リトアニアめぐる中国の規範無視 – WEDGE Infinity

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1月29日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)説が、中国による対リトアニア貿易措置について欧州連合(EU)は世界貿易機関(WTO)に提訴した、EUはリトアニアを守っていくべきだと述べている。

Mohamed Rasik / Nuthawut Somsuk / iStock / Getty Images Plus

1月27日、EUは、中国がリトアニアに差別的貿易措置を取っているとして、中国をWTOに提訴した。当然の事であり、良いことだ。その後、豪州、台湾、米国、日本、カナダが、夫々「相当の貿易利害を持つ」として協議への参加要請を行った。英国も2月7日に参加要請をする旨明らかにしている。

日本が協議参加要請をしたことも良いことだ。利害を持つのであれば当然であり、またEUとリトアニアを支援することにもなる。これで主要7カ国(G7)関係国は全てリトアニア・EU支援を明確にしたことになる。なおリトアニアはEU加盟国であり、その対外貿易関係の権能は個々の国ではなく、EUの排他的権能とされている。それ故、EUがWTO提訴の当事者になる。

今後、問題解決のため中国との間で協議が行われる。しかし、60日の間に解決されない場合、EUはパネル設置を要請できる。パネルの報告は、全ての加盟国の間に否決のコンセンサスがない限り、採択される。きちっと、粛々と手続きを進めていくべきだ。リトアニアを支援していくべきだろう。

WSJの社説は、WTO紛争処理提訴を余り信じていないようだ。中国による貿易措置に効果があるのは、同様に経済対価を伴う貿易措置で対抗することだと述べる。更に未批准のままになっているEU・中国投資協定を棚上げにすることだという。

投資協定の棚上げは社説が言う通り良い考えだと思う。しかし、WTOの紛争処理を軽視するのは間違っている。目下、WTO上級委員会は従来の米国の反対のため委員がおらず、上訴を処理することが出来ない状況にはあるが、パネルなどの手続きは司法判断を出すものであり、司法判断を敗訴側が実施しない場合は、加盟国はWTOの承認を得て報復措置をとることが出来る。

更にWTOの紛争処理は、国際約束により設けられたもので、二国間で自助により泥仕合をするよりは余程秩序だっている。長い目で見れば一層安定的な問題解決に資する。

加盟国は大いに中国を訴えれば良い。紛争手続きはWTOの時代になって格段に強化され、今日多くの問題が提起されていることは事実だ。そうであれば早くWTO改革をし、関連規定の改正、強化をすべきだ。上級委員会を再稼働すべきだ。

他にもある中国のWTO規範無視

昨年11月28日、リトアニアは台湾の外交事務所の設置を認め、同事務所を「台湾代表処」と呼ぶことを許可した(機関の名称を「台北」のかわりに「台湾」と表記した)。中国はこれに対して「一つの中国」という原則に違反したとして、リトアニアとの外交関係を大使から代理大使級へ格下げし、リトアニアからの商品の税関通過を拒否したり、中国に輸出しようとするEU企業にリトアニア産原材料をサプライチェーンから外すよう圧力をかけたりしているという。

中国は2月9日、リトアニアからの牛肉の輸入申請を受け付けないと発表した。中国の措置は、WTOの最恵国待遇や数量制限撤廃などの規定に違反すると考えられる。政治目的のために貿易を使うのはWTO違反である。

今回中国の措置は、関税貿易一般協定(GATT)に規定のある安保例外とも関係がない。このような中国によるあからさまなWTO規範無視は、大麦とワインに係る対豪州措置にもみられる。豪州もWTOに提訴したことは、当然である(パネル設置が進行中)。なお中国は、台湾との関係強化を示唆するスロベニアにも圧力を掛け始めていると言われる。