ゲノム編集食品にリスクはあるか – 山崎 毅(食の安全と安心)

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 ”リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回は昨年ついに国内でトマト・マダイ・トラフグの上市が実現した「ゲノム編集食品」のリスコミについて解説したいと思います。新たな遺伝子技術を応用した食品に関して、もともと食経験がありませんので、不安を感じる消費者市民がいて当然なのですが、実際そのリスクはどの程度なのでしょうか。我々が2018年に開発したスマート・リスクコミュニケーションを、「ゲノム編集食品」に適用しましたので、以下をご参考としてください。

登場人物:
<C>:消費者市民、<R>:リスクコミュニケータ(食品安全に関する有識者)

<R> 「ゲノム編集食品」はできれば食べたくない、と考える理由は何でしょうか?
     市民の皆さんの不安要因をお伺いします。

① ゲノム編集では、将来想定外の毒性があらわれるかも?
<C1> 遺伝子を切ったりした食品だと、何が起こるかわからないよね。想定外の毒性があらわれる可能性を否定できないのでは?
<R1> 遺伝子を操作した食品ということでご不安なのは理解できます。
 「ゲノム編集食品」では農作物や魚類などの狙った遺伝子を切ることで、よりよい品種を効率よく作り出すことができますので、「スーパー育種」とか「高速品種改良」などと呼ばれます。すなわち「何が起こるかわからない」、「毒性が出るかもしれない」のは、むしろ遺伝子をランダムに切る従来の品種改良といえます。それでも毒性が発現することがめったにないのは、もし万が一毒性のある品種ができても、その過程で選抜され最終的に選択されないからです。
 よりピンポイントで遺伝子を切る「ゲノム編集食品」では、ターゲットの遺伝子変異により何が起こるのか、研究者にとってはむしろわかりやすいと言ってよいでしょう。

② 人工の農作物より天然の農作物が安全?
<C2> 遺伝子を切った人工の農作物と天然の農作物を比較すると、天然が安全と思うけど・・
<R2> 天然/自然の方が安心というのは、よく理解できます。うちの母親もそう言っています。
 ただ、GM/ゲノム編集など人工的に手を加えた農作物と天然の農作物を比較すると、一見「天然」が安全そうに思えますが、食品安全の専門家にとってはむしろ逆です。GMであれゲノム編集であれ、人工的に品種改良された農作物は、天然の野生種よりむしろ安全性を高め、味や収量も著しく改善しているので、天然より人工の農作物の方が安全性面でも優れているだけでなく、人類の食文化に大きく貢献してきたのは間違いありません。また皆さんが天然と思っている普通の農作物も、実際は従来の品種改良により人工的にその遺伝子に手を加えられたものばかりというのが、まぎれもない事実です。

③ 遺伝子組換え作物(GM)と同じなら安全とはいえない?
<C3> 遺伝子組換え作物(GM)は動物実験で発がん性が報告されたとか、GMを食べる地域では奇形の子どもがよく生まれるといった論文情報をきいたことがある。「ゲノム編集食品」も遺伝子を操作するなら同じではないかと思うから。
<R3> GMの危険性をうったえるビデオやネット記事で不安になられたのは、理解できます。GMを栽培している地域では奇形が多いとか、因果関係はあるんですかね?
 「GMを食べると将来何が起こるかわからない。発がん性や遺伝子毒性が心配だ」、などというフェイクニュースがインターネットや市民公開講座で蔓延しており、これらはすべて科学的根拠のない誤情報です。残念ながら、このような怪しい情報を流布している方々は、自分たちが販売する非遺伝子組換え食品の安全性を強調するために、競合品が危険だと強調する視覚的マーケティングを展開しています。食品安全の専門家は、遺伝子組換え食品/ゲノム編集食品と非遺伝子組み換え食品を厳密にリスク比較した結果、その安全性に差はないと明確に回答しています。
<参考> 食の安全・安心Q&A 「遺伝子組換え作物の安全性について」

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