。

[原文:‘Frozen slices of Americana’: Pabst Blue Ribbon goes experiential with branded motel rooms

Kristina Monllos(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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