撮影:弘田充
田原総一朗と毒蝮三太夫、政治に世相に常に目を光らせBLOGOSで定期的に発言を続けるふたり。田原が87歳で毒蝮が85歳、まさにBLOGOSが誇る長老同士。お互いに少年時代に戦争体験を持ち、戦後日本を昭和・平成・令和とメディアに身を置き歩んできた。今もって現役で活動を続ける両人がBLOGOSレギュラー同士という縁により、初のロング対談が実現。長老同士が老いを超えて語り合う超老対談です。
全5回にわたるロング対談、日本人、戦争、核問題、政治、若者と多岐にわたって語り合ったその最終回は…
現状維持でいい 選挙に行かない若者
編集部)――今の日本の若い世代に対するおふたりの思いもぜひ聞かせてください。
田原 いちばんの問題は、日本は先進国の中でも国政選挙の投票率がズバ抜けて低い。こないだの衆院選で50数パーセント(※55.93%)。こんな低い国はない。なんで低いのか。とくに若い世代。
毒蝮 選挙に関心がない。
田原 これ、若い世代を取材すると日本に対する将来の展望がないんですよ。少子高齢化に地球規模の問題もある。だから将来に夢が持てない。将来を考えたくない。考えるのが怖いから考えない。結果的に今さえよければいい。だからわりと若い世代は自民党支持が多い。
毒蝮 戦争もない、食えることは食える、住む部屋もある、着るもんがないわけじゃない。衣食住は足りている。ただ、さらにもっと、家を建てようとか、いい車を買おうとか、海外旅行も毎年行こうとか、そこまでは稼げない。子育てをしたらますます生活に余裕も持てない。給料が年々上がっていく時代じゃないとわかってる。現状維持。現状維持の中で若者は生きている。
田原 若い世代で自民党の支持率が高い最大の理由は、日本は人手不足で失業率が2.8%と低いこと。失業率が低いから日本は大卒がだいたい就職できる。これが最大の理由だね。
毒蝮 「大学は出たけれど」っていう時代じゃないんだ。
田原 卒業したら仕事がある。
毒蝮 それも自民党の政策ということでなく、少子高齢化という現象でそうなってる。
田原 だけど日本は30年間、経済がまったく成長してない。給料が上がってない。90年代の初め、日本人の平均給与は韓国よりずっと高かった。今はその韓国に抜かれてる。
毒蝮 給料が上がってないから経済も動かない。
田原 世界の企業ランキングが発表されて、日本の1位であるトヨタは世界で29位。2位のソニーが92位。これが1989年は世界のトップ50の中に日本企業が32社も入ってた。世界の1位がNTTだった。
毒蝮 いかに世界の中で日本企業の存在感が落ちたか。あの頃のNTTはどこへ行ったのか。「もしもし、どこに行っちゃったんですか?」って尋ねたら「電波の届かないところにいます」なんて言ったりして(笑)
田原 外務大臣の林正芳さんに会って言ったのは、10年20年後、日本はどうあるべきか、これをちゃんと考えて国民に示してほしいと。というのは、これまで安倍さんたちはどっちかというと国民に説明しないでやってきた。日本が将来どうあるべきか、もっとちゃんと説明しろと。
毒蝮 若い人が政治家の言葉を聞いて、自分の将来を考えるようになるかどうかですね。自分の将来を考えることは、社会の将来、国の将来を考えることにつながる。それが投票行動につながっていく。
田原 アメリカはバイデンを選んだ大統領選の投票率が67%ですよ。やっぱりアメリカ人は政治に非常に関心がある。
毒蝮 アメリカ人は機を見るに敏ですよね。トランプがダメだとなったらバイデン。トランプがいいって人がたくさんいたのに変えちゃうんですから。
田原 だけど今、バイデンの支持率がかなり低いんです。40%を切ってる。なんで低いのか。アメリカ国民から見ると、ちょっとバイデンは頼りないって見えてきてる。
毒蝮 強いアメリカってことをトランプはずっと発してました。強気な発言も強引なやり方もトランプは一貫してた。
田原 トランプはハッキリとしてました。ずっと、グローバリズムが世界の流れになっていた。グローバリズムってのは人や金が国境を越えて世界市場で活躍する。多国籍な巨大企業が世界を覆って、ひたすら利益を追求していった。オバマの時代にますますその流れが加速した。ところがその結果、アメリカは世界一人件費が高い国になっていった。アメリカの経営者は工場をメキシコやアジアへどんどん移して、アメリカ国内では工業地帯が廃墟になっていった。とくに白人が失業だらけ。そこでトランプはハッキリと反グローバリズムを打ち出した。アメリカ・ファーストだと。
毒蝮 非常にわかりやすかった。
田原 それからオバマは黒人大統領ということもあってデモクラシーを大事にした。自分と反対の意見も大事にしたほうがいいと。その結果、何もできなかった。それに対してトランプは反グローバリズム、反デモクラシー、自分に反対するヤツは全部クビだと。実際にどんどんクビにして色んなことを強引に進めた。これがけっこうウケたのね。
毒蝮 熱烈な支持者を生む一方で、反トランプも高まりましたよ。それでアメリカは分断が深まった。だからトランプは一期でひっくり返っちゃった。これ、日本ではありえないでしょう。自民党はそんなにすぐにひっくり返らないもの。アメリカの選挙はすごいなって思います。
田原 トランプは再選されなかった。ひとつ大失敗をした。コロナウイルスの時に、「あんなもん風邪みたいなもんだ」とマスクをしなかった。そうして自分も感染した。しかもホワイトハウスの連中が、トランプに忠誠を尽くすためにマスクをしないで集団感染になってクラスター発生。これがなければトランプは再選されていたと思う。
2歳差で実感が異なる戦争体験
毒蝮 まあ、あらためて若い世代に、俺や田原さんが喋れることって言ったらやはり戦争なんだと思いますよ。人間が生きていくうえで最もあってはならない、最も悲惨なことは戦争以外の何物でもない。俺も田原さんも80代後半、日本が戦争をしていた時代をギリギリ知っている。それを喋れる人も年々少なくなっていくわけです。俺たち以後の世代は、もう実感としての戦争体験を持っていない。俺と田原さんは2歳違いです。それでも随分と体験が違うんですよね。軍国少年だった田原さんは戦争が終わって日本がガラッと変わってしまったことに、なんだ!ふざけるな!って思いがある。
田原 僕らは騙されたっていう意識。さらに2つ上の大島渚や3つ上の篠田正浩、あの人たちは学校で切腹の練習までさせられた。だから僕よりももっと国に対して不信感を持った。大島さんたちは加害者にさせられたっていう意識ですよ。だから国なんか潰しちゃえって。
毒蝮 田原さんの2つ下である俺は、戦争が終わってまず感じたのは、もちろん空襲は二度と嫌だってのもあるんだけど、9歳のガキだからね、チョコレートや砂糖があってヨカッター!っていう思いのほうが強かった。鬼畜米英よりも甘いもののほうが体に染みこむんだ(笑)
田原 小学校の高学年と低学年では、実感が違いますね。
毒蝮 世間から見れば俺と田原さん、2人とも80代のジジイで一緒に括られるかもしれないけど、学年の2年3年の差で戦争への実感は本当に違うんですよね。
田原 住んでいた場所でも大きく変わる。
毒蝮 しかも俺は、マッカーサーの戦後政策の一環で、浮浪児を無くそうってことで作ったラジオドラマ「鐘の鳴る丘」があって、その芝居に子役で受かって舞台に立ったから役者の道に進んだ。そこから今の今までがある。戦争があったからこうなったという自分が現にあるんです。戦争と言ってもその人の置かれた立場で十人十色。それも含めて若い世代には戦争を知ってもらいたい。
田原 戦争をしないために戦争を知る。