都合よくSDGs持ち出す欧米に苦言 – WEDGE Infinity

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 昨年11月、英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)。ここで白日の下にさらされたことは、2015年のパリ協定で合意した世界全体目標および具体的な削減に向けた国別貢献目標(NDC)の引き上げを画策する先進国と経済開発を優先したい途上国との間の埋めがたい〝分断〟であった。その象徴が石炭火力の「段階的廃止」へと進む流れに対してインドが終盤で異を唱え、「段階的削減」に押し戻した一幕であった。

気候変動対策を考え直す契機に

 脱炭素に向けて進む世界の潮流に「乗り遅れるな」と煽る言説をよく目にする。他の国々もやっていることだからと思考停止して、乗り遅れまいと目標をただ引き上げた我が国であるが、潮目があっと言う間に変わってしまい、はしごを外されて大損害を被る恐れがある。インドが投じた一石はその予兆かも知れず、改めて先入観を捨てて我が国のあるべき気候変動対策というものを主体的に考え直す契機とすべきである。

 本稿は、①再エネを主力電源に、②持続可能な開発目標(SDGs)達成を目指して気候変動対策を加速すべきだ、③高い二酸化炭素(CO2)削減目標を掲げることで商機をつかんでグリーン成長できる、などといった巷間流布されている言説に対し、反論していく。その上で、近年強烈な逆風にさらされている石炭火力について、世界の潮流だからと無批判に冷遇しようとしているが、石炭火力の脱炭素化こそ、我が国の気候変動対策の目玉に据えるべきと主張する。

(FOTOFORCE/gettyimages)

再エネ主力電源化と安定供給上のリスク

 目下の気候変動対策は再エネ、特に風力と太陽光の導入拡大がメインシナリオである。しかし風力と太陽光の最大の弱点は自然条件の変化で出力が大きく変動する間欠性で、風力は風が止めば、太陽光は曇天・雨天、そして夜間になれば出力が低下するため、何らかの形でその出力減少を埋め合わせる必要がある。

 蓄電池が解決策の一つだが、現段階ではコストがあまりに高く、結局出力が制御できる化石燃料による発電がカバーしている。現在のように化石燃料による安定電源が主力で、風力・太陽光が電源構成のあくまで一部を担っている状況であれば安定的に電力を供給できるが、出力変動の激しい再エネの比率が上がってくるとエネルギー供給量が急減してもカバーする電源が足りず系統全体を不安定化させ、最終的には停電を引き起こす。

 実際、COP26の直前、中国では全省の3分の2の地域に及ぶ深刻な停電に見舞われたが、その一因は風力発電の出力が通常の10分の1にまで急減したことであった。またCOP26開催中の英国を含む欧州でも風力発電の出力が大幅に低下し、化石燃料の発電を大幅に増加させて辛うじて電力需給の逼迫を回避した経緯がある。再エネだけでは電力の安定供給が維持できないことはその発電特性から自明のことで、再エネの主力電源化を進めるというのは電力の安定供給をリスクにさらすことである。

コストの議論で語られない不都合な真実

 そもそも従来より電力会社は、例えばコストが安いからといってある特定の電源に振り切ってしまうようなことはせず、バランスの取れた電源構成(ベストミックス)を維持することに腐心していた。それは電源ごとに発電特性が異なるため、安定供給にはさまざまな電源を組み合わせることが必要だったからに他ならない。今年1月には欧州連合(EU)がドイツなどの国々の反対を押し切って、原子力と天然ガスを「グリーン投資」として「EUタクソノミー」に加える方針を明らかにした。再エネ一本鎗の気候変動対策を推し進めてきたEUも安定供給を考慮し始めたものと見える。世界の潮目の変化はこんなところにも見て取れる。

 確かに近年の風力・太陽光の発電コスト低下は目覚ましい。しかし自然条件が良好な地域では石炭火力よりも安価となったとしばしば言われるが、そうした言説には語られていない不都合な事実が存在する。まず発電コストには停電を回避するために系統安定化に必要なバックアップ電源のコストや小型分散的に立地する再エネ発電所と送電網とを接続する送電コストの上昇は含まれていない。また既存の再エネ発電所は条件の良い立地からこれまで順次導入されてきたため、今後は当然ながら立地条件が悪化していくことでコストが上昇する可能性も高い。再エネがこうした全てのコストを含めて石炭火力よりも安くならなければ、電力価格を上昇させ家計や企業の負担を増加させることとなる。

 COP26が開催された時期は折しも、化石燃料、特にガス価格が高騰した結果、電力価格も大きく上昇、例えば英国の卸売電力価格は前年同期比で4.5倍にまで高騰していた。COP26では、「再エネ転換の遅れによって電力価格高騰の打撃を直接受けることとなっており、一層再エネの導入スピードを加速する必要がある」などとする主張がなされたが、化石燃料高騰の原因は近年の急進的な脱炭素政策によって、化石燃料への投資が大幅に減少し、供給力が抑制されたことが根本的な原因としてある。再エネの導入スピードを加速するどころか、世界経済に甚大な打撃を与える脱炭素の急進化こそ見直すべきである。

SDGs達成を後押しする石炭火力の役割

 気候変動対策の必要性としてSDGsがしばしば引き合いに出される。しかし気候変動対策は17の目標で構成されるSDGsの13番目に掲げられている目標の一つに過ぎない。他には貧困・飢餓撲滅や教育普及、人・国・ジェンダー間の平等、平和と公正など、より緊急で普遍的な目標が挙げられている。そもそもSDGsの最大の目的は途上国の開発、経済発展を成し遂げることである。経済力が低く、気候変動の影響に脆弱な途上国のために気候変動対策は必要であるが、本末転倒してはならない。

気候変動対策はSDGsの17ある目標の13番目に過ぎない(UNIC) 写真を拡大

 途上国の経済発展を後押しするために、SDGsは7番目の目標として、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーへのアクセス確保」が掲げられている。この7番目の目標では再エネ割合を大幅に拡大させることを目指しつつ、高効率かつ環境負荷の低い化石燃料利用技術もクリーンエネルギーとして技術開発と投資が奨励されている。SDGsは決して化石燃料を排斥するスタンスを取ってなどいない。それどころか、途上国の人々にクリーンな化石燃料へのアクセスを支援する国際協力を強化することを求めている。

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