昨年末に福井県の南越前町にある今庄(いまじょう)というところに行ってきた。その帰り際、滋賀県北端の「近江塩津(おうみしおつ)駅」において乗り換えの待ち時間が発生した。
やることがなく手持無沙汰な時間……と思いきや、駅構内の地下通路に這わされたパイプが素晴らしい味わいを醸しており、それらを眺めているだけであっという間に乗り換え時間が来たのであった。
北陸道の宿場町「今庄宿」を見にいった
今回の発端は、今庄宿の町並みを見にいったことによる。江戸時代初頭に整備された北陸道の宿場町であり、今もなお昔ながらの町家が密度高く残されていることから、昨年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
今庄へのアクセスは、名古屋を拠点にしてJRの在来線が乗り放題になる青春18きっぷを使い、東海道線と北陸線を乗り継いでいった。 米原駅、近江塩津駅、敦賀駅の3駅で乗り換えて、ようやくたどり着いた次第である。
古い町場の宿命として今庄宿では江戸時代に度々の火災が起こっており、特に文政元年(1818年)の大火では大半の家屋を焼失するほどの甚大な被害があった。故に、現在にまで残る町家は江戸時代後期から昭和30年代にかけて築かれたものである。
――という感じで、今庄の歴史的な町並みを思う存分堪能することができた。旧宿場町の隅から隅まで一通りの散策を終えたところで良い時間になったので、名古屋へと戻ることにした。
近江塩津駅の地下通路で見た光景
敦賀駅を経て近江塩津駅まで戻ってくると、ここで乗り換えの待ち時間が発生した。
滋賀県の北端に位置する近江塩津駅は、琵琶湖の東岸を走る北陸線と西岸を走る湖西線が接続する結節点だ。在来線は上りも下りもこの駅で終点となり、乗り換えが必要となる。
時刻表アプリを確認すると、次の米原方面への電車が発車するまで30分ほどの時間があった。
駅やその周囲に何があるというわけでもないので、少し長めの待ち時間があっても手持無沙汰になりがちである。せいぜいスマホをいじるか、本を読むくらいなものだろう。
ホームに降り立った私は少々途方に暮れたものの、とりあえず乗り換えの電車が入ってくるホームに移動しようと思った。
冬の近江塩津駅は寒風が吹きつけるので、壁に囲まれたこの廊下のベンチが重宝されるらしい。乗り換えに慣れてると思わしき人たちは、皆このベンチに座って待っていた。
不慣れな私はベンチをスルーして地下通路への階段を下りていったのだが、そこで見た光景に私は思わず息を飲んだ。
ほぉ、これはこれは、なんともおもしろい光景ではないか。階段の天井付近から直線的なパイプが複数段にわたって通されているが、かといって壁一面をパイプが覆っているわけでもなく、余白もあってちょうど良い上品なバランスである。
全身が機械に置き換えられたロボではなく、まだ生身の部分が多いサイボーグというか、なんというか。
このトンネルのたたずまいも素晴らしい。パイプがなければ水の跡が黒い筋を描く少々不気味なトンネルといった感じであるが、そこにメタリックな輝きを放つパイプが通されていることで、そこはかとなくサイバーな空間を作り出している。
生々しい有機的な成分と、メカメカしい無機的な成分がほど良く調和しており、なかなかに芸術点が高い地下通路である。
駅舎と構内のギャップもおもしろい
思ってもみなかった近江塩津駅の地下通路が醸す重厚な雰囲気に当てられ、良い意味でかなり面食らってしまった。
息抜きがてら駅の外に出てみると(青春18きっぷは途中下車もし放題だ)、構内の無骨な雰囲気とはうって変わって駅舎は伝統家屋風の意匠であり、これまた驚かされた。
いやはや、見れば見るほどに味わい深い地下通路ではないか。数多くのパイプを適切に通すための様々な工夫が、地下通路を芸術品へと仕立て上げている。まさに機能美の塊と言えるだろう。
パイプの行く末を追ってみるのも一興だ
地下通路を眺めているうちにふと思った。これらのパイプは各ホームへと続いているようだが、その先はどうなっているのだろう。
まぁ、さもありなんという感じではあるが、地下通路のパイプは列車の到着を知らせるランプや音声放送などの機器に信号を送るケーブルを通す役割を担っているようだ。
近江塩津駅は複数の路線が発着することもあり、普通の駅よりも多くのパイプが必要になるのだろう。
乗り換え時間を持て余したらパイプを見よう
今回は近江塩津駅の待ち時間において、地下通路を飾るパイプの美しさに気付かされた。コンクリートのトンネルに這わされた幾筋ものパイプには、独特の機能美が見られるものである。
これは近江塩津駅に限ったことではなく、複数の路線が乗り入れる駅ではよくある光景なのだろう。もし乗り換えの際に空き時間が生じた時には、駅構内の通路に巡らされたパイプを眺めることをオススメしたい。待ち時間などあっという間に過ぎ去るはずだ。