こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
ロボマート(Robomart)は、「店舗呼び寄せ」、すなわち顧客がアプリのボタンをタップすれば、少額の手数料でバン型店舗を呼び出す機能を実現しようとしている。
同社は1月16〜18日に開かれた全米小売業協会(National Retail Federation)の展示会において、このワンタップで呼び出しとチェックアウトを行えるプロセスに関する特許を取得したと発表した。これによってこのプラットフォームは今年、LAのウェスト・ハリウッドで行われた招待者限定の試験的なプログラムから、LA全域でモバイル店舗を貸し出すブランド向けのサービスプロバイダに成長することを望んでいる。
Advertisement
パンデミックにより店舗でのショッピングが困難になったことで、各ブランドは、屋外のショッピング空間や移動式ポップアップなど、新しいバージョンの実店舗を提供する方法を探し求めてきた。しかし、米モダンリテールのインタビューを受けたアナリストたちは、ロボマートのようなプラットフォームが増えていくかどうかに懐疑的で、配車サービスアプリやウーバー(uber)のような迅速な配送モデルの収益性の課題と、同様なモデルが立ち上げに失敗したことを指摘している。
車両とアプリと決済機能を提供
ロボマートのアプリのユーザーは、2〜5ドル(約228〜570円)の料金を支払えば、店舗を自分のいる場所に直接呼び出すことができる。ロボマートは自ら店舗からの仕入れを行わない。その代わりにブランドや小売業者が1つ以上の移動式店舗を借り、どの商品をどの価格帯で仕入れるかを決める。ロボマートは車両を提供し、サービス用の人員を配置し、自社のアプリとチェックアウト技術で取引のバックエンドを処理する。現在のところ、ロボマートのレンタル契約は最短で1年間だ。食料品や、スナック、医薬品、カフェ、アイスクリーム、ファーストフードと、ブランドのタイプに合わせて6種類のモデルがある。
ロボマートのCEOを務めるアリ・アハメド氏は次のように述べている。「小売業者には、ロボマートを自社店舗の延長だと考えてほしい。これは小売業者にとっての新しい小売チャネルだ」。
顧客は呼び出し料金と、購入する品目の価格だけを気にすればよいと、アハメド氏は語る。「ドライバーは乗っているが、窓は着色されており、利用者はドライバーと会話しない。すべての取引はロボマートのアプリで行われるため、チップも、追加のサービス料金も支払う必要がない」。
ゴーストキッチンのリーフと提携
ロボマートは、ウェスト・ハリウッドでの試験運用では、ゴーストキッチン企業であるリーフグローバル(Reef Global)と提携し、ポテトチップスやキャンディなどのスナックを販売した。リーフはベンチャーキャピタル資金で15億ドル(約1710億円)を調達し、ウェンディーズ(Wendy’s)やバーガーキング(Burger King)などの大手レストランチェーンとパートナーシップを締結したが、メディアのレポートによると、同社は最近になって複数の都市で保健所の検査にひっかかり、いくつかの食品安全検査で不合格になった。また、リーフはロボマートにとって実験以外で提携する最初の小売業者であり、今年中にはLA広域にいくつもの食料品とスナックの店舗を開設する予定だ。
リーフは今回の実験でロボマートのスナックと医薬品用のモデルを使ったが、ロボマートのほかのモデルは、棚や冷却、保管の容量がそれぞれ異なっている。アハメド氏によると、ロボマートは、これらのモデルを今年試用する「さらにいくつかの小売業者」を近々発表する予定だ。
実験では、注文から購入の終了までに平均9分間を要し、ユーザーは平均して週に2回このサービスを使用した。しかし、ユーザーは招待制となっていた。
ロボマートは今年、LA全域での展開を予定しており、アハメド氏は「今後5年間」に米国の「すべての主要な都市」への展開を期待していると述べている。
ハイパーコンビニエンスの問題
スピーディな配送とアプリを使ったサービスに重点を置くロボマートは、ウーバーやリフト(Lyft)などの配車サービスと、ゴーパフ(Gopuff)やゴリラ(Gorillas)のような超高速配送アプリが交差する場所で事業を展開している。これらのモデルは、ハイパーファスト、ハイパーコンビニエンスの顧客向けサービスの次の波が約束され、結果として収益性を証明する前にベンチャーキャピタルから大量の資金を勝ち取ることができる。
カンターコンサルティング(Kantar Consulting)のシニアバイスプレジデントを務めるデイブ・マルコッテ氏は、「現在のキャッシュが豊富な環境」で次の新しいビジネスを求めているベンチャーキャピタルにとっては魅力的なモデルかもしれないが、ベンチャーキャピタルが支援する小売のコンセプトは、実際のビジネスモデルに移行する段階でしばしば破綻してしまうことがあると述べている。
マルコッテ氏は次のように述べている。「燃料や充電のコスト、ドライバーとオペレーター、およびサポートインフラと供給コストのことを考えると、販売できる商品は、衣料品のように高価格で利ざやの大きいものか、食料品のように利ざやの小さくても大量販売できるものに限られる。仮にコストが劇的に低下しても、ROI(投資収益率)を達成するために必要な数量を生産できるビジネスモデルにはなりにくいのだ」。
アハメド氏は、ロボマートに複数の収益源があるため、「このモデルは我々にとって極めて収益性の高いものになるだろう」と主張する。
「当社は消費者からの呼び出し料金があり、小売業者からはロボマートを予約するためのアクティベーション料金や継続的な手数料があり、さらに広告もある」と同氏は付け加えている。
またアハメド氏は、ロボマートのモデルは注文を梱包する必要がないため、出発前に消費者から注文された商品を梱包する必要がある配送サービスよりも短時間で消費者のところに到達できることも指摘している。
利便性・柔軟性の高さを求めるリテーラーたち
コアサイトリサーチ(Coresight Research)のグローバルリサーチ責任者を務めるジョン・マーサー氏は、このモバイルストアのモデルは新しいものではないと、電子メールで語った。マーサー氏は、2018年に出現した、消費者のもとへ自動的に移動する上海の自律型モバイル食料品店のコンセプト、モビーマート(Moby Mart)を指し示した。
「そのコンセプトが5年後に、今度は生活必需品と選択的消費物資の両方の小売で戻ってきた」とマーサー氏は述べている。
これらのモデルは、収益性・持続可能性の観点から規模を拡大することに問題があると思われる。しかし、マーサー氏は、消費者がより便利なサービスを求めていると確信している。「食料品やコンビニエンスストアなどのような生活必需品の小売業者にとって、このモバイル店舗のモデルは、消費者が期待しはじめているハイパーコンビニエンスを反映したものだ」と、同氏は述べている。
さらに、パンデミックのあいだ、ブランドや小売業者は、モバイル空間や柔軟性のある実店舗のコンセプトへの関心を高めてきた。たとえば昨年は、ボノボス(Bonobos)やクルー(Krewe)などのブランドが、移動式ショールームを採用した。一方でクヤナ(Cuyana)は、迅速に設置と取り外しができるいくつかのポップアップを開発するため、トヨタ(Toyota)の研究機関であるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(Toyota Research institute)と提携した。新型コロナウィルスによる行動制限が緩和され、国内のさまざまな小売地域がそれぞれ異なる速度で回復するなか、モバイル店舗は柔軟性の高さを提供することができる。
それでも、店舗の機能はここ数年で進化しており、消費者はロボマートのようなサービスが提供する利便性だけを重視しているのではないと、マーサー氏は主張する。「より重要なのは、ブランドを体験できることだ」。
[原文:Robomart offers shoppers a chance to ‘hail’ stores in the next wave of hyper-convenience]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Robomart