NFTのローンチ、メタバース内での地位確立のための取り組みと、さまざまな形でブロックチェーンに群がっているブランドもある一方で、ブロックチェーンの扱いにためらっている企業も多い。顧客が新しいバーチャルショッピングを受け入れる準備ができているのか、クリプト技術に慣れ親しんだ「クリプトネイティブ」たちが、ブランドのWeb 3でのデビューを受け入れてくれるのか熟考しつつも、すべての企業がブロックチェーンを受け入れる準備ができているわけではない。
しかし、ブロックチェーン普及の初期段階にあたる現在、多くのブランドが気づいていないのは、Web 3への移行は、本格的な導入かゼロか、の二択である必要はなく、段階的かつ注意深く行うことができるということだ。米DIGIDAYのポッドキャスト最新エピソードに出演したアマンダ・カサット氏はそう見ている。
カサット氏はWeb 3分野のパイオニアで、イーサリアム(Ethereum)のブロックチェーンの立ち上げを支援したほか、セロトニン(Serotonin) とその子会社であるモヒート(Mojito)の2社を共同設立した人物だ。この2社はどちらも、企業がWeb 3に参入する支援をしている。マーケティングエージェンシーのセロトニンのCEOとして、彼女のチームは、クリプトネイティブなオーディエンスに向けた顧客獲得戦略に取り組んでいる。また、NFTスタジオであり、テクノロジープラットフォーム企業であるモヒートのプレジデントとして、サザビーズ(Sotheby’s) のようなクライアントのためにNFTの限定リリースの実行、場合によっては企業にとって初めてのメタバース参入などを手伝っている。
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ブロックチェーン参入において理解しなければいけない点は多いが、カサット氏によると、この分野に参入するためにブランドが取り得るもっとも強力なアプローチは、企業のユニークな価値提案に集中し続けることだという。
以下は、わかりやすくするために軽く編集して要約した会話のハイライトである。
より分かりやすいWeb 2.5のアプローチをとる
「モヒートとセロトニンの顧客の大部分は、『我々のビジネス全体をWeb 3で再現し、Web 2をなくしたい』と言ってはいない。(3と2の)中間領域を示すものとして我々はWeb 2.5という言葉を作った。この領域に参加する企業はますます増え、高密度になっており、ここに企業が参加することは理にかなっている」。
「クリプト分野やWeb 3の分野に取り組んでいることで知られる有名なビジネスの多くは、実際にはそれ自体がWeb 3のビジネスモデルではない。たとえば、コインベース(Coinbase) はWeb 3企業として非常によく知られているが、彼らの主なビジネスモデルは、分散型ではない中央集権型の取引だ。この種のビジネスは、金融市場の黎明期から存在しており、ユーザーから仮想通貨の本質を取り上げている(このことはWeb 3が持つ分散型インターネットの理想形と相反するが、Web 3の開発・普及の現段階においては必要不可欠となっている)」。
何世紀も前から続く老舗企業がWeb 3へと進化している
「サザビーズは1744年に設立された老舗の企業だが、NFT分野に関して初期の頃からビジネスチャンスと捉えていた。今彼らは、我々と提携しており、サザビーズにサザビーズらしい価値をもたらしている同社の本質を、Web 3の世界に移行させている」。
「では、サザビーズの価値は何にあるのだろうか。彼らは、世界で最高品質の商品の素晴らしいキュレーターだ。同社の承認の印をつけることによって、商品がある種の特別なストーリーと特別な価値を持っており、特別な文脈で販売する価値がある、と示してくれる。これによって市場に大きな価値を付加している。そして彼らはその真正性とメリットを検証する。彼らは2021年4月に最初のNFT販売をデジタルアーティストのパックとして1680万ドル(約19億円)で販売した。これはほんの始まりにすぎず、昨年はNFTの売上が1億ドル(約110億円)を超えた」。
「(サザビーズ)は、彼らが持つ特別さや価値を、彼らが長年存在してきた文脈からWeb 3の文脈に翻訳することによって、移行をすることができた。これが(Web 3への移行の)成功の秘訣だ。私がブランドに勧めたいのは、顧客に愛され、顧客から価値を認めてもらうためのブランドのDNAや提供するものが何なのかを内省して考えることだ。そして、それをWeb 3に変換し、同じ長所をWeb 3にもたらす方法を考えることだ」。
新旧の顧客どちらも、Web 3からメリットを得る
「Web 2.5に参加している、またはアプローチしているほとんどのブランドはエンゲージメントの高い既存の顧客ベースを持っている。また、Web 3に参加することで、Web 3ネイティブのユーザーを引き込む機会も得られる。そこでの問題は、これは同時にチャンスでもあるが、この2つのオーディエンスタイプは異なる体験を期待しているということだ。つまり、従来のブランドやWeb 2ブランドの既存のファンは、Web 3のための予算を持っていないかもしれない」。
「ではチャンスは何かというと、Web 3ネイティブのユーザーでもそうでなくても、(ブランドは)本当に強力な、新しい方法で顧客とインセンティブを調整することができるという点だ。伝統的に、ブランドと顧客は互いに距離を置いた関係にある。そして、投資家や株主とも距離を置いた関係にある。しかしWeb 3は強力な調整を仕掛けるエンジンであり、ユーザーやバイヤー、企業やチーム、投資家のカテゴリーを1つのグループにまとめて、特定の成果物や特定の体験に関心を持つコミュニティの一部にすることができる。そして、これらのグループがすべて一緒に参加する。Web 3プロジェクトの価値の一部は、この蓄積できるコミュニティからもたらされている」。
[原文:Why Serotonin’s CEO believes brands should be taking a ‘Web2.5 approach’]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)