戦争のような非常事態に直面した時に「怒り」を感じる人と「恐怖」を感じる人に分かれるのはなぜか?

GIGAZINE
2022年03月01日 23時00分
メモ



2022年2月24日にロシアがウクライナへ侵攻し、アメリカのバイデン大統領がロシアに対して「選択肢は制裁か第三次世界大戦だ」と語るなど、世界中を巻き込む大きな戦争が起こる可能性がかなり高まっており、SNSでは戦争への恐怖や怒りなどといったさまざまな感情が渦巻いています。デンマークにあるアーラス大学政治学部のMichael Bang Petersen教授が、戦争に直面した人の心理状態についてTwitterで解説しています。

The rage & fear you feel after the Russian invasion are ancient parts of your mind preparing – like clockwork – for a world of conflict.

After 10 years of research in the lab & field, it is surreal to feel it unfold in my own mind

A ???? on what happens & with what effects (1/16)

— Michael Bang Petersen (@M_B_Petersen)

Petersen教授は「私は冷戦時代を生きましたが、その脅威を感じたことはありません。多くの欧米人は戦争のようなものを全く経験したことがないのです。しかし、人は経験だけの存在ではありません。人の心は自然淘汰によってデザインされ、受け継がれた遺伝子は『異なる世界』に適応しているのです」と述べています。

「異なる世界」とは人の祖先が生きていたような、暴力的で集団的な対立が当たり前に存在していた世界のこと。Petersen教授は、集団同士での争いは古代からある普遍的なものであり、人の基本的な心理を形成してきたといえるほど重要なものだと主張しています。

That world included violent, group-based conflict. Scholars disagree on the details of the prehistory of war. But group conflict is universal, ancient & significant enough that it may have shaped our basic psychology (https://t.co/kL8tljYBlM) (3/16)

— Michael Bang Petersen (@M_B_Petersen)


マックス・プランク進化人類学研究所のMichael Tomasello氏とAmrisha Vaish氏は、「Origins of Human Cooperation and Morality(人間の協力と道徳の起源)」という論文の中で、「道徳は協力の一形態であり、個人が特定の人に同情的あるいは公平であろうとするもの、あるいは個人が集団全体の社会規範に従い行動する中立的なものがある」と指摘しました。この論に従えば、私たちの祖先は集団的な対立を重ねる一方で、協力し合おうとする姿勢も見せていたことになります。Petersen教授は「私たちは物事がどちらかに傾いた時にそれを察知し、状況に応じて異なる社会的戦略を用いることができるように設計されています」と論じています。

But the world of our ancestors was also a cooperative world (https://t.co/TWDn9tRbCF). We are designed for both, for detecting when things shifted in one or the other direction & for using different social strategies depending on the context. (4/16)

— Michael Bang Petersen (@M_B_Petersen)


協力的に生きる場合の成功は、他の人が抱える問題を解決することで名声を得られます。暴力的に生きる場合の成功は支配、すなわち恐怖や脅迫、攻撃性に依存します。Petersen教授の研究によると、人は紛争状態の中にいると暴力的に生きる世界へすぐに移行することがわかったそうです。

ただし、紛争状態に置かれると必ずしも暴力的に生きるようになるわけではありません。今回のウクライナ侵攻の発端となった2014年のクリミア侵攻の時に行った研究では、ロシアの侵攻に直面して怒りの感情が湧き起こった人は支配的なリーダーへの支持を示す傾向が強まったとのこと。しかし、怒りよりも恐怖の感情が上回った人は、リーダーを支持しなくなる傾向がみられたそうです。

But not everyone feels the same. We studied this when Russia invaded Crimea in 2014. In the face of the invasion, feelings of anger increased support for dominant leaders among those in the affected regions. Feelings of fear decreased support (https://t.co/QmLrBb3Bo5) (7/16) pic.twitter.com/RlGx4oClJO

— Michael Bang Petersen (@M_B_Petersen)


Petersen教授は「感情とは、特定のタスクに向けて認知構造全体を再集中させるように設計された調整システムです」と述べています。感情は何に注目するか、行動に伴うコストとベネフィットをどう評価するか、行動するために体をどう準備するかを変えるためのものだとPetersen教授は主張しました。

怒りは暴力的な世界を「支配」で行動するための感情であり、恐怖は「服従」で行動するための感情だ、とPetersen教授。怒りと恐怖のどちらか一方だけを持つことはほとんどなく、普通は両立します。しかし、怒りと恐怖のどちらが上回るのかは人によって異なり、それを決定する重要な要素として性格がある、とPetersen教授は推測しています。また、自身の研究から、他の集団からの脅威を重視する性格の人は支配を支持する傾向が強いと論じています。

Everyone feels a mix of emotions. But why do some feel more anger than fear and vice versa? Personality is likely a key factor: Those having a personality already oriented to threats from other groups leads to greater support for dominance (https://t.co/QmLrBb3Bo5). (10/16) pic.twitter.com/a1niCEptob

— Michael Bang Petersen (@M_B_Petersen)


Petersen教授は「プーチンの残虐行為に対する怒りは、西側世界の何百万人もの市民を支配の行動に促すものであり、心理的にも政治的にも多くの影響を与えることになるでしょう。その結果、人は攻撃的な姿勢を支援するようになり、支配的な指導者への支持や敵に対する誤った情報の拡散が増えることになります。一方で恐怖の感情が上回る人は攻撃的な姿勢を支持しなくなるため、ここに政治的分裂が生まれることとなります」と述べています。


「今まで覚えたことのない感情を抱え、支持したことのない政策を支持するとしたら、それは本質的に集団間の優劣を競う世界を想定した深層心理の活性化が反映されているのです。しかし、その心理は小集団が侵略するような世界に合わせて設計されたものであり、核兵器があるような世界に合わせて設計されていません。深層心理と世界がマッチしないということは、あなたの直感が常に最適解に導いてくれるとは限らないことを意味します。集団による暴力行為への感情と冷静な理性のバランスをとることが、これからの鍵になります」とPetersen教授は説きました。

BUT: Your psychology was designed for a world of small-group aggression. Not a world of nukes. This mismatch means that your intuitions are not always optimal guides. Balancing emotions for group-aggression with cold reason is key over the next days and, possibly, years. (16/16)

— Michael Bang Petersen (@M_B_Petersen)

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2022年03月01日 23時00分00秒 in メモ, Posted by log1i_yk

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