カスタムアパレル D2C 、成功を促進する要素と阻害する要素:「選択肢が多すぎると使いにくくなる」

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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ファッション業界は、世界的な廃棄物問題を悪化させているとして非難されることが多い。世界経済フォーラム(World Economic Forum)は、カリフォルニア公益調査グループ(California Public Interest Research Group)によると、ファッション業界が総炭素排出量の10%を生み出し、製造業者自身が1300万トンの布地を直接廃棄していると語る。しかし、一部のD2Cアパレルブランドはオンラインで注文できるカスタムメイドのアパレルを提供することで、この問題の打開策を模索している。

各ブランドは、3Dスキャンや、測定に基づいたカスタマイズなどにより、顧客が快適な自宅の環境で採寸を行い、オーダーメイドの商品を販売できるようにするため、さまざまな独自の方式を作り上げようとしている。

アンスパン(Unspun)、ロウズオブモーション(Laws of Motion)、レッドスレッド(RedThread)、メジャーアンドメイド(Measure & Made)などの小売業者は、最新テクノロジーを使って個別の顧客をバーチャルで採寸し、完璧にフィットする衣服を作り上げようとしている。イーシャクティ(eShakti)やアザジー(Azazie)などの企業は、顧客の入力した測定結果に基づいて服を作成する。

これらの企業の使命は賞賛すべきものかもしれないが、このような企業が規模を拡大するためには、企業と買い物客の両方に多くの学習が必要となる。ファッション業界で、過去にカスタムファッションをマスの顧客に提供しようとして失敗したブランドの例は枚挙にいとまがない。ゲットウェア(Getwear)は、自社のカスタムジーンズ会社を2015年に解散した。オーストラリアのカスタム靴ブランドのシューズオブプレイ(Shoes of Prey)は2019年に閉業した。そして、イギリスのサイクリング用品ブランドのラファ(Rapha)はカスタム部門を2021年に終了した。

米モダンリテールは、カスタムD2Cブランドの成功を促進する要因と、これらのブランドが直面する阻害要因を分析した。

促進:在庫がないことで不必要な廃棄を抑制

eコマースの利便性から、衣服を試すときの新たな習慣が誕生した。顧客は試着したいアイテムについて、異なるサイズや色を複数注文して試着し、最適なものを選んで残りは返却できる。しかし、このような注文は返却率が高くなり、小売業者の在庫の問題を引き起こすだけでなく、不必要な廃棄を招く可能性がある

カスタムデニムの企業であるアンスパンの共同創業者であるベス・エスポネッテ氏は、ファッション業界で働いていた時に見た廃棄物に失望していた。昔、親や隣人が新しい衣服を仕立てていた時代と比べると、「あまりにも多くの衣服」が製造され、その多くは顧客の衣類ダンスに入ることさえなかったと、同氏は語る。

エスポネッテ氏とケビン・マーティン氏は2019年に共同でアンスパンを設立した。

「我々は、『どうしたらオンデマンドで対応できるのだろうか? テクノロジーをどのように活用すれば、過去のやり方に戻れるだろうか?』と問いかけはじめた」とエスポネッテ氏は述べている。

同ブランドはサンフランシスコと香港に実店舗を構え、そこでは顧客がボディースキャナーを使用してカスタマイズされた身体測定を受け、高品質のカスタムジーンズを受け取ることができた。しかし、パンデミックにより展開計画は中断され、アンスパンはiPhoneアプリをベースにする測定ツールを作成して、eコマースに転向した。

アンスパンのマーティン氏は、同社が2022年に2年連続で前年比売上2倍を達成しようとしていると語る。同氏は、カスタム製造業の成長に可能性を感じていると語る。製造業を少なくすることは、サステナビリティを高めるだけでなく、在庫の運搬や収容の経費がないことからコストが低下するためだ。

「ブランドがさらにカスタム生産に移行していくことを予見している。これは、ユニット経済とその製造側とがより明確に連携しているためだ」と同氏は語る。

女性向けカスタムアパレルブランドのロウズオブモーションの創設者であるカーリー・ビギ氏は、測定結果に合わせて製造されたアパレルを、ファッション業界が在庫を削減し、廃棄物を減らすための方法と考えている。商品は注文に応じて製造され、10日間以内に配達される。

「オンデマンドのサプライチェーンは、測定可能であり、大きな影響を地球に及ぼす直接的なソリューションだ」と同氏は述べている。

阻害:価格がすべての買い物客に高価すぎる可能性がある

アンスパンのカスタムデニムの価格は200ドル(約2万9000円)を超えている。しかしマーティン氏は、自社ブランドを意図的にほかの高級デニムブランドと同じ価格帯に位置づけたかったと語った。リサーチアンドマーケッツ(Research and Markets)のアナリストによると、この分野は2021年の時点で85億ドル(約1兆2300億円)規模の業界だという。

「価格はほかのブランドとほぼ同じだが、当社は既製サイズではなく、完全に注文製造のカスタム商品だ」と同氏は述べる。

また、同ブランドは従業員に生活賃金を支払うことを約束するメーカーとも提携していると、マーティン氏は語る。

ガリナ・ソボレフ氏は、各ブランドが、さまざまなサイズ、身長、肌の色のモデルが着用した衣服や宝石類を顧客に見せることを可能にしているソフトウェア企業、スタイルスキャン(StyleScan)で最高マーケティング責任者を務めている。顧客には、ロンドンを拠点とするデザイナーのナターシャ・ジンコ(Natasha Zinko)、アパレルブランドのロイヤルリバイバル(Royal Revival)、宝石類ブランドのミリアナ(Millianna)などがいる。カスタムオーダーメイドの衣服は、特に男性用服地で長い歴史があるが、誰でも買えるような価格ではないと、同氏は述べている。

スタイルスキャンのような視覚的ツールで衣服をマーケティングできるブランドは、カスタムサイズの運用にならずに、より正確なフィットを実現し、返品率を下げることができると、同氏は語る。ソフトウェアの価格は月額66ドル(約9580円)からだという。

「理想的には、誰もがロンドンのサビルロウ(Savile Row)の仕立て屋にカスタムのスーツやドレスを仕立ててもらいたいだろう。しかし一般消費者にはそのようなことは不可能だ」と同氏は述べている。

促進:顧客向けのサイズの包含性と正確性

ロウズオブモーションは人工知能ベースのフィットシステムを使用している。このシステムは1200種類以上のサイズ設定オプションをスキャンし、フィットクイズと写真分析に基づいて顧客に合うサイズを選択する。従来のサイズ決定と比べて、この方法ではダブル0から40まで対応可能だとビギ氏は語る。商品がフィットしない場合、顧客は100%の返金を受けられる。

「これは大規模なパーソナライゼーションだ」と同氏は述べている。

設立5年を迎えた同ブランドは、今年行われた9カ月のパイロットテストを経て、このテクノロジーをほかのアパレル企業にライセンス供与することをめざしている。

また、ブランド側は買い物客に合うサイズを示すサイズガイドを用意するのが一般的だが、その顧客に適したサイズが存在しないならば、そのような戦術は無意味だと、ビギ氏は語る。

「このようなサイズをオンデマンドで製造できれば、在庫のリスクが消滅し、不良在庫のリスクが軽減し、顧客が注文したものだけを製造できるようになる」と同氏は述べている。

アンスパンの主な目標は、顧客に対してもっとも正確にフィットする商品を提供することだと、マーティン氏は述べている。

アンスパンの返品率は標準のサイズ処理を行うデニム企業の5分の1から6分の1で、これは商品が顧客向けに製造されるためだと、マーティン氏は語る。返品がある場合、多くはサイズのフィットよりもスタイルや色の問題だ。

また、顧客は自分に固有の体形にフィットするジーンズを入手できる。これは従来のサイズ設定では実現できないこともあると、同氏は述べている。

「ウエストが30インチ(約76.2cm)だとしても、さまざまな体形があり、体形によってフィットする衣服はまったく異なる」とマーティン氏は述べている。

阻害:ショッピングの行動に関する新しい学習曲線

カスタムファッションのもっともハードルのひとつは、顧客の行動を変えさせることだ。

アンスパンでは、そのプロセスを確実に理解してもらうための顧客教育に焦点を置いているとのマーティン氏は語る。

「我々が行っているのは新しいことだ。店に行って商品を手に取るだけとは違う。この方法がどのように機能するかを説明し、それがどのようなものか、そしてどのようなものではないのかを明確にする必要がある」と同氏は述べている。

エスポネッテ氏は、「これは乗り越えるべき障壁だ」としながらも、同社は新しい買い物客がこのテクノロジーを理解できるよう、顧客サービスチームを雇用したと付け加えた。しかし、口コミはそれと同等、またはさらに有益だと、同氏は語っている。

「一度体験した人が友人たちに話せば、その友人を通じて話を聞くことができるので、問題がない」と同氏は述べている。「そして、我々はこの部分で大きな成功を収めた。しかし、まったく知らない新規顧客は、理解するのに少し時間がかかるだろう」。

同社は、顧客のプロセスも改良してきた。たとえば、アンスパンのテクノロジーの初期バージョンでは、顧客がジーンズについて、使用する糸の色など特定のデザイン要素を選択する必要があった。しかし、そうした細かいデザインは、一部の顧客にとって負担になっていたことがわかった。現在では、商品の色と、ブーツカットやスキニーなどのスタイルを選択するだけでよい。さらにカスタマイズも行えるが、ライズ、糸の色、ヘムの長さなどを自動的に選択するオプションもある。

ほかの顧客向けブランドもまた、あまりに多くの選択肢を与えると使いにくくなることを学んだ。シューズオブプレイは、顧客が自分専用の靴をデザインできるようにすることを目標としていた。しかし、マスマーケットの消費者に目を向けはじめたため、10年間ビジネスを続けた後、2019年に閉鎖した。

「当社は多くの損失とともに、マスマーケットの顧客は自分で靴を作り出すことを望んでおらず、何を履くべきかを教えてもらい、見せてもらいたいのだと学んだ。顧客は最新のトレンドや、セレブリティやインスタグラムのインフルエンサーが履いているものを見て、まさにそのスタイルとブランドと同じものを履きたいのだ」と、共同創設者のマイケル・フォックス氏はミディアム(Medium)への投稿に記した

アンスパンのエスポネッテ氏も、業界には境界線が存在するかもしれないという認識を持っている。しかしデニムの場合、多くの顧客は自分の身体にぴったりフィットする既製品を探すために苦労しているため、顧客が自分に対して肯定的な感情を持てる、より良い商品を製造するのに、この方法は役立つ可能性があると、同氏は述べている。

同氏は次のように述べている。「カスタムでない既製の商品は常に存在すると思う。それはそれで良いと思う。しかし特定の商品の場合、カスタムの商品は本当に理にかなっている」。

[原文:The case for and against custom apparel]

MELISSA DANIELS(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Unspun

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