欧州委の決定にオーストリア提訴へ

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オーストリアは中立主義を国是としていることもあってその外交も口角泡を飛ばして激しい議論を展開させるというより、静かに関係国の議論の行方を見ながら立場を表明する傾向があるが、今回ばかりは例外だ。オーストリアが先頭になって反論を展開し、裁判も辞さない強硬姿勢を見せているのだ。

オーストリアのゲウェッスラー環境相(オーストリア環境省公式サイトから)

EUとオーストリアのエネルギー源(Eurostatから)

欧州連合(EU)の欧州員会は2日、条件つきだが「天然ガスと原子力を気候に優しいエネルギー」だとグリーンラベルを付け、投資対象の基準となる「EUタクソノミー」の最終案を加盟国27カ国に提出した。欧州委は昨年12月31日、既に草案を加盟国に送付し、加盟国からの意見や反論を配慮したうえで今回最終案をまとめた。欧州理事会と欧州議会が4カ月以内に拒否しない限り、同最終案は来年初めには施行される予定だ。

世界でも珍しい「反原発法」を施行するオーストリアは原発をグリーンエネルギーとし、民間の投資を募る今回のEUタクソノミーに強く反発し、同国のゲウェッスラー環境相(「緑の党」)は同日、記者会見で、「欧州委の決定は間違いだ。原発ロビーの願いを満たすものに過ぎない。地球温暖化に直面している今日、再生可能エネルギーを促進しなければならない時に原発をグリーンエネルギーとみなせば、脱炭素化を目指す再生エネルギーの促進を妨げることになる」と説明、「数週間以内に法的措置を準備し、欧州司法裁判所(ECJ)に決定の撤回を求めて訴訟を始める意向だ」と述べている。

問題は、オーストリアと連携して欧州委の決定に反対する国が今のところルクセンブルクだけという事実だ。EUタクソノミーに批判的なドイツ、デンマーク、ポルトガル、スペインは現時点では静観している。オーストリアがいくら大声で吠えても訴訟で勝利する見通しは現時点では限りなくゼロに等しい。

ちなみに、ドイツの副首相兼経済・気候保護相のロベルト・ハーベック氏(「独「緑の党」党首)は欧州委の分類法を拒否し、「私たちは、分類法に原子力エネルギーを含めることは間違っていると繰り返し主張してきた」と自説を述べたが、ショルツ連立政権は公式にはまだ何も表明していない(「『脱原発・脱石炭』のドイツの近未来」2022年1月2日参考)。

オーストリアが欧州委の原子力エネルギーにグリーンラベルを与える決定に強く反発する背景についてはこのコラム欄でも数回紹介した。オーストリアは原子力発電所を建設し、完成したことがある。オーストリアのニーダーエスタライヒ州のドナウ河沿いの村、ツヴェンテンドルフで同国初の原子炉(沸騰水型)が建設された、同原子炉の操業開始段階になると、国民の間から反対の声が出てきたため、クライスキー政権(当時)は1978年11月5日、国民投票の実施を決定した。同政権は国民投票を実施しても原子炉の操業支持派が勝つと信じていたが、約3万票の差で反対派(50.47%)が勝利したのだ。その結果、総工費約3億8000万ユーロを投資して完成した原子炉は博物館入りとなった。その後、“ツヴェンテンドルフの後遺症”と呼ばれる現象が生まれてきた。すなわち、原発問題をもはや冷静に議論することなく、オーストリアは反原発路線を「国是」としてこれまで突っ走ってきた。アルプスの小国は「反原発法」を施行し、欧州の反原発運動の主要拠点となっていった経緯がある(「オーストリアの『反原発史』」2011年4月26日、「『ツヴェンテンドルフ原発』の40年」2018年11月7日参考)。

同国のファン・デア・ベレン大統領は、「今回の決定により、欧州委員会は資本市場に間違ったシグナルを送った。原子力は持続可能でも安全でもない。原子力発電にグリーンラベルを付けるという決定は危険な技術への投資を誘発することになる。今、将来に向けて正しい方向性を設定する必要がある」と述べている。ネハンマー首相は欧州委の発表に失望を表明、ブルナー財務相は、「分類法規制に関する欧州委員会の決定は遺憾だ。オーストリアの立場は当初から明確だ。原子力発電をグリーンに分類する決定は、生態学的にも経済的にも持続可能ではない」と強調している、といった具合だ。オーストリアでは政府、野党、非政府機関は反原発路線では完全に一致しているのだ。

欧州委員会は、分類法を通じて2050年までにヨーロッパの気候中立性を達成するために民間企業にどの投資がその目的に貢献するかを知らしめることが狙いだ。EUの計算によると、気候中立を達成するためには毎年3500億ユーロの民間投資が必要となる。マクギネス欧州委員(金融サービス担当)は分類規則を、「個人投資家のためのガイドであり、EUのエネルギー政策手段ではない」と強調している。

欧州委の最終案によれば、新しいガス火力発電所への投資は、2035年までに水素などのより気候に優しいガスで完全に稼働する場合、2030年まで持続可能であると見なされると規定している。原発については、遅くとも2050年からの放射性廃棄物の処分に関する具体的な計画があれば、新しい原子力発電所は2045年まで持続可能なものとして分類されることになっている。

EU加盟国ではフランス、ブルガリア、クロアチア、ルーマニア、チェコなどは欧州委のタクソノミーを歓迎している。特に、フランスは電力の約70%を原子力エネルギーで賄っている。フランスは「気候中立は原子力発電でしか達成できない」と常に強調してきた。

なお、欧州委が原発をグリーンエネルギーと分類したとしても、新しい原発建設には時間がかかる一方、世界の金融界は「新しい原発建設はリスクが高い」として投資を控える傾向がある。そのため、フランスの場合でも政府が巨額の補助金を投入する必要があるという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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