by Jorge Díaz
日産の自動車「サニー」をベースに製造されたメキシコ仕様車「ツル」は、コスト上の問題から26年間一度もモデルチェンジが行われないまま2017年に生産が終了しました。しかし、エアバッグやアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)未搭載のこの車は2022年時点でもメキシコでタクシーとして愛用されています。なぜツルがメキシコで使われ続けているのか、旅行を題材に扱うメディアのAtlas Obscuraが解説しています。
Taxi Drivers in Xalapa Are on the Job in One of the Most Dangerous Cars Ever Made – Atlas Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/tsuru-mexico-taxi
ツルが多く集まるのは、メキシコ・ベラクルス州の州都ハラパです。人口75万人の広大な丘陵都市であるハラパは特殊な交差点や複雑な路地が存在する地域ですが、それをいとわないタクシーが住民の足として大いに活躍している地域でもあります。地元住民から「救急車よりも速い」と言われるほど信頼され、住民にとって不可欠な存在となっているタクシーですが、ここ数年経済や政策、パンデミックといった数々の苦境に直面しています。
by Shoshanna B
2004年、ベラクルス州の州知事が交代したことにより、これまで発行部数が限られていたタクシー免許が解禁されて、より簡素化されたプロセスで広く一般に取得されるようになりました。これによりタクシードライバーの数が十数年で1万7000人から7万5000人に急増し、市場が飽和状態に。ハラパに限っても、タクシーの総数はイエローキャブで知られるタクシー都市・ニューヨークに並ぶほどに増加しましたが、ハラパの人口はニューヨークのわずか10分の1未満であり、明らかにタクシー台数が過剰な状態です。
このような市場の中でタクシードライバーは日々の賃金に悩まされています。タクシーの運賃は地方政府によって設定されていますが、この価格が頻繁に更新されることはないため、価格変動が激しいガソリンの高騰による影響を大きく受けてしまいます。また、タクシー協会や組合に支払う費用を鑑みると出費の方が高くなることもあり、現地のドライバーが「仕事をせずに家にいるだけの方がお金がかからずに済む」と語ることもあるほど。
コスト上の問題から、ベラクルス州ではタクシー車として低価格な「ツル」が流通しています。ツルは1984年に導入された4ドアセダンで、コストを抑えるためにクラッシャブルゾーンの保護やエアバッグ、ABSなどを排した設計になっており、1991年を最後にモデルチェンジが一度も行われていません。信頼性と修理の容易さから、メキシコでは大衆車として名高いビートルを抜く240万台のツルが販売されましたが、消費者保護団体による衝突試験をきっかけに自動車の安全基準が見直されることに。これまで流通を重視し、基準を曖昧にしてきたメキシコ政府が重い腰を上げた結果、日産が2017年5月にツルの生産を終了させることとなりました。
by dave_7
安全性の問題が取り沙汰されたツルですが、ドライバーにとって第2の家とも呼べる車としては非常に信頼され、長年メキシコで愛されたモデルでもありました。地元ドライバーのオスカー・オルテガ氏はAtlas Obscuraのインタビューに対し、冗談めかして「ツルは安い?はい。ツルは信頼できる?はい。ツルは安全?絶対に違う」と答えたとのこと。地元でハラペーニョ店を営むマウロ・ロドリゲス氏もツルを称賛し、次世代車として店の前を通り始めた日産・マーチやシボレー・スパークを「ちゃんと動いてもくだらない・・・・・」と評しています。
「同じ車を10年以上タクシーとして使うことはできない」という新たな法律により遅くとも2027年には消えてしまうことが決まっているツルですが、それでもメキシコのタクシードライバーにはまだ使用され続けています。Atlas Obscuraは「数々のドライバーとの愛情が育まれたツルは、仕事中を除き、すぐに目の前から消えてしまうことはないでしょう」と記しました。
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