中国が露の軍事衝突歓迎しない訳 – NEXT MEDIA “Japan In-depth”

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国境を越えてポーランドに避難するウクライナ人。スーパーマーケットの駐車場にバスで到着。(2022年2月25日、ポーランド・プシェミシル) 出典:Photo by Omar Marques/Getty Images

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・習近平主席は、今秋の第20回党大会で3期目を目指している。

・ロシアがウクライナ東部2国の“独立”を一方的に認めるのなら、中国が台湾へ侵攻した時、米国も一方的に「台湾独立」を承認できることになる。

・ウクライナは中国の最大の貿易国相手国であり、中国の「一帯一路」が欧州に通じる重要なゲートウェイでもある。

今年(2022年)2月21日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部の「親ロシア派」勢力が掌握する2つの州を独立国として承認した。そして、同24日、ロシア軍は首都キエフをはじめ、ウクライナ各地に攻撃を仕掛けている(おそらく、今の「親欧米政権」転覆が目的ではないか)。

けれども、米軍やNATO軍はウクライナがNATOに未加盟のために動けない。その代わりに、欧米・日本は、ロシアに経済制裁を課す事にしたが、その効果には疑問符が付く。

2014年5月、ロシアと国境を接するウクライナのドネツク州とルガンスク州では、ロシアへの編入を求める「分離・独立派」が“独立”を宣言した。翌2015年2月、ドイツ、フランス、ウクライナ、ロシアは、ウクライナ東部地域における戦闘の停止について、ミンスクで合意している。その後、「ノルマンディー・フォーマット」(同4ヶ国による協議枠組み)が機能しなかった。

ロシアにとって、ウクライナはベラルーシ同様、地政学的に死活的な“バッファーゾーン”(緩衝国)である。ウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアは喉元にナイフを突き付けられた状態になるだろう(1962年に起きた「キューバ危機」の“逆バージョン”)。プーチン大統領は、それを嫌って、戦争を仕掛けた公算が大きい。

さて、中国共産党は、今般の「ウクライナ危機」をどのように捉えているのか。2月4日から始まった北京冬季オリンピックは、同20日に閉幕した。しかし、3月4日から同13日まで、今度は北京でパラリンピックが開催される。したがって、この時期、習近平政権としては、ロシアとウクライナ間の軍事衝突を歓迎できないだろう。

一方、習近平主席は、今秋の第20回党大会で、3期目を目指す。この人事を巡り、目下「習派」と「反習派」の間で、熾烈な党内闘争が行われている。習主席は党大会終了まで、国際的大事件に、直接、巻き込まれたくないに違いない(ましてや、台湾への侵攻を真剣に考える余裕はないだろう)。

中ロは対米戦略の一環として、ある種の「準(軍事)同盟」関係を築いている(a)。だが、中国は、ロシアのウクライナに対する全面的な軍事行動を望んでいないだけでなく、ロシアに軍事援助を提供することもない(b)のではないか。

中国にとって、NATOの東方拡大に反対するロシアを支持する事と、ロシアのウクライナ侵攻を支持する事は必ずしも同じではない(c)。前者の場合、中国は経済的対価を支払う必要はないが、後者の場合、欧米から経済制裁を受けるだろう。

現在、一部のEU諸国が「対中包囲網」を敷いている。ウクライナの事態が深刻化すれば、ただでさえ緊張していた中欧関係が更に悪化するだろう。

他方、中国はロシアのウクライナ介入を支持できない理由がある。もし、ロシアがウクライナ東部2国の“独立”を一方的に認めるのなら、将来、中国が台湾へ侵攻しようとした際、米国も一方的に「台湾独立」を承認できる(d)だろう。

ところで、中国とウクライナは経済的関係が深い(c)。

第1に、中国にとってウクライナは「一帯一路」構想に最も早く応じた国の一つである。また、同国は中国の「一帯一路」が欧州に通じる重要なゲートウェイでもある。

第2に、2020年、ウクライナにとって中国は最大の貿易相手国である。中国企業がウクライナに数十億ドルを投資しており、中国もウクライナから食用油・機械などを大量に輸入している。

第3に、ウクライナ産トウモロコシの30%が中国へ輸出されている。中国は世界最大のトウモロコシ輸入国である。

結局、中国は「欧州の穀倉地帯」ウクライナとの経済貿易関係を更に発展させるつもりではないか。

北京としては、米国、豪州などへの食糧・エネルギーの依存から脱却したいだろう。そこで、今年2月4日、習近平・プーチン会談で、中国は(ウクライナ以外)ロシアからも食糧・エネルギーの輸入を増大させるという取り決めを行っている。

(注)

(a)『聯合早報』(中国語の新聞としてシンガポールで最大の発行部数を誇る)「午後の調査:中国はウクライナ危機の中で歩みが困難か?」(2022年2月21日付)

(b)『ドイツの声(DW)』(ドイツ国営の国際放送事業体)「なぜ北京はロシアのウクライナ侵攻を支持しないのか?」(2022年2月21日付)

(c)『ラジオ・フランス・アンテルナショナル(rfi)』(仏政府によりラジオ・フランスの一部として設立された国際放送)「プーチン大統領はウクライナ東部の両小国の独立を認める 中国が気まずいのではないかと専門家は話す?」(2022年2月22日付)

(d)『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。民間の非営利法人が運営)「プーチンがウクライナ東部2州の独立を承認 中国の態度が揺らぐ」(2022年2月22日付)

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